263 / 385
二人の聖女と悪魔の亡霊編
強襲(1)
しおりを挟む「失礼いたします! ヒューバート王子殿下、並びにお付きの皆様! 敵襲にございます! すぐにご移動をお願いいたします!」
「敵襲だと?」
うつらうつらしてきた俺の耳に、バッターンという大きな扉を開く音と、敵襲を告げる男の声。
聴力補佐の魔法をジェラルドが使ってくれて、ディアスに支えられながら起き上がる。
ラウトがすぐに「どこからだ」と問いただすと、男は言いづらそうに口を噤む。
このタイミングで、この場に強襲してくる“敵”。
「コルテレの王か。しかし戦力など連れていたのか? 辺境伯たちはこの領館に来ているよな?」
「あ……そ、その……我がルレーン国が戦力として蓄えておりました、ギア・イニーツィオ三機を強奪されたようで……!」
「ギア・イニーツィオ?」
俺が聞き返すとラウトが「ファントムが作っていた玩具だろう」と溜息混じりに告げる。
あー、そういえばあの人なら絶対人型兵器造ってそうって話はしてたな。
なるほどね。
ファントムが待っていたのはコレか。
「ジェラルド、ギア・フィーネと石晶巨兵を全機[隠遁]で隠してくれ。シャルロット様とソーフトレス、コルテレ両国の者たちにも、抵抗せず一度降参したように見せかけてほしいと提案してきてくれないか? 対処はルレーン国の国守がやるだろう」
「え!? し、しかし……」
「大丈夫。こうなる気はしていたんだ。不安にならずとも悪いようにはならない。なにかあればこちらでも対処を手伝おう」
「あ……は、はっ! すぐにお伝えして参ります!」
やれやれ、結構大ごとになってしまったな。
でもまあ、この事態はある程度ファントムが予定していたものだろう。
ギア・イニーツィオについては早めに説明がほしいところだけど。
「あ、ギア・イニーツィオってみんな知ってた?」
「? 結晶化津波の時にいただろう?」
ウッソ、ディアス俺それ知りません。
「シャルロット様とミレルダ嬢とご先祖様が乗ってたよ~」
「シャルロット様とミレルダ嬢が!? ……あ!」
百合だ!
思い出したぞ!
尊い光景で記憶が浄化されていた!
「あれがそうなのか」
「どうやらファントムがギア・フィーネを模して作り上げた、完全にオリジナルの新型らしい。機体性能は千年前の新型より高かった。おそらく大和の瑪瑙級だろうな」
「えっ」
大和の瑪瑙といえば始まりの石晶巨兵、光炎の原型。
元の設計図がすごかったので、運動性能もそれなりに高い機体に最初からできたのだ。
それに、大和製の疑似歩兵前身兵器は元々世界的に高い技術で作られており、その性能はアスメジスア基国の二足歩行兵器を上回る。
ただ、その分量産が難しく共和主義連合国軍内でも主に隊長機に採用されているほど、数が少なかったそうだ。
共和主義連合国軍はレネエルが大和に技術提供を受け、安価な疑似歩兵前身兵器を開発していたらしい。
しかし、そんな付け焼き刃で軍事国家であり大国アスメジスア基国とカネス・ヴィナティキ帝国に抵抗し切れるはずもなく。
二号機と大和の新型が主柱となり、ミシアの奇襲でなんとか戦線を維持している状況。
……それほどまでに、ギア・フィーネが一機あるのは大きかった。
そして、当時ギア・フィーネに一番近い性能を誇っていたのが大和製疑似歩兵前身兵器の最新鋭機瑪瑙。
なんと世界でたったの五機しか製造されておらず、実践投入されたのは三機だけだったという。
光学迷彩機能と光学防衛機能を備えた大和最先端科学の結晶。
飛び抜けて高い能力はないが、同時に非常にバランスの良い機体。
むしろ、隊長機として腕のいいパイロットが搭乗していたためかなり強かったらしい。
ギア・イニーツィオはそのレベル。
「ギア・フィーネの『ハッキング』はなさそうだったが、ファントムが造ったのであればギアはありそうだな」
「現代の“魔法”にも対応していた。パイロットがファントムの場合俺たちも油断はできないだろうな」
「まあ、あの男が人型兵器に乗ったらそれは鬼に金棒というやつだ」
怖い。
ラウトがなにも言わない。
むしろディアスの言葉に「チッ」と舌打ちして苦々しそうにしている。
俺はほとんど意識飛んでたけど、ファントムが乗ったギア・イニーツィオはそれほどにヤバかったのか……。
「ヒューバート様!」
「おわ、シャルロット様」
「ノックもご挨拶もなく失礼いたします。ヒューバート様のご提案を聞きました! 降伏の意を示せとはどういうことですか!」
あ、そうか。
シャルロット様はコルテレの王に求婚されている状況。
降伏したら嫁にされかねない。
「安心してください。降伏した——フリをして欲しいんです」
「フ、フリ……!?」
「はい。ギア・イニーツィオという機体の性能は今、ラウトとディアスから聞きました。ファントムが造った人型兵器……なんですよね?」
「は、はい」
0
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
寿明結未(旧・うどん五段)
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。
ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。
ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。
時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。
だから――。
「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」
異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ!
============
小説家になろうにも上げています。
一気に更新させて頂きました。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる