冒頭短編寄せ集め!

古森きり

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弟が『姫騎士になる』と言い出したら私が王太子になることになりました。

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「姉さま、私、姫騎士になります!」
「は?」


わたくしの名前はセシル・スカーレット・ロンディニア。
ロンディニア王国の第三王女。
そして、私に瞳を輝かせながら夢を教えてくれたのは私の弟にして、この国待望の第一王子セイドリック・スカーレット・ロンディニア。
そう、『待望の』だ。
私の国、ロンディニア王国は男児が後継になることが法で定められている、今時の近隣諸国からちょっと遅れた古臭い文化を持つ。
そのうえ、私とセイドリックの母上スカーレットは身分の最も低い第三側室。
今はセイドリックが生まれたことで正室に格上げされてはいるものの……元正室や第一、第二側室の方々からは妬みつらみで相変わらずお立場が悪い。
私も姉たちから醜男&性格最悪の小国『シャゴイン公国』の王太子、ジーニア様の婚約を押し付けられたり、色々と大変なの。
そ、そんな中、更に来年には十三にもなる王太子の弟が『姫騎士になる!』っていやいやいやいやいやいや。
まずもってお前は『姫』ですらないのに?
性別『女』でもないのに?
王太子が『騎士』になれるはずもないのに⁉︎
全体的におかしいからね⁉︎
純真無垢な瞳で夢を語るのは悪いことではないけれど、さすがにお姉さまもそれは「素敵な夢ね、頑張って」とは言えません!

「セイドリック……あなたは男の子ですし、王太子なのよ? 残念ながら『姫騎士』は無理だわ……」
「なぜですか?」

姉として現実を分からせることも必要!
純粋に「なんで?」と首を傾げる弟の可愛さに負けそうになるが、ここで退いたら弟が弟じゃなくなる!
確かに私の弟はその辺の貴族令嬢など贔屓目抜きしにしても(確実に贔屓目入ってるけど)可愛い!
間違いなく可愛い!
絶対的に正義的に可愛い!
でも男の子なのよ!
幼い頃などドレスを着せて遊んでいた私が悪いのかもしれないけど、さすが『姫騎士』にさせることは生物学的にも物理的にも立場的にも色々総合的に無理!

「あなたはすでに『王太子』だからよ。『王太子』から『姫騎士』になるのは無理なのです。そもそも『姫』は私でしょう? あなたは『王子』。そして『王太子』でもあります。『王太子』は『騎士』にもなれません。だから残念だけど無理なのです」
「そんな……でも私、姫騎士になりたいです」

食い下がってきただとぉ⁉︎
いつも私の言うことは素直に聞いてくれるセイドリックが私に食い下がってきたぁ⁉︎
これは…………本気だ!
この子、自分が納得できることならすんなり「わかりました」と理解してくれるけどそれでも譲れない時はテコでも動かない!
ま、まずい……!
こうなったセイドリックの頑固さはお父様でもどうすることもできない!
捨て猫を拾ってきて「飼いたい」と言った時、一番上の異母姉が軽い猫アレルギーだから飼えないのですよ、と言い聞かせたら「でも死ぬわけではないのでしょう? この子猫は捨てたら死んでしまいます。それに、猫の寿命は十年です。我々の寿命より短いです。異母姉さまが十年我慢してくだされば良いだけではないですか」と持論を展開し、西に猫専用離れができてしまったほど譲ってくれない!
ちなみにおかげで異母姉さまたちから私への当たりがキツくなったのは言うまでもない。
いや、セイドリックの言うことのほうが私も正しいと思っていたからいいけれど!
セイドリックのためなら異母姉たちのいじめなど些細なことだけれど!
でも『姫騎士』は私でもさすがに!

「…………。そもそも、なぜ姫騎士になりたいと思ったのですか?」
「姉さまを守りたいからです! 私は昔、姉さまに着せてもらった可愛いドレスなどが大好きです! それにかっこよくて強くて姉さまを守れるものといったら騎士です! だから姫騎士になるのが、姉さまをお守りするのに一番良いと思いました!」

天使……!
胸キュンで死んでしまう!
ああ、セイドリック! 私の可愛い弟!
なんて眩しい笑顔なのでしょう!
言い返したいことは山のようにあるのに言葉が全て封印されてしまったかのように出てこない!
無理、そんなこと言われたら私…………!

「仕方がありません。多分無理とは思いますがお父様に相談してみましょう」
「はい!」

多分というか絶対無理だと思うけど。
そう思いながらも、セイドリックの手と手を繋いでお父様の執務室へと向かうのであった。
…………ところで私、この後ダンスのレッスンだったような?
まあ、いいか。




「は? 姫騎士になりたい? は?」

お父様のお部屋でセイドリックは冒頭のセリフをお父様へ伝える。
お仕事中のお父様は目を丸くして素っ頓狂な声を出した。
ですわよね!
そしてちらり、と私を見る。
『説明を求む』と。
私はセイドリックに先程の『理由』をお父様へ伝えるよう促す。
そして、全てを聞き終わったお父様は私が押し負けた理由も理解して乾いた笑いを浮かべながら頭を抱えた。
すみませーん。

「…………。いや、しかしな。セイドリックは剣のレッスンが嫌いだろう? 騎士とは剣を扱えねば」
「練習します!」
「だが今だにセシルに勝てぬと聞くが?」
「うっ、そ、それは……」

いや、まあ、人には得手不得手がありますから仕方ありませんよお父様。
姉の立場で弟が心配すぎて一緒に剣を嗜んだものの先生に「才能がおありです!」と満面の笑みで断言されてしまった私が言うと変な感じになるので言わないけれど。

「…………。ふむ、だが、しかし騎士か。そうだな、隣国ザグレに留学の話があっただろう?」
「え? はい?」
「確か、来年からザグレの王太子さまも通われるので、一緒にどうか、とのお話でしたわね」

隣国ザグレの王太子は私と同い年。
ザグレは大国で、軍事的にも経済的にもこの大陸では他の追随を許さない。
なのに今の王は先代と違い平和的な思想が強く、他国ーー主にその恩恵を受けているのは我が国だろうーーに対してはその自治権を尊重し、融和的に接してくれている。
周辺の近隣諸国もそうだろう。
だが、一度あの王と面会すればそれが『眠れる獅子を起こすべからず』とわかる。
あの王は爪を隠した鷹だ。
絶対に怒らせてはならない。
もちろん、その政策に関しては歓迎すべきもの。
ぷちりと潰されるくらいなら諂って仲良くしていたい。
どの国も今の所考えは同じ。
そして、その考えのもと、ザグレの王太子とお近付きになる『留学』は絶好の機会。
誰も断りはしない。

「ちょうどいい、お前たち一緒にザグレに行って来なさい」
「「はい?」」

私とセイドリックが首を傾げる。
だって私たちの年齢は三つも違うのだ。
確かにあの国の学校は歳など関係なく、能力で下級、中級、上級とクラス分けされると聞く。
在籍できる年数は二年間。
二年間、上級クラスにしがみつくのは相当に難しいらしい。
年齢は関係ないが、王太子さまとお近付きになるなら上級クラスにいなければならないだろう。
わ、わたしとセイドリックにそれをやれと言うの?
ほとんどの国の王族貴族がザグレの王太子目当てに殺到するのに?
そ、そんな無茶な!

「お父様、私は姫騎士になりたいのですよ? なんでザグレに留学しないとならないのですか?」
「セイドリック、お前はこの国の王太子。いずれ私の後を継いでもらう。しかし、お前の夢もまた尊重したい。そして、セシル、お前はもう十六だ。本来ならシャゴインのジーニアに嫁がなければならない」
「…………」

はい、と答えるべきなのに声が出ない。
行きたくない。
嫁ぎたくない。
会ったこともないけれど、残念な噂しか聞かないあの王太子のところへは……。
会ったこともないからこそ余計に嫌だ。
お父様に、見透かされているのかしら。
俯いてしまうと、セイドリックが手を強く握ってくる。
心配させまいと微笑むけれど、セイドリックの表情は険しい。

「だが、ザグレの国へ留学が決まったとなれば向こうも婚姻を急いたりはできんさ。二年間は自由に楽しい思い出を作りなさい。そのあとはあの国の王妃としてしっかりと立派に務めを果たすんだよ」
「……お父様……!」

自由な時間!
素敵な思い出作り!
お父様……!

「待て、話はこれで終わりではない。セイドリックの夢もまた叶えてやらねばならないだろう?」
「え? あ、はい」
「はい! そうですよ! 私は姫騎士になるのです!」
「自由にはして良いが王族であることを忘れてもらっては困るからな。お前たち、ザグレに入学したらセシルはセイドリック、セイドリックはセシルと名乗って生活しなさい。卒業までセシルは我が国の王太子セイドリックに。セイドリックは我が国の王女セシルになるんだ」
「「は?」」

今度は私たちがそう聞き返す番だった。
おおおおおおおお父様、今なんと⁉︎

「セイドリックはそれで『姫騎士』になれるし、セシルはセイドリックのように王太子として自由に過ごすことができるだろう? セイドリックの婚約者は国内で探すから、どこぞの国の王女や令嬢に言い寄られても断って構わない。セシルに婚約者がいることは周辺諸国周知の事実。どうだ、良い考えだろう? 問題は全て解決!」
「本当です! お父様すごい!」
「全然解決しておりません! 確かに私とセイドリックは姉弟……顔は似ておりますが二年間も隠し通せるわけがありません! バレます! 絶対バレます! 一国の王子と王女の入れ替わりなどバレたらどうなさるのですか!」
「バレないように頑張りなさい」
「お父様⁉︎」
「姉さま!」

はっとする。
手を握ってきたセイドリックの満面の笑み。
キラキラ輝く瞳。
こ、これは!

「一緒に同じ学校に通えるうえ、二年間も異母姉さまたちのことを気にせず一緒に居られるなんて私は幸せです!」
「っぅううう!」

お父様がニヤリと笑う。
終わった。
なにか、王女として大切なものが。

「……………………私もです、セイドリック……」



こうして、来年私はセイドリックとしてザグレの国へ留学することが決まった。
このことを知っているのは私とセイドリック、お父様と私たちの従者のみ。
でもこれもセイドリックの夢を叶えるため。
セイドリックが立派な王太子になるために必要な試練、し、試練? あと必要?
い、いやいや。

「楽しみですね、姉さま! あ、えーと、セイドリック!」
「そ、そうですね。姉さま……」











不安しかない学園生活が幕を開ける。
これは私が運命の人と出会い、幸せになるまでの物語。
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