14 / 44
癒しの文通
しおりを挟む保健室で手当てをしてもらい、ようやっと帰宅。
親父に絶対チクる……!
嫁入り――する気はないが――嫁入り前のよその娘の顔を殴るとは、頭おかしいだろあいつ。
前世で横取り女にまんまとハマった男は頭お花畑に描かれることが多かったが、「こんな馬鹿になるわけないだろ」って笑ってた。
そんな笑ってた前世の俺へ……横取り女に盗られた男、全っっっ然ダメだわ、頭!
「はあ……ん? あれ、手紙が届いている……あ!」
集信箱――いわゆるポストに手紙が入っている。
さっきまで最悪の気分だったが、集信箱に入っていた手紙の送り主名を見て気分上昇。
最近の俺のご機嫌は、全部この手紙のおかげと言っても過言ではない。
一条滉雅……一条ノ護と書くと色々“障り”があるから、そう略して書いてある、隊長さんからの手紙だ。
先日来た時に手紙をいただければ質問に答える、と伝えて帰ってもらったのだが、あの人、後日マジで手紙を書いてくれた。
俺に対して霊術はどんなものを使えるのか、どんな研究、勉強をしているのかの質問が書いてあったのだ。
さらに先日渡した霊符――『自己防衛』をまた譲ってほしい、とも。
もちろん同封してお送りしたら、『とても役に立った。ただ、複数の禍妖が同時に襲ってきた場合、発動に時間がかかった。また、一匹の禍妖を捕らえて他の禍妖がの話状態になったため、吸引機能などつけられないか?』と使用の感想をつけてくれる。
あくまでも身を守るためのもの、襲われた時に禍妖へ隙を作るものなのだが確かに複数個体で襲ってこられた時に大変かぁ、と納得してしまった。
それだけでなく私が考えていた生活に使える霊術についても話した。
火を起こす霊術は『野宿になった時などに大変重宝している。他の隊員にも使い方を教えてもいいか?』なんで感想をもらって嬉しくなったよなぁ!
小さな灯りを灯す霊術も、『新月の夜の討伐対象探しにものすごく役立っている』と言われて、もうずっと絶賛の言葉が並んでて気分いいに決まってる。
滉雅さんへの好感度上がりまくってるよ。
滉雅さん、最高! 大好き! アンタになら嫁ぎたい! とまで思う最近!
まあ、さすがに身分が違いすぎるから無理だけどな。
こうして俺の研究を理解してくれる人がいるのは心強い。
もう少し仲良くなったら、就職先紹介してもらえないかなー。
滉雅さんなら“女だから”と就職先を限定したりしないと思う……多分。
ウキウキ家の中に入って、家着に着替えて手紙を開封する。
「ふむふむ……なるほど……。確かになぁ。うんうん……よし、じゃあ次は……」
最初の方は前回送った霊符の使用感想。
前回送ったのは、道を覚える霊符。
一度歩いた場所を霊符が覚えて、帰り道に通った道を光蛍のようになって案内する、というもの。
今までは赤い紐などを木々にくくりつけて目印にしていたらしいが、これにより時間短縮に成功した。
だが、帰り道を案内する光の玉が小さくて、十人以上の部隊隊員数人が光の玉を見失ってしまったという。
それに、昼間だと光の玉は見えにくい。
夜道の一人歩きを想定していたから、その感想は納得しかない。
要改良ってやつだな。
戦闘に関する霊術や霊符の研究は、専門の研究所がやるから、俺が提案する霊術や霊符はもっぱらサポート専門。
こういう感想がもらえるのは、研究に役立つ。
「……ん?」
ふむふむ、なるほど、と冊子にメモを取っていると、手紙の末尾に『遠征が終わり、近日中に央都に帰る。都合が合うようであれば、また舞殿の料理を振る舞ってもらうことは可能か。霊力を補充させていただけると、次の任務の時に活かせるのだがいかがだろうか』と締められていた。
あー……忘れてたけど、俺の手作り料理って霊力含有量がかなり多いらしい。
親父に言われて自分の霊力量を再検査した結果――俺の霊力量は内地守護十戒の宗家の令嬢並み……あるいはそれ以上との太鼓判をいただいてしまった。
霊力量は等級で分けられ、量が多ければ一等級、少なければ六等級……のようなランク分けされており、俺はなんとその一番上の一等級。
多すぎん? びっくりしたわ。
現在央都で一等級の量を持つのは滉雅さんの実家である一条ノ護女性数名のみ。
俺はこんな分家の末端なのに一等級の霊力量を持っていると診断されて、結城坂の本家に当たる九条ノ護本家の人たちが大騒ぎになったらしい。
一気に縁談が増えると思ったら、親父が本家に言われた指示っちゅーか願望は「一条ノ護家の滉雅様と、なんとか婚約まで持っていけないものが」というものだった。
そんなん俺が決めるこっちゃねーよ! なあ!?
いや、まあ……滉雅さんのことは……嫌いじゃない。
いつも俺を“女”として軽んじる内容が一切含まれておらず、しかし、気遣いの言葉が見受けられる。
優しく誠実で、俺を“女だから”と見ているわけでなく……“結城坂舞”という人間として見てくれているのが伝わってくるのだ。
この人の妻になれたら幸せだろうな、と思う。
でも……前世男の俺は女として幸せになれるんだろうか?
というか、個人として見られて喜んでおきながら、女の部分が“女として”見られていないことに不安や不満を感じているのも事実。
俺クソ面倒くせぇ。
でも、やはり安心感も大きい。
複雑なんだよな。
それに、俺を選ぶかどうかは滉雅さん次第だろう。
「とはいえ、任務のために飯食いに来たいって言われたら……うーん……ま、普通に親父に相談だよな」
112
あなたにおすすめの小説
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
婚約破棄をされ、谷に落ちた女は聖獣の血を引く
基本二度寝
恋愛
「不憫に思って平民のお前を召し上げてやったのにな!」
王太子は女を突き飛ばした。
「その恩も忘れて、お前は何をした!」
突き飛ばされた女を、王太子の護衛の男が走り寄り支える。
その姿に王太子は更に苛立った。
「貴様との婚約は破棄する!私に魅了の力を使って城に召し上げさせたこと、私と婚約させたこと、貴様の好き勝手になどさせるか!」
「ソル…?」
「平民がっ馴れ馴れしく私の愛称を呼ぶなっ!」
王太子の怒声にはらはらと女は涙をこぼした。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる