終末革命ギア・フィーネ〜転生先が婚約破棄した聖女を追放してザマァされる悪役王子なんだが、破滅したくないので彼女と幸せになります!〜

古森きり

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間章

side マレディツィオーネ隊

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 コツコツとブーツの靴音を鳴らしながら、セドルコ帝国帝都頭上に浮かぶ宇宙船に戻ったルーファス・カナタはブリーフィングルームへ進む。
 先月、ルオートニスとルレーン国への攻撃の結果がどちらも盛大に失敗に終わったことで、宇宙本部が全体の作戦の見直しを行っていた。
 ようやくそれがまとまりったのだろう。

「連絡は?」

 ブリーフィングルームに入るなり、第一声でそう問う。
 しかし、部屋にいたのは最年長のクロン・メッシュただ一人。
 その様子にわかりやすく顔を歪ませた。

「他の三人はまだ来ていないのかい?」
「そう言ってやりませんように。皇帝候補たちのお守りも我々の重要な任務です。みなあなたが担当している第四皇女ステファリー様ほど、扱いやすい方々というわけではないのです」
「クロンは僕より先に来てるじゃないか」
「第一皇女セラフィ様は月のものが重くて、終わるまでは顔を見せるなと言われてしまいました」

 女性は大変ですね、と嘲笑を浮かべて肩を竦めるクロン。
 それに溜息を吐いた。
 確かに、他の皇帝候補はどれも曲者揃い。
 地上を宇宙から掌握するために、皇帝候補たちに一人ずつ派遣された『マレディツィオーネ隊』。
 ルーファス以外の皇帝候補補佐官たちは、かなり苦労していると聞いている。
 今回の強引な攻撃も、宇宙の『ギア・フィーネが本物であるか』『ギア・フィーネの脅威はどれほどのものか』という調査への思惑と、第三皇子エドリッグの『ルオートニス王国など潰してしまえ』という思惑が合致して行われた。
 結果としてギア・フィーネは本当。
 脅威度は最高ランクに跳ね上がり、上は『千年前の機体が千年前の情報通りの脅威度のままだなんて』と大混乱に陥った。
 ルレーン国を衛星兵器で狙ったのは、千年前から存在している国家であるため。
 現在の戦力を調べるためであり、初手から大打撃と衛星兵器の脅威を思い知らせるためであった。
 それを防がれ、あまつ、衛星兵器を失った。
 地上を覆う謎の奇病、『結晶病』。
 まさか宇宙付近に漂う衛星兵器にまで、突如発生するとは誰が予想できただろう。
 宇宙は結晶病を恐れて、これまで千年、地上との接触を絶ってきたのだ。
 衛星兵器が結晶化した事態は、上を相当に怯えさせた。
 今回の作戦を完全に白紙に戻し、地上に派遣されたマレディツィオーネ隊の帰還を言い出した者も少なくないという。

「だったら先に始めよう。それで今後の僕たちの行動が決まる」
「ま、そうですね。我々の時間は有限。いっときでも無駄にはできない。結論から言うよ」
「ああ」
「現状維持。引き続き、担当の皇帝候補を補佐して第四皇女ステファリーを皇帝にせよ——とのことだ」
「……そうだろうね」

 ソファーに座り、手を組む。
 その手の上に顎を乗せて、睨むようにクロンの持つ通信端末を見た。
 宇宙に広がった人類には、もうあまり時間が残されていない。
 ノーティスナノマシンを摂取し続け、元々の超人的な身体能力を誇るカネス・ヴィナティキとアスメジスア基国の末裔『ハヴィア』『ユーラン』でさえも宇宙環境の過酷さから平均寿命は四十を下回り始めている。
 共和主義連合国軍などの元々ノーティス制度を持っていた『アルージャ』では35歳が平均だ。
 現在18歳のルーファスと19歳のクロンも、焦りを感じる年齢。
 すでに妻も子もいるが、ルーファスの妻は娘を産んですぐ20歳の若さで寿
 まだ幼い我が子を残して、いつ自分も寿命で亡くなるかわからない。
 その恐怖は、“上”も同じ。

「なんとしても“オリジナル”を手に入れなければ。地上人の遺伝子を取り入れる実験も、あまり上手くいっているとは言い難いと聞くし」
「うむ。我々は文字通り時間がない。君にも再婚の話がきているのだろう?」
「……どんなに前妻を愛していても、子を作ることは義務ですからね。クロンには二人目の要請かな?」
「二人と言わず三人、四人は作れとのことだ。ボクの妻も体は強くないから、二人目ですら心配なんだけどね」

 産めや増やせは法で定められている。
 お互いに、今の妻を、前妻を、想っていても。
 この地獄のような有り様を、一刻も早くなんとかしたい。
 せめて子や孫、ひ孫には、もう少し長く生きてほしい。

「地上のどこかにあるのは間違いない。不死の怪物……自律起動超速再生被験体D型ヒューマノイドプロトタイプ——デュレオ・ビドロ……! アレが手に入れば、ノーティスナノマシンの影響で傷つけられた我ら宇宙に広がった人類の遺伝子は元に戻る。救われる……!」
「ああ、ルオートニス王国が掲げる守護神の中に同姓同名がいるのは興味深いですよね。なんとかしてあの国に入り込めればいいんですが」
「……結界、か。チッ……意味のわからないモノを……!」

 地上は宇宙とは違う方向性で、独自の進化を遂げている。
 そのもっともたるものが魔法。
 そして聖女。
 千年前より聖女の存在は確認されていたが、現代では魔法の要素が加わり宇宙の者は手が出せない。
 まだまだ情報が足りなさすぎる。

「引き続き、情報収集をしつつ皇帝候補たちのつまらない帝位争いに決着をつけましょう」
「そうだね。……さっさと終わらせないとね」

 ステファリー以外を殺す方が早いが、それではこの国を傀儡にするのに角が立つ。
 確実に、ゆっくりと侵食する。
 ひとまずこのガタガタの帝国を隠れ蓑に、隣国ルオートニスに手を伸ばす機会を伺うのだ。
 いくら彼らに時間がないとはいえ、政治とはそういうもの。


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