ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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新入生のデビューライブ

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 宣材写真も終わり、新年度のインタビューラッシュをこなし、あっという間に一年生のデビューライブの日が来た。
 初めて観覧席側――選ぶ側になったので、正直なところ非常に緊張している。
 
「はあ、はあ……すご、いどうしよう、ネット配信では見たことあるけど生で見るのは初めてだし、自分の好きなアイドルを星光騎士団に招くこともできるんですよね? はあ、ど、どうしよう、自分の好きなアイドルを揃えることができるなんて、まるでパワ○ロのドラフト会議……はあはあ、やばい、興奮してきた」
「ナッシー、あくまで加入判断は僕とごたちゃんで決めるんだからね? まあ、才能ありそうな子はどんどんオファー申請してもいいけどさぁ……今年はなんか、それなりに経験者いるみたいだから、去年みたいなことにならなさそうだしぃ」
「も、もちろんですよ」
 
 ドルオタのあまりの興奮ぶりに不安を覚える宇月。
 後藤は早くも興味なさそうで、衣装縫いを始めている。
 
(そういえば……他の三大大手グループは……)
 
 魔王軍は茅原一将ちはらかずまさが魔王を受け継ぎ、勇士隊は蓮名和敬はすなかずたかが君主となった。
 元々の予定通り。
 やはり先代に比べてまだ不安を感じる面子だが、それは自分たちも同じなので今は新入生に目を向ける。
 
「…………なんか、想像以上に動けるの多いね?」
「気になる人はいましたか?」
 
 どんどん出てきてステージでパフォーマンスをしていく一年生を見て、宇月が名前と顔写真を確認しつつチェックマークを入れていく。
 去年はゼロだったのにぃ、とぼやきつつ、宇月の手元のチェックマークを数えると五人。
 柳響やなぎひびきは当初から目をつけてはいたけれど、他にも先日北王子が話題に出した愛咲由依まなさきゆいゆずりはルシルと鏡音円かがねまどか、そして夕陽廉歌ゆうひれんかと名前が連なる。
 
「もしかして前情報入れてきました?」
「いや、柳くん以外は顔写真と名前くらい。もしかしてこれら経験者?」
「愛咲くは俺や柳くんと同じ劇団上がりですね。確か北海道支部の子だったかな。楪くんは親がSNSで露出させているアイドル系読者モデルです。本人がどういう希望で入ってきているかが気になるところですね」
 
 あー、そっち系ね、と宇月が渋い表情をする。
 親の承認欲求の道具にされている子は、比較的転科を選びやすい。
 グループに入れて育てるのには、正直向いていないのだ。
 もちろん本人にやる気があるのなら、話は別だけれど。
 宇月がさらりとチェックマークを消してしまう。
 
「え、いいんですか? 楪くん」
「他に比べて歌やダンスができてる方だなってちょっと思っただけだし? 鏡音ってのと夕陽ってのは?」
「鏡音くんはゲーム配信者ですね。なんか世界大会にも普通に出てる子です。もしかしたら普通科に通えそうにないから、芸能科を希望したのかもしれないです」
「へー、そういうタイプも入学してくるようになったんだぁ? SBOと提携してるのが全国でもうちの学校だけだからかもねぇ?」
「ああ、確かに。ゲーム会社と提携してるのなんで、間違いなくうちの学校だけでしょうしね。それで興味を持ってくれたのかも」
 
 しかし、しれっと鏡音もチェックマークを外されてしまった。
 ゲーム配信者というと、あまり歌やダンスは興味ないだろう。
 鏡音のパフォーマンスを淳も見ていたが、お世辞にも上手いとは言えないものではあった。
 そこから星光騎士団の『地獄の洗礼』を生き抜けるとは、正直思えない。
 あれを生き抜けるのは、魁星のような根性と周のような崖っぷちによる信念が必要。
 
「夕陽くんはコスプレイヤーだったと思います。アニメや漫画のキャラクターのコスプレで、コスプレ雑誌の表紙を飾ったりしていた子ですね」
「あー、声優雑誌の近くにそういう雑誌が増えたけど、ああいうのかぁ。歌もダンスも割と上手かったけど……なんか関係あるの?」
「夕陽くんのSNSをチェックした感じ、アイドルの衣装に興味があって入学してきたみたいな感じでしたね。色んな衣装を作って着たい、みたいな。で、その衣装を映えさせるためなら歌もダンスも完璧にやりたい、と呟いてます」
「うーん……ごたちゃんが好きそうな子、かな?」
 
 と、後藤の方を見ると衣装を縫うのから顔を上げて、興味深そうにコクコクと頷いている。
 チェックマークはそのままにされた。
 
「ま、こんなところかなぁ」
「オファーは出すんですか?」
「他に取られたくない子だけね。去年と違って経験者多いし、個人的にあのゲーム配信者って子は気になるけど……機材詳しそうだし……でもまあ、夕陽廉歌ってのだけオファー出せばいいでしょ。柳響からは加入申請きてるし、他は希望したらいつもの感じで篩にかければいいし」
「え? 愛咲くんは……」
「うーん……なんか、根性なさそう。ナッシーは同じ劇団上がりだから、構ってあげたかったら構ってあげてもいいけどよそで取るならよそでもいいかな。ウチばっかりなのもまずいから」
 
 魁星と周は不思議そうに顔を見合わせていたが、淳としても宇月の判断はよくわかる。
 今年はズブの素人だけでなく、経験者が多い。
 ならば、去年のIGで知名度を爆上げした星光騎士団だけでなく、魔王軍、勇士隊を始めとした他のグループにもバランスよく実力と才能のある新入生を行き渡るようにした方がよい、ということだ。
 それでなくとも去年は綾城珀の影響で、星光騎士団一強状態だった。
 今年でやや、バランスを取りたいのだろう。
 デビューライブはあくまでお披露目。
 グループ側に新入生側から加入申請を出されて、グループ側が許諾を出せば仮加入となる。
 バトルオーディションはグループ側からのスカウト。
 それでもグループが決まらない場合、去年の淳のようにグループ側へ直接加入申請を行う――という手順。
 今年の新入生から何人が星光騎士団を希望したのかは、まだ話を聞いていないけれど。


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