ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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九月のイベントに向けて

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 それから数日後、八月の定期ライブ。
 星光騎士団、魔王軍、勇士隊、花鳥風月は夏の陣に参加したことで午前中の開場時間にライブをして出番終了。
 が、しかし――八月は後藤と周の誕生日月である。
 当然今年も二人にケーキが用意されていた。

「ケーキ、三十秒で完売しましただそうです」
「三十秒なんてことあるぅ?」
「整理券が事前に配られ、その場でお支払いしてもらっていたので、手渡していく流れ作業だったようですね」
「ついに流れ作業になったかぁ」

 事前に支払いを済ませた人に整理券を配り、整理券を持っている人が物販に並んだらそのまま手渡しで終わり……ということになったらしい。
 いや、ナマモノなので早く食べてもらう方がいいけれど。
 それに買えなかった人も、東区の片森かたもり洋菓子店に電話、またはネットで予約したら購入ができる。
 片森洋菓子店のパンフレットと一緒に物販で説明も行ったので、買い逃す人はいないだろう。多分。

「でも、お花……ありがとう……」
「後藤先輩にはものすごくお世話になりましたし、今年で祝えるのが最後なので」
「あんまりお高いものを用意できなくてすみません」
「ううん……嬉しい、よ……」

 SDを持たず、一、二年から贈られた花束を持ってはにかむ後藤。
 ついに、あのSDなしでは宇月と綾城としか話せなかった後藤がSDなしでも淳たちと話してくれるようになった。
 これも秋野直芸能事務所所属が決まり、メンタルケアを欠かさず受け、裏方の仕事も任されることが増えてきたためか。
 たとえ、才能があっても、努力して身につけている能力が高くても、やはり彼自身が望むことをやらせなければ心は削ぎ落ちていく。
 彼の母親も祖母も、彼に『義務だから』と多くを望み、やらせてきたが結局はそこに帰結する。
 それを彼自身が証明しているように思う。
 辿々しくても、この変化は本当に大きい。

「周もおめでとう~」
「ありがとうございます。誕生日月にこうしてファンの方々にもお祝いしていただくのは……結構嬉しいものですね」
「周もファンサが上手くなってきたもんね」
「そうですか? それならよいのですが……。淳にSNSのファンサービスを都度都度聞いていたおかげですね」
「魁星~? 炭酸ジュースじゃなくてお水も飲みな~?」
「ブフォッぉっ! ゲホゲホ! …………はい」

 周と後藤のために用意したケーキを食べながら、コーラを仰ぎ飲む魁星に振り返ることなく釘を刺す。
 つい先日熱中症で病院に半日入院した魁星は、咳き込んだあと水のペットボトルにも手を伸ばす。
 あのあとちゃんと、ケチケチせずにエアコンをつけて寝るようになったとのこと。
 エアコンで乾燥して喉が痛い、というタイプならまだしも、魁星は喉が激強の体質。
 声変わりで一ヶ月も声が出なかった淳には羨ましい体質である。

「九月は大きめのイベントも特にないしぃ、十月中旬の東京ジャポニーズゲームショーまで練習に集中かなぁ?」
「そうですね」
「いえいえ! 大事なイベントが抜けていますよ! 宇月先輩、周!」
「そうですよ!」
「「え?」」

 呑気に九月は練習月、としようとしていた宇月と周に物申したのは淳と鏡音。
 この二人が一緒になにか言い出す時はだいたい――。

「十月五日に『第一回SBO歌姫&歌い手グランプリ』 が開催されるんですよ!? 一応プロモーションで参加してほしいって言われてるじゃないですか!」
「そうですよ! グランプリ優勝者またはグループには特殊演出付きのアバター用衣装がもらえるんです! 性能はないですが、そういうのってゲームプレイではテンション上がるので必要ですよ」
「あー、そんな仕事もあったねぇ。……アバター用衣装とか興味なくて忘れてた」
「もう淳と鏡音くんだけで参加してきたらいいのでは? 団体戦でなくとも、個人戦があるのでしょう?」
「なんかIG夏の陣に出てからしばらくトーナメント戦はいっかなぁって気持ちにならない……? 僕もちょっと参加しなくていいならしたくないなぁ」
「「えっ」」

 宇月、周、柳にまでそんなふうに言われてギョッとする淳と鏡音。
 ちらりと後藤の方を見ると、ものすごくわかりやすい愛想笑いをされた。
 さらにちらりと魁星を見ると、あからさまに目を背けられる。

「み、みんな参加しないんですか……!? 最近SBOにログインしていないのに……!? 栄治先輩と一晴先輩も出るんですよ!?」
「え? そうなの? 普通にすごくない?」
「そうですよ、普通にすごいんですよ! しかも今回なんと! あの! 憩星矢いこいせいや先輩が参戦表明してるんですよ! 栄治先輩のSNSで言ってました!」
「あー、勇士隊の元君主の人!」
「そうです!」

 憩星矢は勇士隊の御上千景みかみちかげ日守風雅ひもりふうがの二人に縁深い十二代目勇士隊君主リーダー
 現在はアイドルを引退し、故郷北海道で野菜農家をしている。
 大変品質のよい野菜を作っているらしく、淳の神、神野栄治こうのえいじご用達。
 神野が卒業後、芸能界を去ったにも関わらず関係を続けている唯一の相手。
 現役時代は明るく元気を分けてくれる、王道タイプのアイドルであった。
 いつかまた、一緒に遊ぼう、歌おうね、と神野と約束していたが、その約束を今回の『第一回SBO歌姫&歌い手グランプリ』で果たそうということらしい。

「御上くんがまた泣きそうだねぇ」
「事前に連絡済みですけど……代理スマホでイーストホームから連絡した、時短文で大量にメッセージが来たので多分動揺からの爆泣きしていたと思います」
「あ、ああ、もう泣かせてたんだ」
「ひ、人聞きの悪いこと言わないでください……!?」

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