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IG夏の陣、裏(1)
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時間はやや戻り――八月十六日、早朝八時。
IG夏の陣会場、来賓控室、春日芸能事務所宛ての一室。
「爆破予告ぅ?」
「ええ、Dancing Link Productionというところへ。それで他の事務所にはそういうものが届いていないか、探りが入ったんですよ。幸いうちは小さなできたてほやほや赤ちゃん事務所なので、そういうのはないですって答えましたけど。『applause』は最終日以外、ホテルから出られなくなったみたいです」
「小さなできたてほやほや赤ちゃん、ねぇ……?」
と、ソファーで紅茶と朝食を優雅に楽しむ社長から目を逸らし、栄治は春日芸能事務所に当てが割れた控室を見る。
ホテルの一等部屋と言われても納得しそうな広さと調度品。
赤くふわふわな絨毯、全面ガラス張りの向こう側は、ステージがすべて見渡せる。
壁にも大きなモニター。
すでにIG夏の陣の特番が流れ、ネット上で空気を盛り上げている。
本番まで一時間を切っていた。
『 Blossom』もデビューしたてで知名度は低いため、出番は出身の星光騎士団よりも早い。
栄治の横で一晴が目を細める。
「なにやらキナ臭いですな? 爆破予告は囮でしょうか?」
「くだらない揺さぶりにしては物騒ですし、普通に犯罪行為なのでシングリは警察に被害届を出すそうです。でも、僕の方で調べた限り『爆破されたくなければなになにをしろ』みたいな要求もなかったようですので、子どもの悪戯の範囲ではないでしょうか」
「それ子どもの悪戯で片づけていいわけないよね?」
「栄治、applauseの紗遊くんの安い挑発に乗ってしまったんでしたっけ? おかげでちょっと疑われて面倒くさかったんですよ?」
「うっ……」
彗に笑顔で見上げられて、言い淀む。
ここで「だってあいつが」なんて言うと完全に言い訳する子どものようでカッコ悪い。
ので、顔を背けて「ごめんなさーい」と拗ねて謝る。
「まあでもあれは私もムッとしたので仕方がありませんぞ。拳志郎くんを素人に毛が生えた足手まといとか言われては、煽り返したくもなります」
「ああ、そういう話の流れでしたか。栄治、結構世話焼きさんですもんねぇ……」
「別にそんなんじゃないんだけど?」
「まあ、わざわざ敵を増やしてつけ入らせる必要はないでしょう。今後は気をつけてくださいね」
二人とも笑顔と顔を背けて返事がない。
言うことを聞く気はなさそうである。
そんな二人に笑顔で「しょうがない子たちですねぇ~」と笑う社長。
「ですが……実際のところどうなのです? 我々は元々アイドル業界とは畑違いですからな、外から見る分に最近のアイドル業界の動きは些かおかしい。いや、特にここ五年……事務所の増え方が異様に感じます。かと思えばいくつかの事務所が立ち上がったばかりのアイドル事務所を合併吸収して肥え太っている。大元はだいたい司藤グループと石動財団関係。直くんも危うく呑まれかけて、作ったばかりの事務所を食われそうになりましたよね」
「それで行き場がなくなった俺たちを拾ってくれたり、秋野先輩の事務所の後ろ盾になってくれたのが花ノ宮財団――どういう繋がりなんだかわかんないけど、春日社長の持ってる財団と社長のお父さん。一時期俺が所属していたコスモプロダクションもヤバかったけど、そこも花ノ宮財団の支援で助かったよね。アレも社長の差し金でしょ? そろそろなにが起きてるのか社長も把握してるんじゃない? 子どもたちを呼ばなかったのも、俺と一晴にそろそろ教えてもいいって思ってくれたからじゃないの?」
じとり、と見下ろす二人。
十六歳の少年を、二十一歳の大人が睨むように詰めている。
二対一だというのに、なにも気にかけていない余裕の笑み。
「……そうですねぇ……」
ティーポットからカップへ紅茶のおかわり。
香りを楽しんでから一口。
ふう、と息を吐いてからカップをソーサーに置く。
「先ほど一晴が言っていた通り、司藤グループもとい司藤財閥と石動財団が関係していますが――業界を広げてアイドル人口とアイドルの需要と供給を増やし、双方なにかの思惑を果たそうとしています。具体的な内容はだいたい把握していますが、僕からすると一晴も栄治も一般人ですから、あまり詳しく教えたくはないですね」
「ふーーーん」
「もしや”不思議案件”ですかな?」
「石動財団側は”不思議案件”関係だと思っていただいて構いません。が、司藤財閥の方は一族内の内輪もめというか、骨肉の争いというか、内部分裂というか」
「え~~~。そんなのに巻き込まれてるの~? 面倒臭いんだけど~?」
「ふむ……では今回の爆破予告は?」
紅茶を置いて、パンケーキを口に運ぶ彗。
もぐもぐ、ゆっくり咀嚼してから「第三者でしょうかねぇ」とのこと。
司藤財閥も石動財団も関係ない、ということ。
顔を見合わせる一晴と栄治。
「本当はもうしばらく様子を見て、情報収集に努めつつSBOのプレイヤーを増やしておきたいところだったのですが」
「SBO? いきなりなんの話……?」
「二人にプロモーションをお願いしたのは紫電株式会社とソルロックですが、あれら、実は花ノ宮財団経由で作った会社なんですよ。つまり二人にプロモーションを担当してもらったのも僕の仕込み。司藤財閥も石動財団も、どちらも国内ではそれなりに相手にするのは厄介な大きさです。なので、こちらも息のかかった会社を駆使して後手に回らぬように仕込みだけはしていたんですよ」
と、ガラスのような薄さのタブレットを数枚、カバンから取り出してテーブルに投げた。
そこには栄治と一晴の顔写真と、なにかのデータ。
さらに綾城珀、甘夏拳志郎、朝科旭、雛森日織、音無淳。
IG夏の陣会場、来賓控室、春日芸能事務所宛ての一室。
「爆破予告ぅ?」
「ええ、Dancing Link Productionというところへ。それで他の事務所にはそういうものが届いていないか、探りが入ったんですよ。幸いうちは小さなできたてほやほや赤ちゃん事務所なので、そういうのはないですって答えましたけど。『applause』は最終日以外、ホテルから出られなくなったみたいです」
「小さなできたてほやほや赤ちゃん、ねぇ……?」
と、ソファーで紅茶と朝食を優雅に楽しむ社長から目を逸らし、栄治は春日芸能事務所に当てが割れた控室を見る。
ホテルの一等部屋と言われても納得しそうな広さと調度品。
赤くふわふわな絨毯、全面ガラス張りの向こう側は、ステージがすべて見渡せる。
壁にも大きなモニター。
すでにIG夏の陣の特番が流れ、ネット上で空気を盛り上げている。
本番まで一時間を切っていた。
『 Blossom』もデビューしたてで知名度は低いため、出番は出身の星光騎士団よりも早い。
栄治の横で一晴が目を細める。
「なにやらキナ臭いですな? 爆破予告は囮でしょうか?」
「くだらない揺さぶりにしては物騒ですし、普通に犯罪行為なのでシングリは警察に被害届を出すそうです。でも、僕の方で調べた限り『爆破されたくなければなになにをしろ』みたいな要求もなかったようですので、子どもの悪戯の範囲ではないでしょうか」
「それ子どもの悪戯で片づけていいわけないよね?」
「栄治、applauseの紗遊くんの安い挑発に乗ってしまったんでしたっけ? おかげでちょっと疑われて面倒くさかったんですよ?」
「うっ……」
彗に笑顔で見上げられて、言い淀む。
ここで「だってあいつが」なんて言うと完全に言い訳する子どものようでカッコ悪い。
ので、顔を背けて「ごめんなさーい」と拗ねて謝る。
「まあでもあれは私もムッとしたので仕方がありませんぞ。拳志郎くんを素人に毛が生えた足手まといとか言われては、煽り返したくもなります」
「ああ、そういう話の流れでしたか。栄治、結構世話焼きさんですもんねぇ……」
「別にそんなんじゃないんだけど?」
「まあ、わざわざ敵を増やしてつけ入らせる必要はないでしょう。今後は気をつけてくださいね」
二人とも笑顔と顔を背けて返事がない。
言うことを聞く気はなさそうである。
そんな二人に笑顔で「しょうがない子たちですねぇ~」と笑う社長。
「ですが……実際のところどうなのです? 我々は元々アイドル業界とは畑違いですからな、外から見る分に最近のアイドル業界の動きは些かおかしい。いや、特にここ五年……事務所の増え方が異様に感じます。かと思えばいくつかの事務所が立ち上がったばかりのアイドル事務所を合併吸収して肥え太っている。大元はだいたい司藤グループと石動財団関係。直くんも危うく呑まれかけて、作ったばかりの事務所を食われそうになりましたよね」
「それで行き場がなくなった俺たちを拾ってくれたり、秋野先輩の事務所の後ろ盾になってくれたのが花ノ宮財団――どういう繋がりなんだかわかんないけど、春日社長の持ってる財団と社長のお父さん。一時期俺が所属していたコスモプロダクションもヤバかったけど、そこも花ノ宮財団の支援で助かったよね。アレも社長の差し金でしょ? そろそろなにが起きてるのか社長も把握してるんじゃない? 子どもたちを呼ばなかったのも、俺と一晴にそろそろ教えてもいいって思ってくれたからじゃないの?」
じとり、と見下ろす二人。
十六歳の少年を、二十一歳の大人が睨むように詰めている。
二対一だというのに、なにも気にかけていない余裕の笑み。
「……そうですねぇ……」
ティーポットからカップへ紅茶のおかわり。
香りを楽しんでから一口。
ふう、と息を吐いてからカップをソーサーに置く。
「先ほど一晴が言っていた通り、司藤グループもとい司藤財閥と石動財団が関係していますが――業界を広げてアイドル人口とアイドルの需要と供給を増やし、双方なにかの思惑を果たそうとしています。具体的な内容はだいたい把握していますが、僕からすると一晴も栄治も一般人ですから、あまり詳しく教えたくはないですね」
「ふーーーん」
「もしや”不思議案件”ですかな?」
「石動財団側は”不思議案件”関係だと思っていただいて構いません。が、司藤財閥の方は一族内の内輪もめというか、骨肉の争いというか、内部分裂というか」
「え~~~。そんなのに巻き込まれてるの~? 面倒臭いんだけど~?」
「ふむ……では今回の爆破予告は?」
紅茶を置いて、パンケーキを口に運ぶ彗。
もぐもぐ、ゆっくり咀嚼してから「第三者でしょうかねぇ」とのこと。
司藤財閥も石動財団も関係ない、ということ。
顔を見合わせる一晴と栄治。
「本当はもうしばらく様子を見て、情報収集に努めつつSBOのプレイヤーを増やしておきたいところだったのですが」
「SBO? いきなりなんの話……?」
「二人にプロモーションをお願いしたのは紫電株式会社とソルロックですが、あれら、実は花ノ宮財団経由で作った会社なんですよ。つまり二人にプロモーションを担当してもらったのも僕の仕込み。司藤財閥も石動財団も、どちらも国内ではそれなりに相手にするのは厄介な大きさです。なので、こちらも息のかかった会社を駆使して後手に回らぬように仕込みだけはしていたんですよ」
と、ガラスのような薄さのタブレットを数枚、カバンから取り出してテーブルに投げた。
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