転生姫は国外に嫁ぎたい〜だって花の国は花粉症には厳しすぎるのよ〜【WEB版】

古森きり

文字の大きさ
7 / 39

デート(2)

しおりを挟む

「なので、貴族への嫁入りは勧めない。南部全体の国がそうだ。君の研究は自分自身の生活に関わる重要なものなのだろう? 研究を続けたいのなら王族籍がある者に嫁入りすべきだ。俺か、俺の弟か。ただ、三男のムーダは考え方が父によく似ているから、王族の妻といっても女が研究をするのをよくは思わないだろう」
「……!!そ、そう、なのですか……」
 
 知らなかった。
 そういうのって平民女性だけなのかと思っていたら、貴族もなの!?
 嫁ぎ先の国がどこになるかわからないから、決まりそうになったら旦那様候補と結婚後の話をした方がいいのかと思っていたけれどちゃんと調べておけばよかったーーー!
 だって本当にどこに嫁ぐかわからなかったんだものーーー!!
 北の方は国自体がないから、それなら南の方かなって思っていたら……そんなつらい環境だったなんて……!
 
「幻魔石にどうするつもりなんだ?」
「えっと、薬品を浸して付与紋を刻むと薬品効果を付与できることがあるそうなのです。まだ本格的に幻魔石の勉強は始めたばかりなのですが、アレルギーの原因である抗体の過剰反応を抑える薬ではなく、幻魔石魔術で作り出せないものか考えております」
「その、アレルギーというのはフィエラシーラ姫以外にも発症するものなのか? 病、というか、聞く限り病と少し違う感じがするのだが」
「そうですね……私の知る限りアレルギーに関して研究しているのは私だけですね。それに、アレルギーは花真かしん王国でも私くらいなものでしたが、世界的にどうなのかは調べてみないとわかりません。まだ自覚のない方がたくさんいるかもしれません。たとえばアレルゲンとなりえる食材もありますし」
「食べ物で?」
「はい。自分で調べてみたところ、東部の蕎麦や海岸部の蟹や海老の甲殻類、一般的なものでも卵や小麦、牛乳や肉や魚や果物、食べ物以外では金属も人によってはアレルギーの原因になるようです。幸いにも私が発症しているのは花の花粉だけのようですが、いつ発症するか……」
「それは――俺も、か?」
 
 少し神妙に聞いてくるニグム様。
 それに対して私は真顔で頷く。
 誰でも突然アレルギーを発症することがある。
 もしかしたら、知らないうちにもう発症している人だっていると思う。
 
「そういうものなのか」
「花粉症はまだ死ぬ確率の低いアレルギーではありますが、食べ物のアレルギーによっては死んでしまうのではないか、と思っております」
「死、死ぬのか!?」
「はい。蜂という昆虫をご存じですか? その蜂に刺されるとショック死してしまう人がいるのですが、その原因は蜂の毒による多臓器へのアレルギー反応によるものなのです。それが人によっては食べ物でも起こるということなのです」
「蜂の毒が……!? ……俺の叔父の一人は蜂に刺されて死んだのだが、つまり死因は厳密には蜂の毒ではなく、蜂の毒により内臓がアレルギー反応を起こして亡くなった、ということなのか?」
「そうですね。えっと、どんな状況かわかりませんので断言はできませんけれど可能性はあるかと。無数の蜂に刺された痛みでショック死してしまった可能性もあるので……」
 
 私がそう説明するとショックを受けたような表情。
 それから私のアレルギー研究の色々を、聞いてくださるニグム様。
 十六歳の男の子はアレルギー研究の話なんて絶対興味なさそうなのに、ずいぶん親身になって聞いてくれるなぁ?
 
「実は……故郷に果物が苦手な知り合いがいて……果物を食べると体に赤いぶつぶつが出て痒くなるそうだ。フィエラシーラ姫の話を聞いていたら、なんだか……」
 
 と濁す。
 なるほど、知り合いにアレルギー反応が出ている人がいたから、詳しく聞いていたのね。
 
「ちゃんと症状を見たわけではないですけれど、そうですね……話を聞く限りですと、その方はアレルギーをお持ちの可能性が高いですね」
「やはりそうなのか。その、食べられるようにはならないのか?」
「現時点では……」
 
 首を横に振る。
 そんなの私が今まさにほしいわよ~。
 そう答えるとニグム様の表情は苦々しい。
 
「君の研究、俺も手伝えるだろうか?」
「ほ、あ、え!? え!? そ、そんなに近しい方なのですか?」
「異母妹なのだ。十六歳の成人の儀の時に、フラーシュ王国では黄金の実――バナナを食べなければならないのだが……」
「バナナは……確かにアレルギーの出やすい食べ物の一つですね」
「やはりそうなのか……!?」
 
 っていうか、フラーシュ王国の成人年齢十六歳なんだ。早。
 そしてバナナが黄金の実って言われてて、成人の儀の時に食べるんだ……。
 国によっていろいろあるんだなぁ。
 ちなみに花真かしん王国とサービール王国の成人年齢は十八歳。
 成人パーティーがあるので、そこでその年に成人する王侯貴族をまとめて成人した扱いにする。
 そのパーティーでお酒が出され、お酒を飲んでお祝いする。
 のだが、私はお酒にもアレルギーが出るのではないかと、めちゃくちゃ警戒しているのだ。
 まあ、強い弱いもあるし当日薄めながら飲むつもりだけれど。
 
「なにか手伝えることはあるか?」
「えっと、そう、ですね……幻魔石は自分で手に入りますし、研究所は自宅にありますし……うーーーん、特には……」
「ぐっ……」
「あ、でも、あの! それでしたら、フラーシュ王国にある本を取り寄せていただければ嬉しいです。あの、サービール王国の学生図書館にあった何冊かの本はもう一度読みたいのですが、貴重な本で借りることができませんでしたので……」
「そのくらいなら!」
「ありがとうございます」
 
 よっしゃー! 希少本をタダでゲット!
 本って高いのよね、毎月のお小遣いで買える本って一冊くらい。
 ドレスや小物や友好費で、消える。
 できることなら引きこもって研究していきたいけれど、留学生が引きこもっているわけにもいかず……。
 婚活もしなきゃいけないしね。
 
「フィエラシーラ姫」
「はい?」
「婚約の件は本当に考えてほしい。フラーシュを見て、話ができる君はやはりフラーシュ王国に繁栄を齎す人なのだと思う。……正直俺はあまり王位に興味もないし、国が好きなわけではないんだが」
 
 急にぶっちゃけてくるじゃん……。
 王太子が言っていいセリフじゃないよ。
 
「でも、フラーシュは……友達だから」
『おう!』
「しょうがなく」
『おい……』
 
 でも、ニグム様もフラーシュ様を見て話せて触れられるなんて、ニグム様も『国を守り繁栄させる才能を持つ者』なんじゃないだろうか。
 ニグム様が「フィエラシーラ姫は家族仲がいいのか?」といきなり話題を変えてきたので「はい」と頷いて毎月手紙を交換している、と話をした。
 
「フィエラシーラ姫の家族のことも教えてほしい」
「え、でも」
「今日は君の話を聞くと言っていた」
「アレルギー研究の話を聞いてくださいましたし」
「君自身の話を聞きたかったんだ」
「……わかりました」
 
 そうは言ってもな~、と思っていたけれど、ニグム様は学校とは違ってあまりツンケンせず、相槌を打ちながら故郷の家族の話を聞いてくれる。
 アレルギー研究で、アレルギーを抑えられるようになったら、いつか――
 
「いつか……一度でも帰りたい、な、なんて……」
「ああ」
「だから頑張ります。絶対に諦めずに、やり遂げるつもりです」
「そうか」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。しかしその虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。  虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【この作品は、別名義で投稿していたものを加筆修正したものになります。ご了承ください】 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』にも掲載しています】

転生した女性騎士は隣国の王太子に愛される!?

恋愛
仕事帰りの夜道で交通事故で死亡。転生先で家族に愛されながらも武術を極めながら育って行った。ある日突然の出会いから隣国の王太子に見染められ、溺愛されることに……

枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!

宵森みなと
恋愛
気づけば異世界。しかもモブ美少女な伯爵令嬢に転生していたわたくし。 静かに余生——いえ、学園生活を送る予定でしたのに、魔法暴発事件で隠していた全属性持ちがバレてしまい、なぜか王子に目をつけられ、魔法師団から訓練指導、さらには騎士団長にも出会ってしまうという急展開。 ……団長様方、どうしてそんなに推せるお顔をしていらっしゃるのですか? 枯れ専なわたくしの理性がもちません——と思いつつ、学園生活を謳歌しつつ魔法の訓練や騎士団での治療の手助けと 忙しい日々。残念ながらお子様には興味がありませんとヒロイン(自称)の取り巻きへの塩対応に、怒らせると意外に強烈パンチの言葉を話すモブ令嬢(自称) これは、恋と使命のはざまで悩む“ちんまり美少女令嬢”が、騎士団と王都を巻き込みながら心を育てていく、 ――枯れ専ヒロインのほんわか異世界成長ラブファンタジーです。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

処理中です...