ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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『赤逆の森』のダンジョンボス(1)

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 というわけでフィジーを連れて『赤逆の森』の奥へと進む。
 ビクビクと背中に隠れるフィジー。
 周囲を警戒していた鏡音と鶉が接敵すると、一瞬で倒していく。
 おかげで淳以外のレベルがだいぶ上がるので、「レベリングに不向きのダンジョン……?」と首を傾げられる。
 この人たちがおかしいんです。

「あ、あれですかね?」

 鶉が指差した方向には、逃げていく二人のプレイヤーと、取り残される二人のプレイヤー。
 歌声が聴こえるので、バフを活用してなにかと戦っているのだろうとわかる。

「妹さんとその不良って、パーティー組んでる?」
「は、はい」
「今逃げて行ったのは別のパーティーの人かな? それにしても、なにと戦って――」

 顔をもう一度逃げて行った人たちの方を向けると、薄いなにかが木々の隙間を抜けていく。
 気のせいか、と思ったが、鏡音と鶉が見たこともない剣に装備を変えたので「え?」と目を丸くしてしまう。
 二人が睨みあげている方に視線を動かすと、なるほど――

「なに、あれ」

 半笑いになるほどに、このゲームをしていて見たことのないものが見えてしまった。
 宙を泳ぐ細長い蛇。
 いや、龍?

「えっと……これ、倒せるの?」
「な、なにこれ?」
「自分も見るのは初めてですけど、『赤逆の森』の十二のダンジョンボスの一体――アルカナドライブドラゴンですね」
「なにそのボスっぽい名前の魔物」
「ボスなんですよね」

 魁星、鏡音に的確にツッコミを入れられる。
 つまりお目当ての『千手龍』ではなく、別のドラゴンボスと遭遇した、ということらしい。
 いや、どちらにしても十二のボスを倒して、そのアイテムをオークションで売ろう、という話をしていたので、ボスと遭遇できたのは実に僥倖。
 杖を構えて「アイテムドロップ率上げる?」と鏡音に聞いてみる。
 見えるHPケージ、八段もありやがるのだ。
 しかも、そのうち四段は青い。
 青ケージは三回破壊しなければ通常ケージにならない。
 つまり、先程のブラックデススコーピオが可愛いと思えるレベルの体力。
 当然強さも硬さも比ではない。
 しかし、淳たちが歌バフをかければ、ブラックデススコーピオよりも簡単に倒せる。
 そのための歌バフ。
 それがSBO。

「先輩たち、歌バフお願いしてもいいですか?」
「いいよ。好きに暴れておいで。周は攻撃力上昇、魁星は速度上昇、響くんは俺と一緒にアイテムドロップ率上昇を歌おうか」
「え!? 防御力上昇とかじゃないんですか?」
「うん。あの二人にそれはいらないんじゃないかな。他に必要なバフある?」
「いらないですね」

 剣を構えて、臨戦態勢の鏡音と鶉。
 だがあまりにも巨大な魔物。
 まだ全長が見えない。

「フィジーくんは妹さんを探して。この辺りにいるんだよね?」
「は、はい。す、すみません!」

 フィジーに指示をして、曲を開始する。
 歌を歌い始めると、右上にバフが表示される。
 淳が歌うのは和風曲。
 [アイテムドロップ率LV7][効果付与7]。

「うおお! [アイテムドロップ率LV7]でたぁあぁ!」
「すごおお! ジュンジュンすごい!」
「さすが淳先輩!」
「魁星、響くん、歌バフつけてあげて」

 大はしゃぎになる魁星と柳とフィジー。
 確かにLV7は初めて到達した。
 単身の歌バフでLV7いけるんだ、と思ったほどだ。

「~~~♪」

 魁星たちがはしゃぐ横で、周が歌声を響かせる。
 右上に[攻撃力上昇LV5][効果付与5]が表示された。

「おお! 最高記録!」
「本当だ! 周、明日はこの曲だね!」
「そうですね! この曲にします!」

 そういえば本日の本来の目的、明日のグランプリで歌う曲の検討であった。
 ここにきて本来の目的を思い出す面々。
 淳も周も自己新記録を出したので、もしかしたらちゃんとした戦闘を想定していた方が高い効果が出やすいのか?
 もしくは、敵が強ければ強いほど強いバフになりやすいという可能性もある。
 そういう隠れた仕様があるのだとしたら、戦闘していない状態のバフが一番ナチュラルなLVだ。

「~~~~♪」

 歌声を響かせる柳。
 淳が付与した[アイテムドロップ率LV7]にプラス柳が付与した[アイテムドロップ率LV5]が付与される。
 魁星の[速度上昇LV5]も付与されたのを確認してから、鶉と鏡音が赤い木の幹へと跳び上がった。

「音無先輩! 追加で斬撃強化付与を!」
「了解! ~~~~♪」

 SBOオリジナル曲、杖のスキルでさらに強化された歌バフを付与。
 まさに付与が完了した瞬間、鏡音が回転しながら巨大で半透明な龍の背中――その鱗を、回転しながら根こそぎ削ぎ落としていく。
 凄まじい速度で回転しながら移動し、鱗を剥がす姿に歌うためではなく、純粋に驚愕して口を開いたまま固まる面々。
 龍の悲鳴が森に大きく響き、じたばたと暴れ始める龍。
 なにが驚いたって、龍は木の幹を貫通して上へ上へと昇り始めた。
 空がよく見えないほどに高く生い茂った木の上部へと向かう龍を、次は鶉が追って同じ方法で鱗を削る。
 なにが恐ろしいって、あの二人が行っている攻撃は“スキルではない”。
 シンプルなプレイヤーのスキルによる攻撃。
 それだけで、一列目のHPケージの一つ目の壁が完全に破壊された。

「貫通強化付与をお願いします!」
「りょ、了解! ~~~♪」

 鏡音の指示で淳が先程と同じ歌バフを付与する。
 付与完了の直後に鏡音は鱗を削いだ場所に剣を突き立てた。

『――――――!!』

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