幼馴染の婚約者聖女が勇者パーティー追放されたから、俺も一緒に離脱する事にした。

古森きり

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『ゼイブのダンジョン』【後編】

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「なんで避けるの!? あなた攻略対象でしょ!? 私を助けにきてくれたんじゃないの!?」
「いや? それに君を助けたのはセレーナだろう?」

 魔物を一撃でぶっ飛ばしたのはセレーナであり、俺ではない。
 むしろ俺、まだまともに戦闘シーンがないような……?
 気のせいか。

「な、なに言ってるのよ……ねえ、もういい加減ゲーム通りになって? ここ、ゲームの中でしょ? なんでストーリー通りにしてるのに、上手くいかないの? サカズキたちまでパーティーから離脱するなんて、そんなイベントなかった……! なにが起きてるの? なに? アップデート? 続編? ねえ、なんなのこれ、なんで……」

 俺には言葉の半分も分からない。
 ただ勇者殿が混乱しているようには見えた。
 頭を掻きむしり、金切り声にも似た悲鳴。
 床を殴ったり叫んだり……かなり情緒不安定になっているな。
 しかし、そうか……サカズキ殿たちも彼女にはついていけなかったのか。
 まあ、そうだろうなぁ。

「…………ここは異世界ですよ、ユイ様」
「……え?」
「ここはゲーム『アクリファリア・シエルド』の中ではありません。異世界『アクリファリア・シエルド』です。ゲーム『アクリファリア・シエルド』と名前も世界観も、そして生きている人々も同じですが……ゲームの中ではないのです。私もこの世界に生まれ変わった時は驚きました」
「……生まれ変わった……?」
「はい。私は転生者なのです。乙女ゲーム『アクリファリア・シエルド』もプレイした事があります。……だから最初はすごく驚きました。『ゲームでプレイした世界に転生した』、『ゲームの登場人物になれた!』……って、喜んだりもしました。……でも、ゲームのストーリーを知っているからこそ、『セレーナ』になってしまった事は少しだけ悲しくて……けれどライズと幼馴染になれた事は本当に幸福で……ゲームの通りに進むのが悲しかった」

 裏切って、裏切られて。
 その結果が君との別れなら、俺はストーリーを変える事になんの抵抗もなかった。
 師匠との出会いも、セレーナの未来を変えるのに必要な事だったと今なら分かる。
 セレーナは前世の記憶を取り戻した事で、運命を変える力を得たのだ。
 だから……。

「セレーナ」
「……」

 肩に手を置くと、振り返ったセレーナが微笑む。

「……ゲームの中だから、ストーリーを変える事は出来ないのだと思っていた。でも、違った。ここはゲームの世界『アクリファリア・シエルド』ではない。異世界『アクリファリア・シエルド』なのです。……自分の選択によって運命は変えられる。そして、死んだら生き返らない」
「えっ……」
「ゲームでは泉議会室ドル・アトルで蘇りますが、ここはゲームの世界ではありませんから普通に死を迎えるんです。……あなたが無事で……間に合って……本当に良かった……!」
「…………」

 セレーナの言葉をようやく信じたのか、セレーナが手を握ると勇者殿は目を見開いて顔を青くした。
 それもそのはず、セレーナの体は震えていたのだ。
 知らずに死んでいたら……そう考えると恐ろしい。
 ゲームならば泉議会室ドル・アトルで蘇る、というのも……俺はそちらの方が信じられないのだが。

「…………本当に、ここは……ゲームの中じゃ……ないの……?」
「……はい」
「…………」

 セレーナが答えると本格的に震え始めた勇者殿。
 その瞬間、俺の手の中にあった聖剣が強く光輝き出す。

「えっ」
「聖剣が!?」
「いや……いや! それなら嫌よ! 帰して! こんな世界に、いたくない!」
「ユイ様!?」
「元の世界に帰してーーーー!」

 カッ、と聖剣がさらに光る。
 眩しい、ダメだ……!
 目が開けていられない……!?

「…………っ」
「………………な……に? 今、の……ラ、ライズ? タニア? 大丈夫……? ……? ……ユイ様!?」
「!? いない!?」

 消えた!?
 聖剣も……手に持っていたはずなのになくなっている!
 これは一体……なにが起きたんだ!?

「……もしかして、元の世界に……?」
「帰還させられた? のか……? ……では、聖剣は……」
泉議会室ドル・アトルに、戻ったのかしら? ……それじゃあ、新たな勇者を召喚しようと……?」
「…………。……泉議会室ドル・アトルには、どのみちこのあと行くつもりだ。確認してみよう」
「そ、そうね。……新たな勇者を、召喚しているかもしれないものね……」

 そこまで話してから、思わず顔を見合わせて押し黙る。
 勇者ユイが消えた。
 そして、聖剣が消えた。
 勇者の偉業は、そして俺たちが密かに願っていた勇者による世界の町の統合は……振り出しに戻ったのだ。
 こうなると本格的に泉議会室ドル・アトルに世界中の大型結界石を集めるという無茶な提案を 八大型主町エークルーズに実行してもらう力が……俺にしかないという事に……。

「ヨルドに負けたら終わりじゃない?」
「負けないから大丈夫だ」

 なんにも問題はない。
 さて、いざ行かん泉議会室ドル・アトル


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