気弱令息が婚約破棄されていたから結婚してみた。

古森きり

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災厄を防ぐために 2

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「些細、報告が苦労である」

 一度、国王陛下は公爵様の説明を聞いて、そこで話を切って「フーーー」という深い深い溜息を吐いて眉間を揉み解す。
 まあ、大事に育ててきた娘が国を脅かす災厄になろうとしているのだから、こんな深刻な顔にもなる、よなぁ。

「コーネリス、私がマリーリリーを聖殿に連れていく。万が一に備えてお前たちは騎士団長とともに郊外に陣形を組み討伐待機。アースレイ、王宮魔術師団をまとめて災厄が出現したらすぐに郊外に転移させる準備を進めてくれ。場所は聖殿。ホワイトローズにも連絡して王妃、王子妃たちを郊外に避難させろ。王宮魔術師団は災厄が建物に被害を及ぼさぬように結界を張ってくれ。マティアス公爵、フォリシア夫人はジェラールのもとへ戻ってくれ。プロフェットは絶対に守らねばならない」
「いえ、聖殿に同行させてください。ジェラール様に災厄は私が倒す、と約束しました」

 父上が「おっま、変なこと言うんじゃないよ!」という表情をしているけれど、これだけは譲れない。
 私の表情を神妙な面持ちで見つめた国王が、アースレイ殿下に向けて頷いた。

「わかりました。すぐに魔術師団をかき集めます。ですがさすがに時間がほしいですよ」
「わかっている。『予言』によれば明日の午後にことが起こるとのことだ。これから準備に全力を尽くせばおそらく間に合うだろう」

 また深い溜息を吐く国王陛下に、コーネリス王子が「マリーリリーを殺した方が早いのでは?」と冷たい眼差しで告げるのでギョッとしてしまった。
 え? え!? こ、殺すって言いました!?
 驚いていると国王陛下が渋い表情で「邪念が最大限に蓄積したサタンクラスの者を殺害すると、その瞬間に災厄を産む」と告げる。
 コーネリス王子は「え、そうなんだぁ」と目を丸くした。

「じゃあ、浄化した直後に首を跳ねましょう。王族から災厄など産んではまずいでしょ」
「っ、コーネリス。お前の言っていることは王として、王族として当然のことだ。だが、兄としては……」
「ああ、またやってしまいました? ごめんなさい。そうですよね、兄としては妹を殺したいと思いませんよね。ああ、それはそうか」
「あ、そっか~。普通のお兄ちゃんは妹に死んでほしくないって思うんですよね。僕もそれがいいと思っちゃいました」

 え!? え!?
 コーネリス王子もアースレイ王子も、マリーリリー様を殺してしまうことになんの躊躇もないのか……!?
 ……これがキングクラスの“性質”なんだろうか。
 身内に一切容赦がない。
 統治や王としての正しい判断が最優先されて、嬢のようなものが希薄なのか。
 なんだろう、それが……可哀想に思ってしまう。
 いや、民や臣としては、キングクラスが次期国王なのは幸福なのだろうけれど。

「でも、じゃあ全員助ける方向で話を進めようか。明日の昼に父上がマリーリリーを聖殿に連れていくということで。災厄を吐き出したサタンクラスは、その後も災厄を吐きやすくなるそうだから、帝国との国境に繋いでおこうね。いい牽制に使えるだろう。あ、それとフォリシア夫人は聖殿についていくってことでいいのかな? ジェラールと災厄は自分が倒すと約束してるってことだよね?」
「はい! そう約束しました!」

 マリーリリー様を殺す方が、確かに国の安全のためには最善なんだろう。
 けれど、父王に指摘されてすぐにそんな代案を考えつくあたりさすがキングクラス、性格が悪……的確というかなんというか。
 私がそう返事をすると、それはもう、にっこり微笑まれる。
 ……うちの国の次期王、こっわ。

「災厄が生まれたら討伐してもらい、討伐し損ねたら郊外に転移させて僕たちで討伐するって、ことで」
「は、はい!」
「その時は父上の保護を最優先してくれると嬉しい。あ、生きてたらの話ね? 死んだり大怪我して動けなくなったら無理しなくていいし、本当に死んだら僕がジェラールに泣かれてしまうかもしれないから自分の身も守るようにね?」
「ジェラール様が泣いちゃう!? それは確かに全力で回避しなければいけませんね!?」

 無論死ぬ気はないが、ジェラールの泣き顔はちょっと見たい気もする。
 でもできれば悲しい顔より快楽で歪んでわけわからなくなった時の泣き顔がいいな。

「じゃあ、こっちはその準備をするとしよう。フォリシア夫人は今すぐホワイトローズに復帰して、マリーリリーの護衛になって。その方が明日、父上と聖殿に行くことになんの違和感もないでしょ?」
「え、あ、お、は、は、はい。え? でも、あの……」
「期間限定でいいよ。明日以降、生きてたらジェラールのところに帰っていいから」
「……は、はい! 了解しました!」

 と、いうわけで速攻で動き始まる。
 父上が部下に情報を共有し、私も事情を元部下たちに話して制服を借りて、纏った。
 久しぶりの制服だから、気が引き締まるな。

「先輩、本当にマリーリリー様の護衛やるんですか?」
「今日と明日だけな」

 元部下たちに「あの姫はやべーですよ」「小さくて可愛いのは見た目だけです」「我々の護衛もウザがりますし」「中身は二歳児ですよ。しかも無駄に権力を持った」と、散々な言われよう。
 そういえば私が現役だった頃もマリーリリー様はホワイトローズの護衛を拒否していたな。
 お説教役が増えるとでも思っていたのかもしれない。

「本当に気をつけてくださいね」
「ああ、大丈夫だ。みんなありがとう」

 そんな話をしながら、マリーリリー様の部屋の前に来る。
 私の仕事は、明日までマリーリリー様を城内の動きに感づかせないこと。
 そして、明日陛下と聖殿に連れて行くようにする――!
 そう思って、マリーリリー様の部屋の扉を開く。

「姫様、よろしいでしょうか?」
「誰?」
「本日と明日、姫様の護衛をすることになりました、フォリシア・マティアスと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


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