ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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今年の勇士隊(1)

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 翌日はSBOの中でSBO1周年記念ライブ。
 Blossomブロッサムメンバーのライブで全力応援のシーナとチコと両親のアバター。

「これ無料タダでいいのぉ!? うわーん! 栄治様ぁー!」
「かっこいいかっこいいかっこいいかっこいい……」

 二ヶ月ぶりに見た綾城もかっこいい。
 というか、ますます仕上がっている気がする。
 今年の夏の陣も優勝して、殿堂入りしてしまうんじゃないだろうか?
 そのくらい、Blossomブロッサムの人気は鰻登りの勢い。
 ――だが、裏を返すとこの勢いを危険視する事務所も多かろう。
 
(多分、秋野直芸能事務所としては元魔王軍の三年生たち――朝科先輩たちをIG夏の陣にぶつけて勢いを削ごうとしている……んだろうな。でも……)
 
 Blossomブロッサムのデビュー曲のイントロ。
 やばい、とチコとともに心臓を強く持ち、あのセリフがくるのを覚悟する。
 が――

『おいで』

 ぶつん。
 目の前が真っ暗になった。
 SBOの……現実ではないアバター越しのはずなのに、シーナ……淳は自室で目を覚ます。
 失神していた時間は約三十分。
 多分ライブ終わってる。
 神野栄治の、デビュー曲間奏に入るあのセリフの威力、去年のデビュー当時から増していやしないだろうか?
 淳、この一年でしっかり耐性をつけてきたと思ったのに全然失神した。
 あの人の色気やばすぎる。

(朝科先輩たちのお色気もすごいけど、俺がファンすぎるせいなのかやっぱり栄治先輩の色気の方がダメージでっかいんだよなぁ……)

 ログインし直す。
 ファーストソングの広間に出ると、ライブはやはり、Blossomブロッサムから魔王軍になっていた。
 新生魔王軍は茅原一将ちはらかずまさ麻野あさのルイ、長緒幸央ながおゆきお緋村壮馬ひむらそうま飯葛快斗いいくずかいとの五人が“フルメンバー”としてパフォーマンスを行っていた。
 魔王は茅原。
 四天王は新たに長緒、緋村、飯葛が参入。
 一年生たちも今は何人残るか不明だが話題に上がったゆずりはルシルくんがいた。
 有名なSNSモデルとのことだが、自分の魅せ方をわかっているパフォーマンスをしている。
 親のエゴでSNSモデルをやっていそうだったが、存外真面目にやっている様子。

「あ、おとなし……シーナくん」
「あ! ラチカくん」

 声をかけてきたのはラチカ――御上千景。
 このあとライブらしいので、シンプルにドルオタ活動にステージ近くへ来たらしい。
 そういえば入学式以降、あまり会えていない。

「勇士隊、新入生はどうだった?」
「えーと……蓮名先輩が……全然ミーティングに出てくれなくて……な、苗村先輩も行方が知れずで……」
「え……」
「日守くんに突かれて、ぼ、ぼくがみんなを集めて、一年生の面談とか加入手続きとかを、やって、ました」
「………………」

 思わず沈黙してしまった。
 石動が「蓮名と苗村はグループ維持の仕事しないだろうな」と言っていたが本当になにもしていないのか。
 石動と柴は卒業前の一年間で二人にグループリーダー、副リーダーの仕事を教え込んだとは言っていたのだが。
 ダメそうだったから千景にも多少教えておいたけど、と肩を落としていたのを思い出して思わず目を泳がせてしまう。
 石動の予想通りになり過ぎている。

「そ、それは大丈夫、なの?」
「一応……先生たちには代理リーダーのように扱われるようになってしまって……グループのホウレンソウはなぜか僕に連絡が来るようになってしまって……」

 教師陣から蓮名・苗村への信用度がなさすぎる。

「一年生はええと……田島優太たとうゆうたくん、小城野雷人おぎのらいとくん、愛咲由依まなさきゆいくんが加入してくれて……」
「ああ、愛咲って劇団上がりの俳優の子」
「はい。とてもいい子で……なんでも手伝ってくれるんですけど……」
「けど?」
「日守くんと……仲が悪いみたいで……」

 逆に日守と仲良くできるタイプの人間っている? と聞きそうになって口を閉ざす。
 笑顔でごまかしつつ、それは大変だね、と共感を示しておいた。

「あと、三年生二人が練習に顔を出してくれない上、前回の定期ライブでも戦隊モノのお芝居を始めてしまってライブにならず……」
「えっ。そ、そうだったの?」
「せ、星光騎士団は星光騎士団で大変そうでしたもんね……」
「あ、ああ、うん……」

 勇士隊の出番と星光騎士団の空き時間ライブが被ってしまっていたから知らなかった。
 というか、あの二人ついにやったのか。
 アイドルのライブで、戦隊もののお芝居を。
 さすがなんでもありの勇士隊。
 いや、間違いなく二年、一年の意見は完全無視っぽい。
 
「日守くんがそれでものすごく怒ってしまって……熊田くんも怒っていて……」
「それは……怒るだろうね……。即興だったんでしょう?」
「はい……。先輩たちがそういうのをしたがっていたのは知っていたのですが、さすがに愛咲くん以外アドリブで演技できる人はいないので……その、ぼく含め……」
「まあ、それはそうだよね。演技慣れしてて初めて対応できるというか」
 
 いくら蓮名たちのやりたいことがニチアサ定番のお芝居だったとしても、定期ライブに来ているお客さんたちが観たいのはアイドルのライブパフォーマンス。
 しかも、先月の定期ライブは、新入生たちのお披露目がメイン。
 つまり、勇士隊も新加入メンバーをファンに紹介する場面なのだ。
 それなのに突然三年生たちが、無断でお芝居を始めたら誰も練習につき合っていないので訳がわからずぐだぐだになるに決まっている。
 まして、勇士隊で演技に定評のあるメンバーはいない。
 せいぜい新加入している愛咲くらい。
 その愛咲だって、サプライズばりになにも聞かされていない状態でニチアサ定番のお芝居は宇宙猫になるだろう。

「それは……困ったね」
「思わず石動先輩にメールしちゃいました……」
「それで上総先輩昨日心配してたのか……」
「し、心配されてました……?」
「うん」

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