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二人の聖女と悪魔の亡霊編
双国と対話開始
しおりを挟む二日後。
両雄並び立つ——とまではいかないが、ソーフトレス側からはデリセット領の騎士が十名、コルテレ側からもオルヴォッド領の騎士が二十名現れた。
ソーフトレス側はこちらを刺激しないように最小限の人数に絞ってきたのが伺えるが、コルテレ側の“最低限”は警戒心の表れかやや多い。
ラウト、なにをした、なにを……。
「ソーフトレス王国デリセットの領主、アドック・デリセットと申します」
「コルテレ国、オルヴォッド領主を務めています、アボット・オルヴォッドと申します」
二人とも敬語。
俺というよりは聖女二人への敬意の表れのようだ。
ただ、若干二人とも表情がゴリゴリに固い。
その警戒心は俺の後ろのギア・フィーネと石晶巨兵に注がれているように見える。
さて、今までと違って一番偉いところではない。
舐められても困るので強めにいくか。
「えー、と……ではまず、俺はここより東に位置するルオートニス王国より、この石晶巨兵でソーフトレス、コルテレ、両国へ提案を持ってきた。我が国で開発されたこの石晶巨兵には、聖女の助力を得ると結晶化した大地を治癒する効果が確認されているのだ」
「「「!?」」」
「なっ!」
「結晶化した大地を治癒!? まさか! 土の大地が戻るということですか!?」
「そうだ。すでに我が国と隣国ミドレ公国……そして北のハニュレオには、我が国との不可侵及び和平条約締結と、石晶巨兵の兵器使用禁止と共同開発を条件に、石晶巨兵の製造方法を公開している。また、昨日聖女シャルロット様より、聖域ルレーン国ともこの条件で我が国との盟約が決定している」
両雄の仰天した顔よ。
ざわつきが今までの比ではないな。
まあ、それはそうだろうけれど。
「それは……それは……! っ、わ、我が国へ、属国になれ、という……」
「違う。ルオートニス王国も土地の回復により、他国を援助している余裕はない! 言っておくがお互いに戦端を開き、自国を疲弊させた責任は自分たちで負うがいい。それでも援助がほしいのであれば、双方相応の対価を我が国に支払ってもらう。だが、そのような話を武人であるお前たちとしても無駄であろう。俺が望む交渉は然るべき相手と然るべき場所で行いたい。お前たちにはその足がかりとして、自国の王へ報告を頼みたいのだ」
ここはきっぱり断っておくよ。
ナルミさんの指示だよ。
お前らじゃ話にならねーから上の者を出せって意味なんだよ。
おっかないよね~。
ちょっと脅す感じにしろ、って言われたんで頑張ってるけどできてる?
内心震えが止まらないぜ~。
「……お、王へ……すぐに……っ!」
「っ……」
……なのだが、俺よりも来てくださった領主さんお二人の表情の方が絶望に染まっていて別な意味で怖くなってきたんですが?
なに? どうしたの?
「も、申し訳……申し訳ございません……!」
「は?」
いきなり倒れるように突っ伏し、俺に土下座してきたのはソーフトレスのアドックさん。
顔面蒼白で可哀想。
なにがあったの、なにが。
「ソルドレット・ソーフトレス陛下は——精鋭を率いて、聖域へと船を出しておいでです……姫様たちの留守を狙い、“遺物”を手に入れようとしております!」
「っ!」
「なんだって! くっ! コルテレの次はソーフトレスもか!」
おいおい、つまりソーフトレスは王不在!
戦況は睨み合いだと聞いているが、ソーフトレスの王が自ら聖域に出向いているのを隠すためでもあった感じか。
やばいな。
コルテレは衛星兵器を手に入れようとしていたから、焦ったのだろうか?
でも、聖域の“遺物”って、まさか……。
「シャルロット様、聖域には誰でも気軽に入れるのですか?」
「周りを湖に覆われておりますが、船で渡ることは可能です。我が国は国土こそ他国には劣りますが、かつて世界が戦乱で滅びかけた折に『戦争で傷ついた、いかなる民も受け入れる』と法で決まっておりますので、難民に紛れられればわかりかねます」
「溢れません? 難民」
「現在は受け入れた者はコールドスリープで地下都市に眠っていただくのを、了承いただいた方のみです。さすがに我が国でも二ヵ国の難民すべては受け入れられませんので」
なかなか大胆でものすごい解決方法ですね!?
「ですが、一国の王が我が国の“遺物”を目当てに入り込むというのは……」
「申し訳ございません!」
今度はコルテレ側のアボットさんも土下座してきた。
思わずナルミさんの方を見てしまう。
にっこり笑って肩を竦めておられるが、もしかしなくても知っていて俺に偉そうにしろって指示なさった感じですか?
「突然謝られるということは……コルテレも、か?」
「っ……はい。申し訳ございません! 実は、我が国の国王となられたオズワード・コルテレ様は、昨年前王陛下より王位を譲られたばかりで大変年若くていらっしゃいます。そのため、聖域のシャルロット王女を是非正妃にお迎えしたく、何度も打診しておりました」
「そのお話は、何度もお断りしておりますが……」
「は、はい……ですから、“誠意”をシャルロット王女へお見せするために……と、直接聖域へ出向かれて……!」
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