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ひもじい
しおりを挟む『少食』
どういうものだか、あなたは知っていますか?
簡単に言えば食べる量が少ない人のこと。
でも、本当はそんな簡単な話ではないのです。
確かに食べる量は少ない。
いい言い方をするなら少なくて済みます。
悪い言い方をするなら少ししか食べられません。
そして、存外「食欲」もないのです。
食欲がないって結構大変なことなのですよ。
なぜか?
人間の三大欲求はご存じでしょうか。
『性欲』『睡眠欲』『食欲』──人が生きるために必要なものです。
そのうちの一つが欠けているようなものなのですわ。
お腹は空く。けど食べたくない。食べたいと思わない。
普通の人にはちょっと理解出来ないと思います。
もちろん他にも色々悩みは尽きません。
たとえば、友達と食べ放題に行くとします。
友達は元を取ろうとたくさん高いものを食べようとする。
でも、少食は元を取れるわけもなく……高いお金を払ってちょっと食べて満足してしまう。
ぶっちゃけ誘わないで欲しい。
食べられないんです。食べ放題って言われても、ケーキ一つで満腹になるのです。
それなら高くて美味しいものをちょっとだけ食べた方がいいと思う。
いや、知っているんですよ?
世の中は美味しいもので溢れてる。
映え~、とか言って、見た目も可愛くて美味しいものは世の中に溢れているんだって事は……そんなの、もちろん分かってるんですよ。
でも、少食の人間はその美味しいものを食べ尽くせない。
その悔しさは──普通の人には、きっと永遠に分からないでしょう。
「…………ひもじい……」
それでも、病気になって、本当になにも喉を通らなくなり……点滴ですべての栄養が賄われるようになってようやくそう感じるようになったのは……本意ではない。
美味しいものは好き。
少食だけど、美味しいものは食べたいと思うのです。
その欲求は確かにあります。
しかし、もう食べられません。
世の中はきっと美味しいもので溢れているのでしょう。
もっと色々、美味しいものを食べてみたかった。
食事が摂れなくなって数年。
両親がわたしをあっさり見限って消えてから、親戚に引き取られるもそれは形だけ。
食事も与えられず、そこそこ平気だったけれど……生死の境を彷徨うほどに放置されたのはやはりつらかった。
しかし、それもようやく終わるのです。
息を引き取るまで数秒。
自分の人生、なんの色もなく……彩りもなく……思い出せる事も……。
(…………ああ、ケーキ食べたい……)
そんな人生だった。
「……………………」
目を開く。
見知らぬ、しかし見覚えのある天井。
“わたし”は病死したはずである。
だが、まるでそれが長い夢であったように思えた。
「お嬢様、お目覚めですか? 本日はお食事は摂れそうてしょうか?」
「…………いらない」
わたしは返事をする。
お腹は減っているけれど、食欲は相変わらず……ない。
わたしに食事について聞いてきたのはメイドのルイナである。
かしこまりました、と頭を下げてテキパキとわたしの体を起こし、服をひん剥いて濡れたタオルで汗を拭いていく。
我が身ながらなんてガリガリ……骨と皮だけじゃないか。
「もうすぐ王子殿下のお茶会です。『それまでに、体調を整えろ』と旦那様からのご命令がありました。……なにかお食べになられた方がよいと思います」
「……命令……」
変な夢を見たせいだろうか?
頭がいつもよりもくらくらとする。
「…………じゃあ、ケーキが食べたいわ」
「ケーキ、ですか……かしこまりました」
不思議そうな顔をされたけれど、新しい下着とネグリジェを着せ替えられてからルイナは頭を下げて出て行く。
部屋は静寂。
まだ不思議な感覚は続いていた。
「……変な感じ……。わたし……いえ、わたくしは、クリスティア・ロンディウヘッド……十歳……パドウィウ王国、宰相、ロンディウヘッド侯爵家の、次女……うん、覚えているわ……」
ちゃんと分かっている。
問題はない。
でも、頭を抱えた。
いつも通りとても気怠い。
頭もわずかに痛く、起きているのがただただつらい。
「……わたくしには姉と兄が一人ずつ……二人とも婚約者はいない」
なぜ?
なぜ、自分が一人っ子のような感覚なの?
わたくしは末っ子。
体が弱く、姉や兄のようにお茶会にもまともに出られない。
姉、メアリは十七歳。すでに社交界にもデビューしている。
兄、ディオスは十五歳。今年社交界にデビューする。
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父の過度な期待。
いえ、命令。
それにわたくしは応えられそうにない。
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もちろん、それが分かったところで……である。
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