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ダンジョン『井の中』(5)
しおりを挟む会話が高難易度すぎる。
武器作成が可能になるのは中位職以降。
シーナたちにはまだ無理なことなので、この二人はもうそのレベルということ。
感心していると、改めてエルミーに「パーティー参加していいー?」とぶりっ子全開で聞かれる。
断る理由もないので、バアルが「もちろん」とパーティーに迎え入れた。
その時ようやくレベルが見えたのだが、二人のレベルが50と51で七人とも仰天して目を剥く。
割と頻繁にログインしていたシーナですら、今のレベルは28だ。
「じゃあサクッと倒しちゃおうかー。って、え? みんなレベル低くない?」
「先輩たちが高過ぎるんですよ……! なんでそんなにレベル高いんですか!? 一ヶ月前に栄治先輩と一晴先輩の二人と一緒の時はレベル17でしたよね!?」
「エイランと一緒にいるといつの間にか効率厨になってレベルが爆上がりしてるんだよ」
「俺のせいみたいに言わないでよ」
これがプロのゲーマーか。
しかしエイランに言わせると「俺について来れるだけエルミーも大概じゃないか」とのこと。
それはそう。
「まあいいや。後輩たちは後ろで歌バフをよろしくね。アイテムドロップ率アップとエネミー寄せとかがいいなー」
「そんなの覚えてたかな……? ちょっと確認させてください」
「曲検索機能の虫眼鏡の横にバフ効果表示機能がありますよ」
「ありがとう、シーナくん。これ?」
「そうです」
ひゃあ、近い! と思いながらも曲を検索する。
覚えている曲は二十ほど。
魔法使い歴の長いバアルは三十曲。
その中で、エルミーとエイランがご希望の効果を持つ曲を選曲する。
「行くよ、エイラン」
「いつでもいいよ」
そして、そこからはエルミーとエイランの独壇場。
なんで大斧を横に構えたんだ? と不思議そうにしていたセイとルカ。
次の瞬間大斧が光る。
「アックススラッシャー!」
投げた。
大回転しながら藻を切り裂き、隠れていたモンスターたちがわらわらと現れて襲ってくる。
選曲中のバアルとシーナ以外、ゲームに不慣れ組は声にならない悲鳴をあげた。
「うそおおおお!?」
「先輩!? 先輩!?」
「ほらほら、歌バフ歌バフ! ~~~♪」
慌てふためく後輩たちを尻目に、エルミーが歌い始める。
襲ってきた多種多様なモンスターを、バフを受けたエイランが腰の双剣を引き抜いた瞬間目で追うのも難しい速さで狩り尽くす。
その速度にも、後輩たちは驚愕した。
いくらゲームの世界とはいえ、そんなことが可能なのか。
可能なんだろう。
実際やってのけている。
「す、すご……!」
「レベルと歌バフの暴力……」
「エルミー」
「はいよ」
選曲も終わったシーナとバアルが顔を上げると、もうそんな感想しか出て来ない。
そこでエルミーの歌が一区切りつく。
途端、真横から巨大なモンスターが飛び出してきた。
グラディエスクレイフィッシュだ。
「「「「でっっっっか!?」」」」
「通常のクレイフィッシュの三倍の大きさはあるね」
「はい。殻の硬度も通常のクレイフィッシュの三倍らしいです」
「後輩たちー! 歌バフよろしく!」
「は、はい! いこう、シーナくん」
「はい!」
目を閉じ、バアルと共に唇を開く。
[アイテムドロップ率上昇]効果のある歌を紡ぐ。
だが、突進してくるグラディエスクレイフィッシュを引きつけたエイランはエルミーの数メートル前でジャンプする。
斧を掲げたエルミーが、ニィと笑う。
エルミーが先程まで歌っていた歌は[攻撃力上昇LV2 追加付与3][武器攻撃力上昇lv3 追加付与1][刺技属性攻撃力LV4 追加付与4]。
レベル50越えにプラスこのバフの量。
バアルの言う通り、歌バフの暴力すぎる。
その歌バフの暴力を抱えたまま、光り輝くエルミーの大斧。
「一点粉砕斧!」
斧の刃が光ったまま巨大化。
振り下ろした瞬間グラディエスクレイフィッシュを真っ二つにした。
バアルとシーナの歌が止まる。
口が開いたまま、固まった。
グラディエスクレイフィッシュは通常種よりも三倍は強い、ダンジョンの中ボスである。
「お」
どかん、と頭上からもう一匹のグラディエスクレイフィッシュが落ちてきた。
エルミーが斧を持ち上げつつエイランを振り返る。
「~~~~♪」
そのまま続きの歌唱。
エイランが双剣を重ね合わせ、勢いよく落ちてくるグラディエスクレイフィッシュに対して切先を向ける。
パーティー全体に[アイテムドロップ率上昇lv2 追加付与2]の他に[斬撃属性攻撃力LV4 追加付与2]が付与。
もう嫌な予感というか、落ちてくるグラディエスクレイフィッシュの命運を悟って憐れみを覚えた。
「必殺技 両断・燐」
消えた。
エイランの姿が。
そしてグラディエスクレイフィッシュの後ろに現れ、双剣が鞘に納まった。
カチン、という音と共にグラディエスクレイフィッシュが真っ二つになって消滅する。
まさにレベルと歌バフの暴力。
「落ちた~! エイラン、『紫の殻』二つも落ちたよー」
「俺も。……あと十三枚かぁ。この調子だと六~八匹狩れば集まるかな? ああ、でも[アイテムドロップ率上昇]バフがないとキツいかぁ」
「後輩ちゃんたちとフレ登録して、手伝ってもらえる時手伝ってもらおーよー。レベルも結構上がったっしょ?」
と、振り返るエルミー。
シーナ他、メンバー全員自分のレベルを確認する。
レベル15~17と、平均レベルが爆上がりしていた。
「「「は……はい……」」」
「柚子様とふ、ふ、ふ、ふ、フレンド登録……」
「また明日も手伝ってほしいなぁ♡」
「美桜が絶対お手伝いに来ますぅ!」
「歌バフ要員ゲットしたよ、エイラン」
「……可哀想に……」
親指を立てたエルミー。
ミオに対して心の底から憐れみの眼差しを向けるエイラン。
とりあえず、ちょうど22時なので解散となった。
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