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夏の陣目の前
しおりを挟む七月の定期ライブも無事に終わり、いよいよ八月――IG夏の陣が近づいてきた。
そんな八月だが、ゴールデンウィークの東雲芸能科GPご褒美ユニットWelcomeが始動を開始する。
近所の海の海開きから始まり、隣市や隣県の海開きフェスに参加しライブを行い、中旬に向けて夏祭りが激増するのでそれも各地を巡る予定。
しかも昼間は昼間でテーマパークのフェスやショッピングモールのイベントにも出演する。
「わかっていたけど鬼スケジュールすぎる! やっぱり他のグループにも応援を要請する!」
「やっぱり? まあ、そう言われるような気がしてたから『Monday』『Egg Ball』に代打依頼しておいたから行けなさそうなところはお願いしておきな~。先方には自分たちで連絡しておいてねぇ?」
「わ、わかった」
星光騎士団のレッスン室にやってきた夏山に、冷静な口調で言い放つ宇月。
さすがに連日二回行動の日もあるので、四人の体力が持たない。
すごすご去っていく夏山を見送って戻ってくる宇月。
ブリーフィングルームに戻ってきてから小首を傾げつつ「来年は十位以内全部使って三、三、四のグループにした方がいいかもねぇ」と呟く。
これは独り言というよりも、来年団長になる淳に向けたアドバイスだ。
「そもそもWelcomeの仕事なのに他のグループが死後地代出していいんですか?」
「いいんだよ。Welcomeに回した仕事は夏の陣で調性入る三大大手グループの代打として、東雲学院芸能科のアイドルに依頼されたお仕事だもん。東雲学院芸能科のアイドルならどこでもいいの。依頼主は”東雲学院芸能科のアイドルグループ”に来てほしいんだよ。この肩書でお客さんを集めるんだから。珀先輩のおかげで“東雲学院芸能科のアイドルグループ”ならなんでもいいっていう依頼が増えているんだよぉ。学生セミプロでもIG夏の陣なり冬の陣なりで、一気に有名になるかもしれないからねぇ」
宇月が今回東雲芸能グランプリでコラボユニット制度を採用したのも、そういう“東雲学院芸能科のアイドルグループ”ならなんでもいい依頼者に、一つでも多くのグループを売り込むため。
ある意味winwinなので、先方も代打はどれでもいいだろう。
“自分”を愛してほしいアイドルとしては、その“どれでもいい”感覚が少し悲しくもあるけれど、今はまだ三大大手グループ以外の東雲学院芸能科のアイドルグループを売り込みたい。
三大大手グループや花鳥風月のような“歴史”を作ることなく、三年やそこらで解散してしまうグループもも減らしていきたいのだ。
名前は残れば残るだけ定着する。
実力の証明にもなる。
「既存グループに名指し指名が来るのが一番だけれどねぇ」
「そうですね。でもWelcomeとしてはMondayやEgg Ballに仕事が振れる時点で成功ですよね」
「まあ、確かに。でも今年の一年で一年だけのグループってWalhallaだけでしょ? 余ってるやつらはなにしてんのかね?」
「さ、さあ?」
確かに三大大手グループ以外の既存のグループに、一年生が新たに加入した話をあまり聞いていない。
定期ライブの時も一年生の時のように見学・観戦に行く時間も取れなくなっている。
智子に聞くところによると一年生のライブはあまり見かけないらしい。
淳も細かくチェックはしているが、ホームページに載っていないので更新されていないだけかと思っていたが……。
「そのへんどうなの、ドカてん? ナギー?」
「えー、知らないでーす」
「オレも知らないですね。クラスで話す人は限られているし」
「っていうか、うちの学年、結構派閥がきっぱり分かれているんですよね。芸能活動経験者か未経験者かで。未経験のひとたちのものすごく一方的な敵意がひしひし感じられるっていうか」
「はい」
え、そうなんだ、と目を丸くする。
芸能活動経験者がこぞって大手三大グループに加入したのに比べ、未経験者はあぶれたまま。
どこに誰が加入した等は鏡音も柳もまったく耳に入ってこない。
「まさかどこのグループにも属してない、とかないよねぇ?」
「それはさすがに先生になにか言われているんじゃないんですか? もう八月ですし……夏休み明けに転科を勧められますよ」
「そうなんですか?」
「え、ど~なんだろうねぇ? 話しかけても無視されるもんねぇ」
「ね」
一気に不安になる淳と宇月。
一年生は来年再来年の東雲学院芸能科を担う大事な存在。
芸能活動経験者は今年の一年の中では二割程度。
星光騎士団で獲ったこの二人も経験者枠ではあるものの、未経験者も加えて例年通りの『地獄の洗礼』を行った上で残ったのがこの二人なのだ。
未経験であろうがなかろうが、星光騎士団は『地獄の洗礼』さえ搔い潜ることができれば戦力として育ててもらえる。
「ま、今はIG夏の陣に集中したいし、一年生の事情は先生たちに丸投げしよ。僕とごたちゃんは最後の夏の陣だしね」
「そうですよね……。めちゃくちゃ気になるんですけど……」
「夏の陣が終わったら先生に聞いてみて、余裕があったら手を出してみたら? 転科決断て早い子だと夏休み明けに決めちゃう子もいるだろうけれど、それでもほとんどの子は二年生からだしねぇ」
「そ、そうですね! 来年になったらそれこそ俺が余裕ないと思うので……そうしてみます!」
優しい。
身内意外に本当に興味がなく、全体の利益を考えるタイプの宇月だが、やっぱりこういうところは尊敬できる。
そんな宇月も夏の陣以降は退陣して、ただの『星光騎士団第一部隊所属の卯月美桜』になるのだ。
夏の陣が終わったら、今度は淳たちの世代に団長、副団長が譲渡される。
寂しいけれど。
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