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酔いと共に【前編】*
「どうだ? 悪くはないだろう?」
「うん、美味い……! 生野菜はあまり食べないが」
「…………」
野菜が大暴れするので、ある程度下処理は必要なのだ。
今回は葉をバタバタさせる特徴を利用して、コフを存分に振り掛けさせてもらった。
すると存外コフに弱っていき、あとは隙を見てぶつ切り。
調理も簡単なので、つまみ以外でもこの調理法は広められそうである。
「じゃあ次は酒だな」
「ああ、是非堪能してくれ。……ところで、こちらのつまみも食べていいか?」
「お前、酒よりつまみになってないか?」
「いやまさか。つまみに合う酒を持ってくればいい話だろう?」
「あ、そういう……」
くすくすと笑い合いながら、グラスに注いだ酒を一口飲んでみた。
やや酸味はあるが、口の中に広がる豊潤な香りとアルコール独特の苦味。
舌を溶けさせるようなツンとした味は、相当な辛口のワインに似ている。
しかし、これは……なるほど、と悠来も口を押さえた。
「あ、やばい……肉が欲しい」
「干し肉ならあるぞ」
「いいな」
こっちの世界のビーフジャーキーのようなものだ。
このセラーにあったものをリュカが皿に盛る。
塩気の強いジャーキーは固いのだが噛めば噛む程味が出た。
そんな味の最中に酒を含むと、これがまた堪らない。
「……んん、次は肉料理だな」
「おお、楽しみだ!」
そうして瞬く間に一本が空く。
悠来も珍しいペースで酒が進んだ。
もちろんつまみは互いの話も含まれる。
最初は悠来の世界の話をした。
聖女の故郷、という意味でもリュカには興味深いものだったらしい。
どんな場所で、どんな生活をし、身分や法律の話と少し小難しい話まで。
それから悠来の夢……役者だった話もした。
「役者か……こちらの世界ではほとんど農夫になったな……」
「そんなような事言ってたな。……でも、それだけこの世界が疲弊してるから、なんだよな?」
「そう考えてもらって構わない。実際食糧はまだまだ不足している。今年の冬がこれで越せるか怪しいところだ。……騎士団でももっと畑を広げ、せめて王都の民にだけでも蓄えの足しにしてもらえればいいのだが……」
「悩みが多いな。……でも、それは国王さんが考える事だろう? お前がヤキモキしても仕方ないじゃないか」
「……う、そ、それはそうなのだが……」
頭を撫でる。
つい、だった。
お互いすでになかなかの酔っ払い状態。
リュカの目はとろんとしており、悠来に撫でられても無抵抗。
「……ユウキは父なのだな……」
「? おお、まぁな」
最初は大人しく撫でられていたリュカがそんな事を呟く。
ようやく悠来の方が歳上だという事を自覚してくれたのだろうか。
撫で終わると、リュカが新しい酒瓶を持ってくる。
今度は水のように透明な酒だった。
香りも強く、焼酎や日本酒に近い。
「これは?」
「昔、成人した日に父が祝いで飲ませてくれたルーウヴィという酒だ。……あの時は甘さに騙されて瞬く間に潰された」
「おいおい、酒は飲みすぎると体に毒だぞ」
急性アルコール中毒の事など知らないのだろうか?
悠来の世界では、それで毎年人が死んでいるというのに。
その話をするとなかなかに驚いた顔をされた。
そして、今後新人の歓迎会や成人の儀式後の宴で、若い奴らに飲ませすぎない、と誓われる。
ああ、全くその方がいい。
「嗜む程度が大人の飲み方だぜ」
「むぅ……ユウキと俺はそんなに違わないだろう?」
「リュカは何歳だっけ?」
グラスに注がれていく酒。
塩キャベツっぽいものをかじり、一口飲んでみるとなるほど、甘い。
これは酒を初めて飲む者は、騙されて飲み過ぎてしまうのも分かる。
しかし、舌に感じるアルコールの濃度はなかなかのものだ。
甘味の度合いならばカルーアミルク並みだろうが、それをテキーラ並みの濃度にしたもの……しかし色は水のような透明。
これは危険だ。
「……俺はにじゅうよんだぞぅ」
「早いな~」
悠来と同じタイミングで飲んだリュカが秒で舌ったらずになった。
先の一本がルーウヴィで一気にキたのだろう。
「俺は三十七だ」
「!?」
とても驚いた顔をされる。
にやりと笑い、グラスの中身を全部飲み干した。
確かにあまり老けてはいないし、日本人あるあるの童顔に見られやすいだらう。
腰に手を当て、胸を張って「ふふふ、ふははは! 俺の方が十も歳上だぞぅ!」と叫ぶ辺り悠来も大概酔いが回っていた。
「むう……し、しかし俺の方が強いぞ!」
「あ、それを引き合いに出すのは卑怯だぞ! 俺だってそのうち強くなる!」
「ふふん、それならば俺の剣を持ってみるか?」
「ん? どーゆー事だ?」
指差された先にあるのは剣だ。
脇に立てかけられたそれは初めて見る。
普段持っているものよりも、より大きく少し古いように見えた。
予備の剣、というわけでもないのだろう。
この場所の事を思うと、先代……リュカの父親のものなのではないだろうか。
目を細め、口許を緩めて立ち上がる。
まだ歩く分には問題もなく、どれどれと言いながらその剣を持ち上げてみた。
「ふぅあわっ!」
「はは! 重いだろう」
持ち上げたはいいが、重い。
真美の体重ぐらいあるのでは、と思うほどだ。
結局酒で力の入りづらい体では落としてしまいかねないと、ベッドに座るリュカの隣にダイブして保護した。
ぎしり、と上の寝室のベッドより質の悪い木の軋む音。
マットレスも綿が固まっていて沈み込む。
だが横になると酒の力も手伝って眠気が押し寄せる。
これはこのままでは寝てしまうな、と無理やり目を開けようとした。
「……」
そっと、長い指が悠来の持ってきた剣の鞘を滑る。
見上げるととても愛おしそうに見詰めるリュカの顔。
なんとも甘ったるい。
その慈愛のこもった眼差しは、剣に注がれているのか、それとも——。
(俺の方を見ろ)
手を伸ばして頰に指を這わせる。
それに気付いたリュカが、一瞬驚いた顔をした後に柔らかく微笑んだ。
なぞる。
顎のラインを、優しく、添うだけ。
掌が触れそうになるとリュカの顔が降りてきた。
剣がゆっくり間から引き抜かれ、テーブルの方に立て掛けられる。
(あれ? いや、でも……なんか……あったかい……)
顔がとても近い。
それに違和感は感じた。
だが、その体温の心地良さに、負けた。
心地いい。
とても、安心出来る。
「ん……」
誰かとキスをするなんて久しぶりだ。
——なぜ、キスしたんだろう?
その疑問さえどうでも良くなる甘いキス。
舌を合わせて、ねっとりと絡めた。
うっすらと開けた目蓋。
翠の瞳が覗き込んでいた。
角度を変えられ、唇が合わさり、リュカの舌が咥内に入る。
キスしてしまえばお互いにスイッチが入ったのだろう。
体をぴったりと合わせて、心臓の音と共に興奮は増していった。
脚の間にリュカの腿が押し付けられる。
——ああ、まずい。
頭の片隅の、ほんのわずかな理性がぼんやりと呟く。
だが、心の方は「このままでいい」と言う。
心の意見に賛成だった。
「ん……ん……っ」
目を閉じて咥内の舌に集中する事を決めると、なんと熱い事だろう。
甘い唾液を口の中いっぱいに満たして、顎の上を舐められるとぞくぞくした。
口全体が吸われているようにぴったりと覆われて貪られている。
誘うように腰を浮かしながら、背中に手を回す。
もう片手はリュカの股間に伸ばした。
触れると、んっ、と吐息が漏れる。
それがとても、可愛らしい。
「ユウキ……」
「……ああ、本当……良い男だなぁ、お前……すげぇ、なんか、シてみたい」
「……っ……い、いのか」
「何を、今更」
頭が熱でどこか朦朧とする。
その脳が痺れる感覚が良い。
ズボンの上から形をなぞり、それがしっとりとした熱を帯びながら形を変えていくのが堪らなく興奮する。
この、強くて優しい男が自分に興奮しているのだと思うと——。
「……ならば、俺は……貴方の事も、大切に、想う」
「…………」
騎士らしく、とても真面目な台詞。
見上げるとまた唇が降りてきたところだった。
まるでその言葉で迷いは全て消し飛ばしたとばかりに、今度は理性を根こそぎ奪うようなキス。
「ふっう、あぁ、んっ」
口の端から自分でも信じられない声が漏れる。
浮いた腰に腕が入り込み、舌が抜かれると同時にうつ伏せにされ、下着ごとズボンを脱がされた。
普段の真面目で穏やかなリュカでは考えられない。
(ああ、興奮してるんだな、俺もお前も……)
ベルトを外す音、ズボンを脱ぐ音。
腰を両手で掴まれて、尻に温かいものが掛けられる。
振り向いて確認するとリュカの放った精液だ。
早い。
若さ故だろうか。
「んあ!」
「潤滑油など用意していない、から……すまない」
「へ、へえ……?」
「あ……違う、勘違い、するな。き、騎士団には、その……女気がない故、時々そういうものに走る者がいて、だな……知識としては……知っているだけだ」
困り顔で言い訳され、つい笑って「分かったよ」と言ってしまう。
とても自然な流れで悠来が受け入れる側になっているのも、まあ良いか、と割り切った。
この屈強な騎士を押し倒して喘がせる自信もない。
尻に出されたものが腰まで垂れるのを感じながら、それを指ですくわれて尻穴に塗りたくられる感触に歯を食いしばる。
力を抜いて、受け入れなければ。
そう思って息を吐き、下半身から力を抜くのに努める。
「ひぃっ……っ!」
ず、ずっ、と指が入ってきた。
精液で濡らしながら、解されていく。
息を整え、吐いて、とにかく異物を押し返すのではなく飲み込むように力を抜く事に集中する。
それも変な話なのだが、リュカの指の太さを感じてしまうと背中がぞくぞくと粟立つのだ。
きっとこの感覚は、この先の行為の役に立つ。
それに……この感覚を覚えておけば女性役の時に役立つかもしれない。
(あっ、ちげーだろ、いま、そういうの、関係な……)
女性役をやる予定があるわけでもないのに、どうしてもそれと結びつけるのは悠来に役者根性が根付いているからだろうか。
頭の中で「まあ、確かに俺今ばっちり女役だけど」などとリュカには通じない冗談を飛ばしながら息を吐いた。
「うっ、くっ……はっ……」
「……っ」
さすがに滑り気が消えてくる。
リュカの精液だけでは奥まで足りなかったのだろうか。
少しずつ脂汗が浮いてくる。
すると、何を思ったかリュカが尻の間に顔を埋めて唾液を垂らす。
「っ~~~!」
あの形の良い顔を、尻の側で。
掛かる吐息も、感じる温もりも、どんどん入ってくる温かいモノも。
(あ……ヤバい……!)
目をきつく閉じる。
指がますます奥に入ってくるのを感じた。
ちょうど悠来の性器の裏辺り。
聞いた程度だが、そこにある前立腺をリュカはあっという間に把握したらしい。
そこまで到達し、そこを探し当てたら後は悠来自身も信じられないほどに簡単だった。
「あ、ぁっ、あ! やば、マジそこぉ……! そんな……あっ……こんな、んやばいって……!」
「指を増やす」
「ん、んっ!」
こくこくと頷く。
そこを重点的に攻められると、腰がガクガク揺れてしまう。
リュカは唾液が溜まるとその都度垂らして湿り気を増やす。
その行為自体がとても背徳的で、ダメだった。
あのリュカに、そんな事をさせている。
指が増やされて、拡げられていくのを感じながら息を吐く。
リュカに——。
「あ……あっ……リュカァ……」
「……ユ、ウキ……もう、挿れたいんだが……」
「ん、あ、お、れも……むり、欲し……」
初めてなのに、こうも『欲しい』と思う。
後ろを振り返りながら必死に手を伸ばしてその肩を掴む。
意識が混濁する。
欲しい、欲しい、と全身が疼く。
(この男が欲しい……リュカが欲しい。全部)
息も熱も全部独占したい。
心も体も全部欲しい。
余裕のない表情が堪らなく可愛く見えて、思わず「はやく」と漏れる。
そんな言葉が漏れた唇は、リュカの唇で塞がれた。
なんとも優しい男である。
「……っ」
その隙に先端を押し当てられ、ゆっくりと入ってくる。
熱い。
熱が、途方もないほどの熱が、押し寄せてくる。
引き裂くように、引きちぎるように。
目を見開いてリュカの口付けに必死に答えて痛みをごまかす。
(痛い、熱い、やべぇ、痛い、痛いっ!)
しかしなんとも高揚する。
舌が絡むと唾液がいやらしい水音を立てた。
その音と、熱と、温もり、汗と、男の匂い。
目眩がして、痛みと高揚感と、興奮に意識が何度も飛びかけた。
その押し寄せるたくさんの情報の中で、不思議とはっきりしていくものが一つ。
「……リュカ……好きだ」
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