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お茶会で(2)
しおりを挟む「そうですね。そうだと思います。私も私は相応しくないと何度も思いました。幼い頃から目標にされて、努力されていたアンラージュ様は本当にすごいと思います、心から」
「!」
自分が今、受けている教育を思うと、それをずっと小さな頃からやってきたアンラージュ様は本当にすごい。
こんな大変なことを、自ら望んでやっていたんだもの。
イングリスト殿下も、私に何度も「大変なことをお願いしてしまって、申し訳ない」と言う。
今朝だって、それがご自分の我儘のようだとおっしゃった。
けれど、私は本当に今の生活に感謝している。
それをどう伝えたらいいのかわからない。
イングリスト殿下の我儘だけではないのに、イングリスト殿下が罪悪感を持つ必要などないのに、この優しい王子様は私以上に私を心配してくださる。
「……でも、イングリスト殿下の気持ちもわかるのです。私もずっと誰かと一緒に暮らすということができませんでしたから。殿下が側にいる人を傷つけてしまうと怯えて生きてこられた気持ちが、とてもよくわかる。……だから、アンラージュ様がとても努力されてきたのを、尊敬しますけど、でも……私、これ以上この方を、えっと……イングリスト殿下に、寂しい思いを、させたくないと思うのです。どうかお許しください」
「…………」
頭を下げると、空気が張り詰めたように静まり返った。
考えてしまう。
イングリスト殿下は、本当におつらかっただろうなって。
王妃様の、冒頭の言葉を思い出すと、安堵なさった反面申し訳なさで苦しかっただろうな、って。
わかるの、私も。
お母様が今妊娠中だから、私は絶対近づけない。
私が近づいたら、お母様にもお母様のお腹の中の子にもなにが起こるかわからない。
呪厄令嬢の名は伊達ではないのだ。
きっと、容易く流産にも追い込むだろう。
イングリスト殿下の抱き続けた不安は、きっと私と同じ。
お兄様が起き上がってお食事をご自分で食べられるようになった、という話、きっと本当に喜んだと思う。
そしてもう二度と、どうか、悪くならないでほしいって——。
涙が出る。
勝手に、ポタポタ落ちていく。
ダメだ、人前で泣くなんて。
淑女は常に優しく微笑んでいるように、って……マーチア夫人に教えられてきたのに、どうしよう、止まらない。
「……あなた、どうして泣いてるの……」
「も、申し訳ありません。色々、思い出したり、考えてしまって……!」
「っ……」
顔をまともにあげられない。
そうしたら、私の背中をあの優しい男の人の手が撫でた。
顔にハンカチが差し出されて、恐る恐る見上げるとイングリスト殿下が微笑み見下ろしている。
……お借りします。
「アンラージュ嬢、申し訳ありません。自分は側室を持つつもりはありません」
「殿下……」
「今はただ、自分の呪いじみた祝福を抑え込むためにエーテル嬢と結婚したいとは思っていないのです。……エーテル嬢だから、結婚したい。心優しいこの女性を、自分が生涯かけて大切にしたい、と。だから、側室は持ちません。申し訳ありません」
「イ、イングリスト殿下……! お、お待ちください、でも、あの、私……!」
正直一人で王妃という役目が勤め上げられるか不安で!
と、言いそうになったけれど、突然「わかりましたわ!」とアンラージュ様が大声を出してかき消された。
「わたくしも王妃教育で、王太子殿下のお心に寄り添うようにと学びました。そのお心に従います」
「アンラージュ嬢……ありがとうございます」
「ただし! その呪厄令嬢は、淑女としても王太子妃としても、見ていられないほどまだまだまだまだまーだまだ! 未熟です! ……ですから、わたくしが鍛えて差し上げますわ」
「え」
そ、それって……アンラージュ様が私の教育係を引き受けてくださるということ!?
マーチア夫人お一人にお願いしていたから、さすがにお忙しそうで気が引けていたのよね。
そ、それに、これはもしかして、ど、同年代の、同性の……お友達ができるチャンス!?
「ほ、本当ですか!? 嬉しいです!」
「っー! し、仕方なくですわ、仕方なく! そ、それにあなたの側にいたら、イングリスト殿下の気も変わるかもしれませんもの? ええ、ええ、側室の座は諦めませんわよ、わたくし!」
「あ、そうですね。呪いと祝福の効果がかき消える範囲が、あまり広くないので日中はずっとお側にいますから……」
「エーテル嬢っ」
え?
私なにかまずいこと言いましたか?
イングリスト殿下にものすごく焦ったお声を出させてしまったけれど、なにか言葉使いとか、間違えたのだろうか?
「……。……わかりましたわ。わたくしがあなたのその迂闊なところと鈍感すぎて一周回ってダメなところを、しっかり自覚させて叩き直して差し上げますわ」
「え!」
な、なぜ!?
どこがダメだったの!?
「殿下もですわよ!」
「じ、自分は結構しっかり伝えているつもりなんですが!?」
「そんなのこんな天然鈍感に通じるわけないでしょう! 殿下ももっと積極的になってくださいませ!」
「え、えええええ」
なぜかイングリスト殿下まで叱られている……!?
「ア、アンラージュ、本当にいいの!?」
「ええ、もういいんですわ、お母様。今まで色々ありがとうございました。……完敗ですわ」
「……そう」
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