ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

文字の大きさ
356 / 553

先輩たちつよつよ

しおりを挟む

 事務所にまだ所属しておらず、即戦力になり得る生徒アイドル……。
 いっぱいいるなぁ、と真顔で悩んでいると、後ろから廣瀬が「待ってください」と前へ出る。
 
「じ、自分は構いません。演技のお仕事も、回していただけるんですよね……!?」
「ええ、それはもちろん。というか、例の乙女ゲーム声優のお仕事は『嫌』と言ってましたけど、これも一応演技のお仕事ですがやっぱり嫌ですか?」
「それは……」
「はあ? 声だけでも演技は演技でしょ? 言ってやってよ、一晴」
「大変勉強になりますぞ」
「……そうじゃなくてぇ……」
 
 大先輩からのありがたいお言葉。
 神野が考えていたより優しかったらしい。
 
「やりたい仕事だけやりたい、という気持ちはわかりますが、それだけでは己の成長を止めてしまいますからね。私もアイドルを通して今までやったことのないお仕事をたくさんやらせていただき、演技の幅が非常に広がりましたぞ。やりたくないからと仕事を断るのは自分の成長の妨げになります。人との出会いも重要です。次の仕事に繋がることもありますからな」
「ぐ……は、はい。それはもう」
「では、やりますか? 乙女ゲームの声優のお仕事」
「「やります」」
 
 早瀬&廣瀬、陥落。
 しかし社長、笑顔で淳に「あ、でも即戦力ほしいです。紹介してください」と言い放つ。
 それならば改めて腕を組んで考え込む。
 
「うーん、それなら……やっぱり現魔王軍、現勇士隊のメンバーは間違いないのではないでしょうか? 勇士隊はちょっと今ごちゃごちゃしているようですけれど、パフォーマンス能力はピカイチなので。あ、千景くんとか! とてもおすすめです! 好き」
「ああ、御上千景くん」
「はい! そうです!」
 
 ご存じでいらっしゃった。
 淳としては現在の東雲学院芸能科アイドルの中で最推しと言っても過言ではない。
 元々美人系アイドル大好きだったので、同学年で一番美人系の千景は最初から推しだった。
 超おすすめです、と満面の笑顔で千景を推薦しておく。
 
「じゃあリストに入れておきましょう。でもモデルと俳優から一人ずつほしいんですよね……」
「うちの同級生、モデルと俳優はいないんですよね……かろうじて魁星と日守くんがモデルの仕事が増えているくらい?」
「そうね」
 
 魁星と日守は顔も体型も整っているし、成長期真っ只中。
 だが二人ともモデルというジッとしている仕事が苦手。
 需要は多いが、本人たちの性質が合わない。
 かといって根が素直なので俳優業も苦手。
 あと、シンプルに二人とも学力がアレでセリフが覚えられなかったり漢字が読めなかったりという絶望。
 柳もそれなりにアホだが、頑張れば受験突破できる程度の学力はある。
 
「でも俺はあくまでもアイドルなので!」
 
 というわけで魁星は胸を張ってそう宣言する。
 魁星の反応に社長は「なるほど」と、若干なにがなるほどなのかわからないが納得をしてくれた。
 
「三年生にもモデルや俳優をやっている先輩はいないんですよね。うちの宇月先輩はもう事務所所属していますし」
「柳は?」
「響くんも事務所にはもう所属しているよ」
「あ、そっか」
「基本的に素人出発だからね、東雲学院芸能科は」
 
 最初からなにかしらの活動をしている生徒は、非常に少ない。
 アイドル以外の選択肢は、卒業後――というのが東雲学院芸能科のルートだ。
 
「まあ、本人たちのやる気次第で再考しますか。とりあえず魁星はRepressionレプレッション仮メンバーに決定です。来週からレッスンを開始してもらい、適正が問題ないようでしたら正式契約を交わしていただきましょう。それで構わないですか?」
「は、はい! 喜んで!」
「残りの二人、どうしましょうね。東雲学院からばかり取るのはちょっとなぁ。Vtuber部門は松田くん以上に歌って踊れる子がいないし、やっぱり新人をスカウトするか……ううーん」
 
 悩み始めた社長。
 今までのやり取りで早瀬と廣瀬は期待されなくなった模様。
 反省しているように見えて、一度失った信用は取り戻すのが難しい。
 目の前でそんなことを言われると早瀬と廣瀬はさすがに焦り始める。
 
「あの、社長……今更ですが、自分もその新グループをやらせていただければ精一杯頑張りますので」
「え、いいですよ。無理しなくて」
「いえ、いえ! や、やらせてください!」
「俺も……やりたいです」
「え、いいですよ。無理しなくて」
「「う……」」
 
 Repressionレプレッション、出だしが最悪すぎる。
 オタクとしては熱い~と思っていたが、Repressionレプレッション始動はまだ先になりそうだ。
 
「それにしても、魁星が春日芸能事務所にちゃんと入れそうでよかった~。やりたいことが見つかるといいねえ」
「う、うん。アイドルを続けられそうなのもちょっと嬉しい。ジュンジュンとはライバル関係? みたいなグループになりそうなのが、ちょっと不安だけど」
「えー、ドルオタからするとあっついけどなー!」
 
 はしゃぐ淳。
 不満気な顔になる魁星。
 他のメンバーが早瀬と廣瀬になるのか、それとも新しいメンバーが連れてこられるのか――。
 ドルオタ的にどちらもワクワク。
 
「あ、そうだ。栄治と一晴にも言おうと思って呼んでいたんですけど」
「え?」
「ああ、別にちゃんと用事があったの?」
「もちろんですよ」
 
 てっきり早瀬&廣瀬の教育で呼ばれたのかと思ったら、ちゃんと別件の用事があったらしい。
 自分たちは退席した方がいいのかな、と淳が「では、俺はこれで……」濁したら「あ、淳もFrenzyフレンジーリーダーとしてここにいてくださいねー」と言われてしまう。

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

【8話完結】魔王討伐より、不機嫌なキミを宥める方が難易度「SSS」なんだが。

キノア9g
BL
世界を救った英雄の帰還先は、不機嫌な伴侶の待つ「絶対零度」の我が家でした。 あらすじ 「……帰りたい。今すぐ、愛する彼のもとへ!」 魔王軍の幹部を討伐し、王都の凱旋パレードで主役を務める聖騎士カイル。 民衆が英雄に熱狂する中、当の本人は生きた心地がしていなかった。 なぜなら、遠征の延長を愛する伴侶・エルヴィンに「事後報告」で済ませてしまったから……。 意を決して帰宅したカイルを迎えたのは、神々しいほどに美しいエルヴィンの、氷のように冷たい微笑。 機嫌を取ろうと必死に奔走するカイルだったが、良かれと思った行動はすべて裏目に出てしまい、家庭内での評価は下がる一方。 「人類最強の男に、家の中まで支配させてあげるもんですか」 毒舌、几帳面、そして誰よりも不器用な愛情。 最強の聖騎士といえど、愛する人の心の機微という名の迷宮には、聖剣一本では太刀打ちできない。 これは、魔王討伐より遥かに困難な「伴侶の機嫌取り」という最高難易度クエストに挑む、一途な騎士の愛と受難の記録。 全8話。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...