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王を祝う
場所は変わって夕飯時の食堂。
風呂から上がった騎士たちが、その日最後の癒しを求めて集まってくる。
そこに鎮座する聖女の姿に顔を青くして半笑いになるのを眺めて申し訳なくなるが、それを笑顔に変える方法は用意済み。
「さあ! 俺の世界で人気メニューの一角! ハンバーグだ! 全員分作ってあるから食べてみろ!」
「え! 聖女の様やユウキ様の世界の料理ですか?」
「なんだこれ、焼いた肉の塊? でもなんか……泥みたいなソースが掛かってる?」
「デミグラスソースっていうんだよ。泥とはなんだ泥とは。文句言わず食べてみろ。渾身の一品だ、頬が落ちないよう気を付けろよ」
「「えっ、ほ、頬が落ち……!?」」
何人かの騎士がそれを聞いて顔をまた青くする。
それを見て「あ、こっちではこの表現使わないのか。しまった」と冷静な部分で思うが、一から説明するのも面倒くさい。
そんなところへ真美が「お父さんお代わりある!?」と皿を持って目をキラキラさせているから「ない」と告げるとがくーん、と落ち込む。
その姿に、顔を青くしていた騎士たちも「あれ、本当に美味しいのかも?」と半信半疑になってきたらしい。
元々悠来の料理が美味いのは周知され始めている。
その信用も手伝って、パーンと野菜のスープ、ハンバーグの載った皿が揃ったトレイはどんどん減っていく。
「新しいの焼けたわよ~」
「ありがとうございます、メイリアさん」
「あらあらまあまあ、いいのよこのくらい。だってハンバーグ……わたくしもファンになってしまったもの~」
「良かったです」
最初に試食してくれたメイリアは、ハンバーグをすっかり気に入ってくれた。
慣れ親しんだメイリアがそんな事を言うのだから、新しく食堂に入ってきた騎士たちも「なんだなんだ?」とカウンターに集まってくる。
そして、最初に食べた騎士が「え? 美味……美味い!」と叫ぶと後は瞬く間だ。
真美が「はあ~? お父さんが作ったんだから当たり前でしょ~」とドヤ顔で語ると謎の拍手が起きる。
拍手はさすがにどうかと思うので「サクサク食え」と言うと今度は各所から「美味しいです!」
「最高です!」「めちゃくちゃ美味い!」と声が上がる。
それはとても、悪い気はしない。
「盛り上がっているな?」
「おお! リュカ、ハーレン、お疲れ! お前らも食え! 食うがいい! そして讃えろ、ハンバーグを」
「「ハ、ハンバーグを?」」
顔を見合わせるリュカとハーレンだが、言われるがままお盆に乗せた夕飯を受け取りテーブルに運ぶ。
椅子に座り、早速一口食べた時の目の輝きに悠来はニヤリと笑った。
「う、美味い!」
「な、なんだこれは……! 豊かな香り、豊潤な肉の油が口いっぱいに広がり、それらをまとめ上げるかのように絡まるソース……! 美味い! こ、こんな美味いものがこの世にあったのか!?」
「…………」
ハーレンの食レポがなかなかにレベルが高い。
だが、その隣で子どものような顔をして食べているリュカが悠来には可愛く見えてつい、顔が緩む。
「団長さんってばコドモみたいな顔になってる!」
「んぐぅっ!」
そして、それを真美に指摘されている。
どうやら悠来と同じ事を思い、その上指摘までしてしまったらしい。
変なところで親子感が出てしまった。
「こ、こほん。……マ、マミ様、ユウキ、話があるのだが、この後執務室の方に寄れるか?」
「ん? ああ、構わないぜ? 真美はいいか?」
「え? うん、いいよ」
こくん、と顔を見合わせて頷き合うリュカとハーレン。
ふむ、と悠来は唇に指を当てる。
おそらく昼間の件の対処法だろう。
(どんな方法だろう。楽しみだな)
***
その一時間後、真美と共にリュカの部屋の執務室にやって来た。
部屋に入るなりハーランが扉の鍵を閉め、その前に立つ。
これは人の気配を感じたら会話を止める為だ。
つまり、極秘の話し合い。
「で?」
「ああ、まずはマミ様、昼間の事なのですが……」
と前置きして、リュカは昼間サウザールの息子が悠来を「我が家のシェフに」と言い出した事を話した。
最初はキョトンと聞いていた真美の表情が、どんどん険しくなっていく。
最終的に「エウレ……」と言い出した辺りで全員「待った!」と引き留める。
「だって! お父さんをシェフにするとか……」
「落ち着け落ち着け、どうどう! お父さんは真美のお父さんなんだから真美以外の為に飯は作らないよ」
「……ほんと?」
「本当」
「…………」
唇を尖らせながらもすり寄ってくる可愛い幼い娘。
その頭を撫でてやりながら、リュカの方に顔を戻す。
それで、と話の続きを促した。
「ああ、その事実を突き付けて、ユウキの事は完全に諦めてもらおうと思う。マミ様にはその時、口添えをして頂ければと考えておりまして」
「もちろん! お父さんは真美のお父さんなんだから!」
……その言葉に続きがある事を知っているリュカとハーレンが複雑そうな表情になる。
愛娘の可愛い独占欲に当人……父親はデレデレであり、場の空気はかなりのカオスだ。
真美に確約をもらえたので、ハーレンが真美に「では、次の話なのですが」と前置きして二つめの話題に移る。
「間もなく国王陛下のお誕生日パーティーがございます。その際に、ユウキに気を付けて欲しい事があるのです」
「ん? 気を付けて欲しい事?」
「はい。……その、結婚の申し込みです」
「は?」
ギラッ、と真美の目が光る。
それに怖気付きそうになったハーレンだが、騎士として耐えた。
「は、はい、あの……実はこの国は貴族が平民に婚姻を申し込む場合、平民に断る選択肢がないのです。ユウキは異界からの客人ですので、この場合は陛下が許可を出してしまうと婚約が成立してしまいます」
「な、なんじゃそりゃ!」
「そして貴族たちは陛下の誕生日パーティーに狙いを付けている者がほとんどだ。ユウキを手篭めにして、聖女の力を私欲の為に得ようとしている者がそれだけ多いという事でもある」
「っ!」
ゴゴゴゴゴゴ……という効果音を醸し出していそうな娘の肩を抱き寄せる。
リュカとハーレンがあからさまに怯えまくっているのだ。
とりあえずファザコン気味の娘を落ち着かせ、もう少し詳しい話を聞いてみる。
「そこで、ユウキにはサウザールの誘いを断ると同時に結婚を持ち掛けてくるだろう貴族たちからも、うまく避けられるように『騎士団寮で働く使用人』に扮して、陛下に今日のハンバーグを作って食べさせてもらいたい」
「は? ハンバーグ?」
なぜ指定なのか。
それも、ハンバーグを。
ハンバーグは今日初めて披露した料理のはずなのに。
聞けばリュカたちは悠来に『異世界料理ならなんでもいい』と、頼むつもりだったらしい。
しかし、先程食べたハンバーグでその考えが変わった。
「ハンバーグは肉好きの陛下も好まれる! 是非これで行こう!」
「そ、そうか。よし、分かった! ……けど、それでサウザールたちの派閥からの誘いを断る事が出来るのか?」
「陛下が褒めたらその時点で『個人の貴族の家』には招けない。いつ陛下が同じものを食べたいと言い出すか分からないからな。その家の専属シェフだとしたら、逆に城に引き抜かれる。それほど料理人にとっては名誉な事だ。そして、ユウキは元々城に寝泊りしている」
「! ……なるほど、俺はいつでも陛下のご要望にお応え出来るな」
「ああ、それにマミ様が主張されれば城専属も難しいはずだ。……その……マミ様にはそれだけの権限がある」
「…………」
顔が……二人の顔が……とてつもなく、疲れている……。
「でも、褒められなかったら?」
「少なくとも褒められないという事はない!」
「そうです! ハンバーグにはその価値があります!」
「あ、ありがとう……」
とてつもなく力強く説得された。
この二人にそう言われたら信じるしかないだろう。
頷いて、前を向く。
「了解だ。お前らの作戦乗った!」
「ありがとう。……それに、もし万が一の時も秘策がある。任せてくれ」
「ああ」
「では、マミ様はそろそろ城へお帰りください」
「え? お父さんは?」
「その他のメニューや、作戦の詳細をリュカに説明してもらいますから悠来はもう少し居残りですね」
「そうだな、ハンバーグだけじゃシンプルすぎるからな……。ニンジンのグラッセや茹でたブロッコリー、フライドポテトなんかも付けられると良いんだが……あ、ブロッコリーは騎士団寮の畑にあるな!」
「ブロッコリー?」
「この世界だとコリッブローだな」
コリッブローの調理法としても茹でるのは間違っていない。
他の野菜も似たものがあるのでなんとかなるだろう。
とはいえそれだけでは芸がない気がした。
(あ、そうだ。おろしハンバーグやチーズインハンバーグも作ってやろう。ふふふ、チーズインハンバーグは驚くだろうなぁ)
あの澄まし顔の国王が瞳を輝かせるところを想像すると、俄然やる気が湧いてくる。
ニヤニヤしすぎて不審者のようになっている悠来に、真美が「お父さん悪い顔になってるよ」と注意を飛ばしてきた。
娘にそう言われては、気を付けるしかない。
「ははは、すまんすまん。まあ、そういう事だから、真美は今日はもう城に帰って寝ろ」
「うん、分かった」
「それで、リュカ。陛下の誕生日っていつなんだ?」
「明後日だな」
「…………」
明後日。
聞き間違いか?
と、固めた表情のままもう一度聞き直す。
「え? 明後日?」
「ああ」
「…………」
という事は明日中に食材を揃えなければいけないのか。
それ自体はおそらく難しくはないはずだ。
しかし、うっすらまさか、と思いながらも「陛下一人分でいいのか?」と確認する。
「出来れば来客全員分を用意してもらいたいところだが……無理か?」
「明日一日の準備日数じゃ無理だな」
「…………。そ、そうだよな……」
真美も呆れた顔をしながらハーレンと部屋を後にする。
去り際に「団長さん、お父さんに無茶振りしたらダメだからね」と付け加えて。
ぱたん。
扉が閉まった後の、なんとも言えない沈黙。
「おいおい、どうするんだ? …………いや、まあ、人数分は無理だが、でかいやつならなんとかなるな。フライパンサイズハンバーグ」
思い浮かべるのはパーティー用のレシピ。
ひっくり返すときに、フライパンを二つ使う荒技を用いる十人分の超巨大ハンバーグである。
あれは見ると大人でもテンションが上がるのだ。
パーティーにはぴったりかもしれない。
「あ、いや、その、それはユウキに任せる」
「? 真美に聞かせられない話か?」
てっきり続きかと思えばそうではなかったようだ。
やや前のめりになってリュカを覗き込むと、顔を真っ赤にされる。
なんだこの可愛い生き物は。
「マミ様に、俺とユウキが……恋人になった事を、話したい」
「ああ、そうか。……あ、そうかぁ……」
それを聞いて察した。
今し方聞いた情勢もさる事ながら、真美にとっての悠来の存在の大きさを思うと……というやつだ。
半笑いになりつつも、頭を抱える。
「でも突然だな。もう少し内緒にしてても良くないか?」
「いや……実はさっき言っていた秘策なんだが……」
「ああ、あれか。なんだ、教えてくれるのか?」
秘策なのに、という意味で聞いた。
だが、話の流れをよく汲むべきだったのだ。
「もし、万が一それでもサウザールが納得しなかった場合や、どこかの令嬢が陛下のおふれも無視してユウキに婚姻を申し込んだら……その時は」
「おう」
「…………俺もユウキに、婚姻を申し込む」
「………………お、おう?」
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