18 / 385
8歳編
きょうだい(3)
しおりを挟む「少し早いですが、王妃教育を始めましょう。レナは伯爵家の令嬢で、最低限の礼儀作法はできているでしょうが、王妃教育はそれとはまた別です。聖殿で行ってもよいですが、結婚後に城で暮らすことになるのなら今から後宮に慣らしておく方がいい。聖殿も王妃教育に関しては口出しできません。聖女教育の一部に王妃教育と同じ項目がいくつかありますからね。ヒューバートの婚約者になったのですから、わたくしの名でその提案をしても問題ないはずです。あなたからの茶会の手紙を無視し続けるのもさすがに限界でしょうし、よいタイミングです」
「ははうえ……ぐずっ」
なるほど……これが女同士……!
聖殿でも行われる教育課程なら、城で行われても問題ない。
「王家がレナを取り込もうとしている」と考えられたところで、レナは聖殿にとってあまり価値がない。
なにしろ今の所“最下位”だから。
母がソファーから立ち上がり、俺の隣に座る。
いい匂い。
優しく抱き締められて、頭を撫でられた。
「ヒューバートは勉強も剣も魔法も、とても頑張っていると聞いています。家庭教師が再来年の授業内容までやっていて、驚いたと言っていましたよ」
「そ、そんなに進んでいましたか……?」
「ええ、頑張りすぎなぐらいです。勉学は少し緩めて、剣と魔法の時間を増やしてもいいでしょう」
「……わかりました、そのように予定を組みなおします」
「いい子ですね。レナが城に来たら、レナとの時間も大切にするのですよ」
「はい!」
母がすぐに手紙を書いて俺に持たせてくれた。
これを持って王都——この町の大聖殿へ行く。
レナは今そこに住んでいるから。
ランディがすぐに馬と騎士を準備してくれて、俺は近衛騎士の乗る馬に乗せてもらい城から出た。
俺、普段は勉強ばかりで城からは出ない。
十二歳になったら貴族学院に入学して、成人である十八歳まではそこで学ぶことになる。
それまで基礎学力と剣、魔法を一定レベルにしなければ落ちこぼれだ。
王族に生まれたからには、その烙印は避けなければならないので。
それでも引きこもりはよくないからと、父の視察に月に一度ついていくことはある。
とはいえたったの月一だ。
外の世界は何度出ても新鮮。
大聖殿への道筋なんて、覚えたねーしな!
「!」
王城のすぐ側にある貴族街。
そこと隣接する大きな建物がルオートニス貴族学院。
『救国聖女は~』の漫画では、この学園の卒業式——パーティーの日に婚約破棄が言い渡される。
つってもヒューバートに転生した今の俺から言わせてもらうと、はぁ!? パーティー!? 国民が飢え死にして家族を結晶化した大地に捨ててくるような情勢下でパーティーーーーーイィィィ?
バッカじゃねぇのおおおおおおお!?
って、思うけどな。
もし俺が『王太子だから』という理由で卒業パーティーなんかやることになったら、全力で潰そう。
未来がどうなるかなんかわからんけどな。
ひとまずそんなことよりジェラルドだ。
現実逃避をしてる場合じゃない。
ジェラルド……頑張って。
結晶病は結晶化の速度に個人差があると聞く。
母親のアラザよりも進行が早いということは、本当に一刻も早い治癒魔法が必要。
「っ……」
「殿下、落ち着いてください。そろそろ着きます!」
「!」
俺とは別の馬、騎士に支えられてついてきたランディの声に顔を上げると、ちょっと「なんだこれ?」って感じの建物が見えてきた。
壁一面が、金色に塗られている。
それに、黄金の門と入り口には黄金のおっぱいでっかい女神……いや聖女像?
布一枚で際どい角度が隠れているが、え、これ入り口の扉のように置いて大丈夫?
かなりどすけべだよ?
なんだ、これ?
ポーズは違うが、マジで角度を変えたら見えそう……いや、こんなところで変なすけべ心を出してる場合じゃない。
が、しかし——
「なんだ、これ」
いかん、声にまで出てしまった。
抑えきれない「なんだこれ」。
前世と今世合わせても、疑問が留まるところを知らない。
「金……本物ですか?」
「古の時代にはもっとも価値があったものであると聞きます。現代では魔石は劣るものの、通貨としての価値は一番高いものですね。しかし、あまりにもなんというか、ここまで露骨に使っていると、少々下品というか……」
「そ、そうだなぁ」
近衛騎士の一人が説明してくれたが、納得だ。
要するに聖殿は成金趣味があるわけか。
いや、聖殿全体を巻き込んだ言い方はいけないな。
聖殿の最高権力者、聖殿教皇。
……この役職を聞いた時は「聖殿ってなんの宗教を崇拝してるの?」ってジェラルドに聞いちゃったよなぁ。
だって聖殿って聖女育成機関のはずじゃん?
教皇って、なんかの宗教で一番偉い人の役職名じゃん?
そしたらなんか、ここ近年偉い人の上に偉い人が新しい役職を付け加えていって、「今は枢機卿が一番偉いことになってますけど、半年後は新しい“一番偉い役職”が増えてると思います!」って答えられて微妙な気持ちになったよね。
そしたら案の定、新しく『教皇』が増えてるし。
ここの人たちは、なにがしたいのだろうか。
とにかく偉くなりたくて、堪らないんだろうか?
だが、この自己顕示欲しか感じない大聖殿の建物を見るにその通りなんだろうなぁ。
0
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
寿明結未(旧・うどん五段)
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。
ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。
ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。
時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。
だから――。
「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」
異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ!
============
小説家になろうにも上げています。
一気に更新させて頂きました。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる