呪厄令嬢は幸運王子の【お守り】です!〜外堀陥没で溺愛ルートのできあがり〜

古森きり

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ローズレッグ殿下とイングリスト殿下(1)

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「ちゃんと道順を覚えなさい、エーテル様。一度来た程度では覚えられないでしょう!」
「は、はひ、はいっはひ……」

 アンラージュ様に怒られた。
 でも、目を開けられない。
 だって真横にはイングリスト殿下が、離れ難い距離にいるのだもの。
 む、無理!

「この部屋よ」
「いきなり入っていいんですかっ!?」
「いいのいいの。ローズレッグ、入るわよ」

 王妃様が扉の前にいた兵士たちに頷いて合図をすると、左右から扉を開けてくれた。
 広い広いお部屋。
 そのテラスで、剣を振る半裸の男性——。

「きゃー!」

 は、半裸!
 半裸でいらっしゃる!
 思わずイングリスト殿下の手を振り払い、顔を両手で覆って後ろを向く。
 私の様子にアンラージュ様も部屋を覗き、「きゃっ!」と同じように顔を両手で覆った。
 と、殿方の裸を、婚前の娘が見るのは、ちょっと!

「あ、兄上! 服を着てください!」
「む! おお! イングリストではないか! 息災か!」
「そ、息災でございますが……あの、兄上、それよりまず服を……」
「ローズレッグ! 服を着なさい! いきなり来たわたくしたちも悪いけれど、剣の素振りなど部屋のテラスでやるものではないでしょう!」

 王妃様が腰に手を当てて叱りつけると、ローズレッグ様の声が「わははははは! すまーん!」と言って布の音がした。
 それからイングリスト殿下が私の肩を抱き、「もう大丈夫ですよ、エーテル嬢」と耳元で囁く。
 そ、そのお声もダメです~~~~!

「おお……! そちらの白い髪のご令嬢が噂のエーテル嬢か!」
「は、はい、あの、初めまして……」
「もう顔から手をどけて大丈夫だぞ! 服は着たからな!」
「……っ」

 恐る恐る指の間から部屋の中を見ると、シャツを着たムキムキの殿方が剣を鞘に収めているところだった。
 え……こ、この岩のような方が……イングリスト殿下のお兄様……!?

「はぁ、は、初めまして、エーテル・フローティアと、申します」
「我はローズレッグ・クレプディター!!」

 か、風?
 風が吹いてきた?
 ローズレッグ殿下の方から、今ゴウっと風が!

「この国の第一王子だ!」
「…………」
「……あ、兄上、本当にお元気になられて……」
「わはははははは! ああ! もう王太子がお前に決まったからな! これで騎士団に復帰できると思うと、心のつかえが取れたようだ!」
「え」

 え?
 驚いて手を顔から外し、テラスから部屋の中に入ってきたローズレッグ殿下を見る。
 彼は「まあ、入って座るがいい!」と椅子を引いてくださった。
 私たちは顔を見合わせてから、お言葉に甘えてお部屋にお邪魔する。
 席に座ると兵が侍女にお茶をお願いし、間もなくお茶とお菓子が運ばれてきた。
 そうして一息ついて、ウキウキしたローズレッグ殿下が口を開く。

「実を言うと、我はずっと騎士団で騎士として生きたいと思っていたのだ」
「え……そ、そのようなお話、聞いたことがございません」
「うむ、父上にしかしたことがないからな!」

 なんと!
 いきなり切り出された話に、イングリスト殿下まで驚いていた。
 王妃様もあまり驚いていらっしゃらない。
 その上「ああ、やはりそうだったの」と呟いて優雅に紅茶を口にしている。

「しかし、第一王子として周囲からは“王太子然”とした態度を求められる。故に言い出せなかった」
「そんな……ですが、自分は兄上が望むのであれば、王太子の座は兄上に……!」
「いらん!」
「えええええええ……!?」

 即答でいらっしゃる~!
 イングリスト殿下のこんな驚きと絶望の表情初めて見た。

「許されるのなら我は騎士として騎士道に生涯を捧げたいのだ。見たところお前の『祝福』も、もう問題はなさそうではないか」
「そ、それは……はい」
「っ」

 イングリスト殿下が私を見下ろす。
 優しい瞳。優しい微笑み。
 一気に顔が熱くなって、思わず背けてしまった。
 だって、だって直視できない!

「無論、お前が王太子の座が重い、他に成したいことがあるから嫌だ、と言うのであれば我も腹を括るが」
「成したいこと……」
「あるのか? イングリストよ。お前に生涯を費やし、成したいことが」
「っ……!」

 真っ直ぐにイングリスト殿下を見据えるローズレッグ殿下。
 その真剣な表情に、イングリスト殿下は——俯いた。
 そしてしばらく考えてから、顔を上げる。

「自分は、エーテル嬢を幸せにしたいです」
「へ!」

 まさかの私!?
 なぜ私!?

「兄上と、そして母上の体調が崩れ始めた頃、その原因が自分の祝福——『幸運』のせいだと知らされて、自分はこの先一生、人の前に出てはいけないのだと思いました。それなのに兄上は変わらず自分に会いに来てくださり、それが兄上をどんどん……」

 そう、だったんだ。
 確かに王妃様よりもローズレッグ殿下の方が重症のようだった。
 それは、イングリスト殿下に変わらずに接しておられたから……。
 なんてお優しい方……!

「自分が父上に王太子を任じられた時は、荷が重く思いました。兄上こそ、次期国王に相応しいと。……しかし、エーテル嬢のおかげで自分は今こうして兄上と再び話ができております。それならば、自分はエーテル嬢を、自分の生涯をかけて幸せにしたい」
「うむ……それでよかろう。我もそう思えるような結婚ができれば良いが……がはははは! 我は令嬢に嫌われるからなぁ!」

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