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第三の試験
しおりを挟むだが、驚くのはまだ早かったと思い知る。
そんな、拍子抜けの第二試験の次の日——。
「では第三の試験を行う。今日の試験は精霊騎士を跪かせるだけではなく、頭を下げさせ、手の甲に口づけをさせる。絶対の忠誠を誓わせるのだ!」
(…………は?)
……である。
こいつらはなにを言っている?
忠誠を、誓わせる?
忠誠って誓わせるもんじゃなくね?
なんで相変わらずずっとこっちが偉そうなの?
「始め!」
神官が叫ぶと、残っていた他の九人の聖女候補たちが必死な形相で騎士たちを振り返る。
うわ、なにあれこわ。
「…………」
「あ、お前はやらなくていいよ」
「?」
なんか勝手に一人でしゃがんだノワールに対して横に手を振る。
そんな事、なんでしなきゃならねーんだよ、なあ?
「忠誠ってさ、誓わせるもんじゃねぇじゃん。出会って三日程度のやつのなにが分かんのって話だろ? だから無理してやんなくていいって事」
「…………」
仮面の奥の瞳が細まった。
ノワールは、多分仮面を取れば相当に整った顔なんだろうな、と思う。
まあ、だからっておれには関係ないんだけどさ。
「あ」
やめろ、と言う前に……というかしなくていいって言ったのに、ノワールは勝手に片膝を立てて俺に頭を下げた。
騒つく広場。
うっ、視線が痛い……!
「!」
そして、ノワールはそれだけでなくおれの左手を取ると手の甲に口づけまでしたのだ。
なんで! い、いや、ちょっと待て!
「なんっ!」
「我が主、貴女に忠誠を誓います」
「お、おい!」
ばっ、と左を見て、ばっ、と右を見る。
他の候補たちはまだ、誰一人騎士を跪かせてすらいない。
金色の髪の綺麗な女が、他の候補たちとは比べ物にならないほど凄まじい顔でおれを睨んでいて背筋が冷えた。
なんだ、あの女。
「ぐぎぎぎ……またあの田舎女か……! まだ従えられないのか!」
「今従わせます! 早くわたくしに跪くのよ! そして手の甲に口づけして! 早く!」
……なんだろう、あの神官と知り合いなのかな?
せっかくの美人なのに怖い顔して騎士に怒鳴りつけ、自分よりも上にある騎士の頭を鷲掴みすると力ずくで地面に跪かせた。
え、引く……。
「ジェニファ! 乱暴はさすがにやめなさい」
「このくらい、問題ありませんわお父様」
親子かよ!
「さあ、騎士、わたくしの手に忠誠の口づけを」
「…………」
白い騎士が困ったような顔をして差し出された手の甲に唇をつけるのを、おれは相当「うえっ」という顔で見ていたのだろう。
なぜか女がおれの方を「ドヤ!」と見てきた時、おれの表情を見て「イラ!」という表情に変わったから。
でもそりゃ仕方ねぇだろう。
なんだあれ、なんだあいつ、絶対頭おかしいぞ。
これがこの国の偉い奴らなのか? マジか。
精霊は感謝する対象で、従わせるような存在ではないはずだ。
平民庶民にそう教えているのは教会の奴らだ。
なのに、教会の奴らはそうじゃねぇのか。
そいじゃねえんだろう。
そうだったら、あんな事しねーしこんな事させねーだろう。
他の候補の精霊騎士たちも、だいぶ仕方なさそうに跪いて手の甲に口づけをしている。
なんでだろう。
嫌ならやらなきゃいいだろうに。
「全員合格だな。では、また明日次の試験を行う。明日からはより高度な指示を精霊騎士に出す事となる。しっかりと制御するように」
なんか知らんが満足そうに言い放ち、最後におれの方を忌々しそうに眺めてでっぷり神官は去って行った。
というかあの赤毛の子以外、他の候補たちの視線もツンツンしてる。
こんな田舎者が三つも試験に残り続けたのがよほど信じられないのだろう。
おれだって早く帰りたい。
帰れると思ってた。
でも絶対おれが残ってるのは、お前らが残念だからだと思うぞ。
ま、言わねーけどさ。
「なんか思ってたのと違うな……」
「?」
ノワールに愚痴っても仕方ない。
それに、おれはどうせ聖女なんてがらじゃねぇ。
これから試験はどんどん難易度が上がるんだろう。
明日あたり失格になって村に帰れるかも。
……あ、そういえば……。
「お前、試験が終わったらどうすんの?」
「精霊界に戻るかと思います」
「そうなのか。……なんかさぁ、早く帰れるといいなぁ、お互い」
「主は早く帰りたいのですか」
「だってなんかココおかしいじゃん。おれの常識が通じないっていうかさぁ」
「そうですか」
あんま興味なさそうだな。
ノワールはあの神官や他の聖女候補を見てなんにも思わないのだろうか?
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