ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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八月に向けて(2)

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「まあ、新しい劇場ができるのは僕たちとしても歓迎だし別にいいんじゃない? いつも校内のライブステージばっかりじゃあ経験が偏るもん」
「それはそうだけれど……」
「ブサーもさ、事務所の方針が決まったら教えてよ。こっちのレッスンとの兼ね合いもあるし、夏の陣が終わったら僕とごたちゃんはリーダーと副リーダーをナッシーとクオーに譲るから相談役に徹するし」
「あ……そ、そうっすよね……」
 
 いつまでも宇月と後藤がいると思うな、と遠回しに言われている。
 それと同じく自分たちが最高学年になり、新しい一年生を迎え入れ、歴史ある星光騎士団を維持していく立場になるのだと思い知らされた気がした。
 宇月は自分の人気が綾城を始めとした歴代の団長リーダーたちに比べて圧倒的に劣ると自覚がある。
 だからさまざまな企画を立てて、星光騎士団だけでなく東雲学院芸能科全体の底上げを図った。
 その効果のほどはまだまだ謎だが、綾城珀というカリスマのおかげで一気に増えたファンを支えられるだけの器が、東雲学院芸能科にもその生徒にも出来上がりつつあるのは間違いない。
 そういう意味では、宇月美桜という星光騎士団の団長の功績は大きく残る。
 それは間違いない。
 次は淳たちの番。
 なにが残せるのか、考えなければならない。
 
(魁星は顔もいいし、パフォーマンス力も上がっているし……魁星が来年俺と一緒にプロとしてデビューしてくれたならかなり注目度も上がると思うんだけど……)
 
 ただ事務所的にそれは難しい。
 まず、魁星が来年デビューができるほど練習をしていない。
 というか、そもそも魁星がデビューするグループの他のメンバーが決まっていないのだ。
 来年一緒の時期にデビューするのは不可能。
 
「そうですね。淳は――来年プロとしてデビューするんですよね? ……多分、綾城先輩のようなデビューの仕方をするのでは?」
「う……」
「ここまできたはバレバレだからねぇ? 珀先輩の二年から三年の頃のスケジュールとほとんど同じなんだもん」
「あ……う……」
 
 バレバレでしたか。
 まあ、バレバレだろうな、とは思っていた。
 もちろん宇月は続けて「まあ、まだ情報開示前だから言えないだろうけど~」と理解も示してくれる。
 
「すみません、匂わせもNGって言われているんです」
「だよねぇ。だからそのへんも別にいいんだけどねぇ? ブサーも言えないことの方が多くなると思うし、とは言えこいつ人に黙ってるの苦手そうだから、同じ事務所のナッシーが話を聞いてあげられるのならその方がいいでしょ」
「そう、ですね。まあ、でも本当に魁星の方は停滞しているっぽいので」
「あ、ガチなんだ。それならそれで決まったら相談しな~。でも三人とも次の星光騎士団のトップなんだから、そのへん意識して動いてよぉ? ドカてんとナギーも来年入ってくる一年どもを使えるように調教する仕事があるってことを意識して、威厳を持ってよねぇ?」
「あ」
「は、はあ……」
 
 もうその頃にはそういういびりのようなものは『パワハラ』と言われて廃れていくだろう。
 だがそれならば今後どのように一年生を育てていくべきなのかを考える必要がある。
 それは新しい課題だ。
 少なくとも鏡音と柳は元々のスペックが高いので、初心者が入ってくる東雲学院芸能科をあまり理解できていないかもしれない。
 そのあたりの兼ね合いも、考えなければならないだろう。
 
「ま、卒業までまだあるしぃ、星光騎士団を卒業するわけじゃないから深刻に考えすぎないでよねぇ?」
「う……は、はい」
 
 俯く魁星に気を遣った宇月が最後につけ加える。
 宇月のことをあんなに怖がっていたのに、いざ宇月がいなくなると思うと不安が勝つ。
 確かに支えられっぱなしだったな、と思う。
 
「宇月先輩はもう事務所決まってるんですもんね」
「そぉだよぉ。一応声優事務所だよぉ。声優のお仕事全然来ないけどねぇ。来てもモブ。その代わりずっとモデルの仕事は途切れないよぉ。なんなら最近は海外の雑誌にもお呼ばれしてるよぉ」
「やりたいことと需要は違うってことですよね……」
「そうなんよねぇ……。やりたいことと需要が一致している人は幸せそーって思うけど、それはそれで別の悩みとかあるんだろうなぁ。ま、頑張るしかないよねえ」
「自分もいろんな事務所からオファーはいただいているんですが、キャスター系の仕事ができそうな事務所がないのがなんとも」
「そっち系は大学出たあとの方が可能性上がるからね~。クオーは大学進学を優先した方がいいよぉ。この地域だと西雲学園の大学部が一番ランク高いかなぁ」
「実家からもっと離れた大学でもいいんですけど……」
 
 と視線を流す周。
 その意味に気づいて宇月が「そ、そうだねぇ」と半笑いになる。
 周の偏差値なら日本一の場所を目指せそうなので。
 
「俺はこのまま東雲学院の大学部にいくつもりだったけど、滑り止めで西雲学園大学部受けてみようかな~」
「え、ジュンジュン、受験するの!?」
「え? するよ? ミュージカル俳優って普通の俳優よりも寿命短いから。高卒と大卒だと演技の幅も変わると思うし」
「えっ……ぐ、うう……」
「まあ、卒業証明書を取るのもいいんだけどね。でも大学生役とかやることになったら、経験はしておいた方がいいかなーって」
「……あ……」
 
 という淳の言葉に魁星よりも顔を青くしたのは柳。
 柳もこの先俳優としてやっていくつもりなので、淳の言葉はどっしりとブッ刺さった様子。

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