落第したい聖女候補が、恋を知るまでのお話

古森きり

文字の大きさ
1 / 21

野蛮系聖女候補爆誕【前編】

しおりを挟む

「ルウ! ルウ! どこへ行った! ルウ!!」

 木の上で叫ぶ村長をやり過ごす。
 しゃり、とりんごをひとかじり。
 まったくうるさいったらない。
 確かには親なしだ。
 村の人たちに育ててもらった。
 だけど、いくら村の金がないからって王都におれを売ろうなんざひどすぎるわ。

「……はぁ、おれが聖女なんてがらかっつーの」

 精霊と心通わす聖女様がお亡くなりになって早五年……この国は精霊離れが起きている。
 以前の聖女はなんと150歳の大往生。
 精霊の加護というやつで、人間三人分の寿命だったそうだ。
 まさに奇跡だよな。
 まあ、おかげで新しい聖女探しは困難を極めているらしい。
 貴族の女たちを集めて行われていた聖女探しは、一年、二年と失敗が続き、三年目からは王都付近の町などまで神官たちが見目の良い娘を候補として集め始めた。
 しかしそれでも聖女は決まらない。
 さらに範囲と見た目の評価がゆるめられ、今年はついに、こんな田舎まで声がかかるようになったというわけだ。
 なぜか年齢は二十歳前後の娘と定められており、さらにその中でも未婚に限られる。
 未婚……というか、処女。……なんか精霊が好むからだとか聞いたけど、どこまで本当かは分からん。
 貴族の娘が聖女候補になるのは究極の二択だったんだろうが……まあ、そんな娘は国全体を探したってとにかく稀だろう。
 平民だって二十歳で未婚なのは滅多にいないからな。
 おれのように男勝りが過ぎて、貰い手がねぇんなら話は別だが!

「ルウ! 見つけたぞ!」
「げ!」
「げっ、ではない! 降りてこい! この穀潰しが! 育ててやった恩を返せ! 王都の大神殿から迎えがきてるんだ! 観念してさっさと行かんかぁああっ!」
「っ……!」

 わらわらと村の奴らが集まってくる。
 その表情は、皆一様に困り顔だ。
 くそぅ、おれがそういう顔苦手なのわかってて……!

「あぁもおおぉ! わぁったよぉ!」

 ……おれの名はルウ。
 親はおれが赤子の時に病で死んだ。
 村の奴らがおれをここまで育てた。
 この村は女の方が多いが、二十歳で未婚はおれだけだ。
 他の女は他の村に嫁に行ったりしている。
 売れ残ったおれは、村のために王都の大神殿に行く事にした。
 聖女がいなければ精霊が働かず、実りが減る一方なのだ。
 精霊は人の目に見えないが、人が魔力を差し出して水を頼めば水の精霊が水を出してくれる。
 火をつけて欲しいと魔力を差し出して頼めば、火をつけてくれる。
 そんな存在。
 当然、それは信仰の対象。
 しかし、それも聖女が国にいて初めて与えられる恩恵だったのだ。
 150年という間、人々はその当たり前になっていた恩恵を恩恵だと思わなくなっていた。
 思い出させたのは、聖女の死。
 おれたちは聖女と精霊のありがたみを──もっとちゃんと思い出さなければならなかったのだろう。

 がたん、ごとん。

 生まれて初めて乗った馬車は荒れた道を進む。
 あの村にはおれしか二十歳の未婚女はいなかった。
 神官という男と女が目の前に座り、おれは窓の外を眺める。
 村長たちの、悲痛な顔を思い出す。
 精霊離れのおかげで、田舎の村は作物が育たなくなっていた。
 まるでおれなんかが一縷の望みと言わんばかりだ。
 だが、本当はみんな分かってる。
 おれなんかが聖女になれるわけねぇんだ。
「観光だと思って。土産はいらんからな」なんて言いやがって。
 言われるまでもねぇっつーの。
 そんな金ねぇんだからよぉ。

「ルウ様」
「様はいらねーよ、どーせすぐ落ちて帰ってくる事になるんだからよぉ」
「そうでしょうが、王都も近くなって参りましたので、聖女選定に関して流れの説明致します」
「…………」

 王都に近づいたある日、ようやく澄まし顔の女官が馬車の中で口を開いた。
 それまでは一切話しかけてこなかったのに。

「まず、聖女候補は身を清めたのち精霊界に通ずると言われる水晶に触れ、精霊騎士を召喚して頂きます。精霊騎士を召喚出来なかった場合、その時点で聖女の資格なし、となり、即お帰り頂けます」
「へー」

 耳から抜けるような説明。
 というより、この女官はまずおれが精霊騎士を召喚出来ると思ってねぇな。
 まあ、おれも出来ると思わねぇからこりゃあとんぼ帰り出来そうだ。

「万が一召喚出来ましたら、精霊騎士と共に聖女になるための試験を受けて頂きます。試験内容に関しては、精霊騎士を召喚出来た者のみ知る事になりますので……この場では差し控えます」
「へーい」

 おれには関係ねぇってこった。
 話半分。
 おれの態度に、隣の男神官は明らかにがっかりした様子。
 いかにも「なんでこんな奴が候補なのか」と言いたそうだ。
 おれが知るかっつーの。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。

黒猫とと
恋愛
王都西区で薬師として働くソフィアは毎日大忙し。かかりつけ薬師として常備薬の準備や急患の対応をたった1人でこなしている。 明るく振舞っているが、完全なるブラック企業と化している。 そんな過労薬師の元には冷徹無慈悲と噂の騎士様が差し入れを持って訪ねてくる。 ………何でこんな事になったっけ?

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

ソロキャンする武装系女子ですが婚約破棄されたので傷心の旅に出たら——?

ルーシャオ
恋愛
ソロキャンする武装系女子ですが婚約破棄されたので傷心の旅に出たら——? モーリン子爵家令嬢イグレーヌは、双子の姉アヴリーヌにおねだりされて婚約者を譲り渡す羽目に。すっかり姉と婚約者、それに父親に呆れてイグレーヌは別荘で静養中の母のもとへ一人旅をすることにした。ところが途中、武器を受け取りに立ち寄った騎士領で騎士ブルックナーから騎士見習い二人を同行させて欲しいと頼まれる。 そのころ、イグレーヌの従姉妹であり友人のド・ベレト公女マリアンはイグレーヌの扱いに憤慨し、アヴリーヌと婚約者へとある謀略を仕掛ける。そして、宮廷舞踏会でしっかりと謀略の種は花開くことに——。

処理中です...