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デート(2)
しおりを挟む「なので、貴族への嫁入りは勧めない。南部全体の国がそうだ。君の研究は自分自身の生活に関わる重要なものなのだろう? 研究を続けたいのなら王族籍がある者に嫁入りすべきだ。俺か、俺の弟か。ただ、三男のムーダは考え方が父によく似ているから、王族の妻といっても女が研究をするのをよくは思わないだろう」
「……!!そ、そう、なのですか……」
知らなかった。
そういうのって平民女性だけなのかと思っていたら、貴族もなの!?
嫁ぎ先の国がどこになるかわからないから、決まりそうになったら旦那様候補と結婚後の話をした方がいいのかと思っていたけれどちゃんと調べておけばよかったーーー!
だって本当にどこに嫁ぐかわからなかったんだものーーー!!
北の方は国自体がないから、それなら南の方かなって思っていたら……そんなつらい環境だったなんて……!
「幻魔石にどうするつもりなんだ?」
「えっと、薬品を浸して付与紋を刻むと薬品効果を付与できることがあるそうなのです。まだ本格的に幻魔石の勉強は始めたばかりなのですが、アレルギーの原因である抗体の過剰反応を抑える薬ではなく、幻魔石魔術で作り出せないものか考えております」
「その、アレルギーというのはフィエラシーラ姫以外にも発症するものなのか? 病、というか、聞く限り病と少し違う感じがするのだが」
「そうですね……私の知る限りアレルギーに関して研究しているのは私だけですね。それに、アレルギーは花真王国でも私くらいなものでしたが、世界的にどうなのかは調べてみないとわかりません。まだ自覚のない方がたくさんいるかもしれません。たとえばアレルゲンとなりえる食材もありますし」
「食べ物で?」
「はい。自分で調べてみたところ、東部の蕎麦や海岸部の蟹や海老の甲殻類、一般的なものでも卵や小麦、牛乳や肉や魚や果物、食べ物以外では金属も人によってはアレルギーの原因になるようです。幸いにも私が発症しているのは花の花粉だけのようですが、いつ発症するか……」
「それは――俺も、か?」
少し神妙に聞いてくるニグム様。
それに対して私は真顔で頷く。
誰でも突然アレルギーを発症することがある。
もしかしたら、知らないうちにもう発症している人だっていると思う。
「そういうものなのか」
「花粉症はまだ死ぬ確率の低いアレルギーではありますが、食べ物のアレルギーによっては死んでしまうのではないか、と思っております」
「死、死ぬのか!?」
「はい。蜂という昆虫をご存じですか? その蜂に刺されるとショック死してしまう人がいるのですが、その原因は蜂の毒による多臓器へのアレルギー反応によるものなのです。それが人によっては食べ物でも起こるということなのです」
「蜂の毒が……!? ……俺の叔父の一人は蜂に刺されて死んだのだが、つまり死因は厳密には蜂の毒ではなく、蜂の毒により内臓がアレルギー反応を起こして亡くなった、ということなのか?」
「そうですね。えっと、どんな状況かわかりませんので断言はできませんけれど可能性はあるかと。無数の蜂に刺された痛みでショック死してしまった可能性もあるので……」
私がそう説明するとショックを受けたような表情。
それから私のアレルギー研究の色々を、聞いてくださるニグム様。
十六歳の男の子はアレルギー研究の話なんて絶対興味なさそうなのに、ずいぶん親身になって聞いてくれるなぁ?
「実は……故郷に果物が苦手な知り合いがいて……果物を食べると体に赤いぶつぶつが出て痒くなるそうだ。フィエラシーラ姫の話を聞いていたら、なんだか……」
と濁す。
なるほど、知り合いにアレルギー反応が出ている人がいたから、詳しく聞いていたのね。
「ちゃんと症状を見たわけではないですけれど、そうですね……話を聞く限りですと、その方はアレルギーをお持ちの可能性が高いですね」
「やはりそうなのか。その、食べられるようにはならないのか?」
「現時点では……」
首を横に振る。
そんなの私が今まさにほしいわよ~。
そう答えるとニグム様の表情は苦々しい。
「君の研究、俺も手伝えるだろうか?」
「ほ、あ、え!? え!? そ、そんなに近しい方なのですか?」
「異母妹なのだ。十六歳の成人の儀の時に、フラーシュ王国では黄金の実――バナナを食べなければならないのだが……」
「バナナは……確かにアレルギーの出やすい食べ物の一つですね」
「やはりそうなのか……!?」
っていうか、フラーシュ王国の成人年齢十六歳なんだ。早。
そしてバナナが黄金の実って言われてて、成人の儀の時に食べるんだ……。
国によっていろいろあるんだなぁ。
ちなみに花真王国とサービール王国の成人年齢は十八歳。
成人パーティーがあるので、そこでその年に成人する王侯貴族をまとめて成人した扱いにする。
そのパーティーでお酒が出され、お酒を飲んでお祝いする。
のだが、私はお酒にもアレルギーが出るのではないかと、めちゃくちゃ警戒しているのだ。
まあ、強い弱いもあるし当日薄めながら飲むつもりだけれど。
「なにか手伝えることはあるか?」
「えっと、そう、ですね……幻魔石は自分で手に入りますし、研究所は自宅にありますし……うーーーん、特には……」
「ぐっ……」
「あ、でも、あの! それでしたら、フラーシュ王国にある本を取り寄せていただければ嬉しいです。あの、サービール王国の学生図書館にあった何冊かの本はもう一度読みたいのですが、貴重な本で借りることができませんでしたので……」
「そのくらいなら!」
「ありがとうございます」
よっしゃー! 希少本をタダでゲット!
本って高いのよね、毎月のお小遣いで買える本って一冊くらい。
ドレスや小物や友好費で、消える。
できることなら引きこもって研究していきたいけれど、留学生が引きこもっているわけにもいかず……。
婚活もしなきゃいけないしね。
「フィエラシーラ姫」
「はい?」
「婚約の件は本当に考えてほしい。フラーシュを見て、話ができる君はやはりフラーシュ王国に繁栄を齎す人なのだと思う。……正直俺はあまり王位に興味もないし、国が好きなわけではないんだが」
急にぶっちゃけてくるじゃん……。
王太子が言っていいセリフじゃないよ。
「でも、フラーシュは……友達だから」
『おう!』
「しょうがなく」
『おい……』
でも、ニグム様もフラーシュ様を見て話せて触れられるなんて、ニグム様も『国を守り繁栄させる才能を持つ者』なんじゃないだろうか。
ニグム様が「フィエラシーラ姫は家族仲がいいのか?」といきなり話題を変えてきたので「はい」と頷いて毎月手紙を交換している、と話をした。
「フィエラシーラ姫の家族のことも教えてほしい」
「え、でも」
「今日は君の話を聞くと言っていた」
「アレルギー研究の話を聞いてくださいましたし」
「君自身の話を聞きたかったんだ」
「……わかりました」
そうは言ってもな~、と思っていたけれど、ニグム様は学校とは違ってあまりツンケンせず、相槌を打ちながら故郷の家族の話を聞いてくれる。
アレルギー研究で、アレルギーを抑えられるようになったら、いつか――
「いつか……一度でも帰りたい、な、なんて……」
「ああ」
「だから頑張ります。絶対に諦めずに、やり遂げるつもりです」
「そうか」
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