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新人準備中 3
しおりを挟む翌日、アマリは外行きの服に着替え、いつぶりかわからない化粧をして黒いマスクをする。
マスクで化粧剥がれないんだろうか?
まあ、俺がそんなことを気にしても仕方ない。
朝ご飯を食べて、一緒に電車に乗って二駅。
駅から徒歩三分のところにある事務所にやってきた。
一階はコンビニ。
二階に事務所、同じ二階と地下にそれぞれ事務所所有のスタジオがある。
事務所のスタジオは地下を含めて三つ。
収録用、レッスン用、多目的用。
ただ、今回は契約内容の確認なので事務所の応接間。
立会人というか、マネージャーになる金谷と社長の八潮に顔を覚えてもらうためにそちらで待たせてもらうことにした。
突き当たりの事務所に入ると、茉莉花が手を振る。
「椎名さん、今週のラジオ収録なんですけと――あ、新人さん?」
「っ!」
「茉莉花、ちょうどよかった。今度デビュー予定の『甘梨リン』だ。ラジオのゲストにどうか、って相談するつもりだったんだけど……」
「わあ! 来て来て! ぜひ! 初めまして、わたしは茉莉花。この事務所所属のVtuberよ。よろしくね」
亜麻色のふんわりした長い髪と、大きな細く丸いピアスを揺らしながら近づいてくる高級感と色気溢れる美女に、アマリが怯えたように後ろに隠れる。
あ、あかん態度やっちまったなぁ!
茉莉花はきょとんとしているが、気を悪くした様子はないのが救いだろうか。
「すまない、引きこもりが数ヶ月ぶりに出て来て見たこともない美人に話しかけられたから困惑してるんだと思う」
「まあ、嬉しいこと言うじゃない。でも、新しい香水にしたのには気づいてくれた?」
「それはわからん」
「もー、朴念仁。あと、これ企画書ね。所属ライバーのイメージ香水を作ってもらって、予約制完全限定生産販売にしてっていう企画なんだけど……」
「お、サンキュー。社長に出してくる。あ、これから会うけど一緒に相談して行くか?」
「んーん、このあと大手箱の子とコラボなの。企画書だけ渡しておいて。ごめんね。あ、新人ちゃんはぜひわたしのラジオ番組、ゲストで出てね」
さすがにお忙しそうである。
しかしイメージ香水かぁ。
俺には到底思いつかないオシャレな企画だ。
茉莉花に手を振って別れ、待合室に行くと間もなく金谷と八潮がやってくる。
アマリを紹介して、十八歳の未成年であることと精神的に不安定なことなどを説明して了承してもらった。
契約書を書き、ハンコを押す。
これでアマリは『りゅうせいぐん☆』所属のVtuberになった。
とにかく自分の心身の体調を優先して考えて、無理はしないようにと約束させる。
金谷が荒らしのことを説明し始めて、もしもそういう輩が現れてつらくなったら証拠を集めて法的処置という対処に至るまでの流れの説明。
マネージャーとしてライバーを守ること最優先に考えてくれているのは、兄としてもありがたい。
「茉莉花さんにも五件くらい起訴案件があるんですよ。うちの事務所はまだまだ小さいのにも関わらず、そのくらいあるんです。女性ライバーはどうしてもそういうのがあるので、些細なことでも相談してくださいね」
「は、はい。あの、茉莉花さんって、さっきの……?」
「ああ」
アマリも書類や説明を見ながらわからないことは積極的に聞いて行く。
そして金谷とこれからの予定の話し合いに突入。
昨日俺と話した内容と照らし合わせ、ぼんやりとした部分を詰めていく。
すると金谷は一週間に一日、必ず休みを入れてくれた。
アマリの事情も鑑みて、二日に増やすことも検討してくれる。
「うちはまだ小さい事務所なので、無理はしなくて大丈夫ですよ。茉莉花さんが色々企画を持って来てくれるので、最近少しずつ認知度は上がってますけどやっぱり大手に比べるとまだまだ……」
「そうだなー。茉莉花と夜凪以外はまだ収益化通ってないからな」
「収益化申請できる登録者数には到達しているんですけどね」
「そふらのに至ってはそろそろ三千人なのに、まだ収益化通らないんだよなぁ。配信内容は問題ないはずなんだけど」
「やっぱりスライム風呂配信が攻めすぎたんですかねぇ?」
「面白かったけどなぁ、あれ」
そふらの、ややセンシティブな声出しちゃう系だからなぁ。
一人電流ゲーム配信とか、喘ぎ声みたいに聞こえるから……。
その辺で審査通らないのかもなぁ。
瓜アラ子と鍵置ルラは登録者数九百人台。
もう少しで収益化申請に手が届く。
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「は、はい。変なところありますか?」
「そうですね、長さ的にも問題ないと思います。収録は今日なさいますか? 収録スタジオ、今日は空いてますよ」
「じゃ、じゃあ……お願いします」
「わかりました。じゃあ行きましょうか」
アマリ、夕飯のあとちゃんとシナリオを自分で書いてきたのか……! 偉い!
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