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世界再生編
最後の条件
しおりを挟む「ヒューバート、どうかしたのか?」
それは、ちょうど世界が晒され続けた危機——創世神が亡くなったことにより失われた“エネルギーを生み出す概念”を、デュレオの弟のクレアが代理神として行っており、ラウトの権能結晶病の一部を奪った王苑寺ギアンにより千年、世界が侵され続けたのだと各国に説明し終わった時に感じた。
席を立ち、窓辺に近づくと国境から淡いピンク色が見える。
ああ、美しいな。
「条件が揃いました」
「条件? まさか」
「そのまさかです。創世神を再びこの世界に、呼び出す条件が今揃いました。早急に儀式の準備を始めましょう。創世神さえ再臨させることができたなら、結晶病は人に感染しなくなります」
「な、なんと!」
正確には俺がさせない。
地核——永遠に祝福された地球に行った時、王苑寺ギアンにそう約束させる。
ラウトに結晶病の権能を完全に返還させるつもりだ。
会議に参加した者たちがザワザワとし始める。
偉い人しかいないのに、礼儀とかそういうものが今はあまり気にならなくなっているのもここ二年間で俺に起こった変化だ。
ラウトが前に「人間が格下の有象無象に見える」的なこと言ってたけど、多分こういうことなんだろう。
もちろん王子として蔑ろにするつもりはないけどね。
「ここは父上にお任せしてもいいでしょうか」
「ああ、構わぬ。世界が救われる方が重要である。今まさにこのままでは世界が滅びるという話をしていたところであるしな」
ちなみに宇宙は惑星代表の八名がルーファスたちを護衛にして参加している。
ジェラルドの気配が神格化した方角は、聖女の治療院の方だし昨日発症した宇宙の偉い人たちはどうやら無事にやらかしてくれたらしい。
一種の賭けではあったが、ジェラルドの神格化を後押ししてくれたのならいい仕事をしてくれた。
宇宙の人間にはいまいち理解し難い“エネルギーを生み出す概念”の話だが、条件が揃った今のんびりと彼らの理解が追いつくのを待っている時間は惜しい。
「ありがとうございます、父上。ランディ、ルーファス、ルレーン国へ行くぞ」
「え、あ、は、はい!」
「了解した。クロン、後を頼む」
「了解」
「あ、お待ちください。ヒューバート様。我ら“歌い手”は——」
席を立ち上がったのはシャルロット様。
創世神召喚の儀式に“歌い手”は必要不可欠。
ギア・フィーネ五機を“歌い手”のブースターで強化する方が、成功率が上がるからだ。
「まだ大丈夫です。儀式の日取りはレオナルドに任せてあるので、調整をお願いします」
「わ、わかりましたわ」
「儀式はルレーン国で行われるのですかな?」
次に話しかけてきたのはメルドレアの議員だ。
もー、急いでるのに~。
「はい。あの地には科学技術が多く残っていますし、ギア・フィーネを千年間二機保管していた実績があります。『神代の大穴』に創世神の依代も準備してあるので、その進捗も確認しなければなりません」
「申し訳ない、ヒューバート殿下。よければ儀式について我々にも詳しく教えていってはいただけないか?」
メルドレアの別の議員が手を挙げる。
ぐぅ、急いでいるというのに……。
でも、今日は本当ならその説明をする予定だったしね。
「兄上、儀式に関しては私が皆様に説明しておきます。どうぞ準備に専念ください」
「ありがとう、レオナルド。では頼む。シャルロット様、ランディを一時返していただきますね」
「はい。ランディ、よろしくお願いしますね」
「はい」
ありがとう、レオナルド~!
というわけでランディとルーファスを連れて研究塔に行くよ。
研究塔には俺のイノセント・ゼロ以外にも六号機から八号機までが収容されているからね。
防衛面でも研究塔以上に安全なところはない。
「ファントム、ジェラルドが神格化したっぽい!」
「確定情報だけを伝えろ。なんだその適当な報告。しばき殺すぞ」
罰が重すぎやしませんか。
「八号機の新しいパイロットはどうなんだ?」
ファントムが使っている八階には研究所の他に機体の保管庫と性能実験室もある。
白い壁で三十メートル角のその部屋で、紫色と青の機体がギア上げしていた。
ギア・フィーネ八号機。名前はまだない。
八号機は今までクロンが乗っていたけれど、同調率が一向に上がらないのでトニスのおっさんに戻した。
八号機のパイロットは何度も変更しており、実はトニスのおっさんは同調率が一番高かった。
でもおっさんは遠慮がちでやる気もない。
こういうかっこいい役目は若者の務めだろう、とかディアスの旦那と同型機に乗るのはちょっとなぁ、とか色々言い訳して逃げ回る。
そして逃げ回り、乗らなくなるので同調率は上がらない。
クロンは乗ってても上がらないので体質的に合わないのだろう。
登録者制を取っ払ったのでギア・フィーネ自体が登録者を選ぶことはなく、相性がいい人間をギア・フィーネが選出することはない。
登録者がないことはいいことだと思うが、こういう場合は存外困るな。
ルーファスが実験室でギア上げを行う八号機を見下ろす。
ファントムは「悪くない数値だな」とウインドウを開いて見せてくれた。
やはり乗り手はトニスのおっさん。
「志望者も試したが、このおっさんが一番相性がいい。すでに同調率も48%に上がってる」
「たっか!? “歌い手”のブーストがあればギア2まで余裕じゃないですか!?」
俺でさえそこまで上げるの本当に大変だったのに。
このまま上げていけばギア3まですぐじゃない?
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