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再会の昼食会(3)
しおりを挟む確かにあれからクズポンタンの姿が見える度にちょっとだけ体が固まるようになった。
中味男の俺だからこの程度で済んでいるが、箱入りの蝶よ花よと大事に育てられたご令嬢なら表に出られなくなるレベルの恐怖だろう。
そりゃあ天ヶ崎嬢も『自動防御』の霊符を欲しがるわけだよ。
俺もあの件以降、『自動防御』の霊符を縦長く折り畳んで腕に巻いてある。
でも、それと卒業できないのは困る!
なんかあのクズポンタンに負けた気がする!
「舞殿はこのまま通いたいのか?」
「は、はい! ここで休学すれば、あのク……いえ、元婚約者の方の暴力に屈した気がするので嫌です!」
きっぱりと答えると、親父にも滉雅さんにも目を丸くする。
ここで負けてなるものか。
俺は絶対あんなクズポンタンには負けないぞ!
その意思を伝えるべく、腕をまくる。
「それに、こちらをご覧ください! 『自動防御』の霊符を折り畳んで手首に巻いてあるのです! 今度暴力を振るわれても、この霊符で自動的に相手を簡易結界の中に三十秒間閉じ込めることができます! その間に逃げればなにも問題ございませんわ! それに、前回の件で同級生たちも先生方も気にかけてくださいます。クラスの殿方たちもさすがに暴力は、と廊下に元婚約者が見えたら守ってくださるようになったのです。だから大丈夫ですわ!」
ペラペラと我ながらよく喋るな、と思いつつ学校はちゃんと卒業したいから頼むから最後まで行かせてほしい。
本家に借金してまで通っているんだ。
親父が下げた頭を無駄にしたくない。
だからお願いだよ。
「強いな、あなたは」
「へ」
「一回り年下の娘にこのような感情を抱くとは思わなかった。それならば学校には最後まで通うといい。俺の名があれば、ほとんどの家からなにかされることも言われることもなかろう。どうだろう、舞殿」
改めてそう言われる。
結婚……婚約の話、だよな?
「それは、あの、もちろん――」
「あ、いや……申し訳ない。俺は配慮が足りない。家からも正式に申し入れを行うので、それに返答をしてほしい」
「えっ……えーと……」
オッケーですよ、即受諾モノですよって感じだが、結婚とは家と家の繋がりだ。
婚約するなら家同士での話し合いが必須だし、申し込みは男性側の家からするのが通常。
霊力目的であっても、滉雅さんが俺と結婚してもいいと思ってくれているのは普通に嬉しいんだが。
「では――その……………………」
目が泳ぎ始めた滉雅さん。
親父と目だけ合わせてから、じい、っと滉雅さんを見る。
いや、観察?
なにかもごもご、言いたそう。
空気は悪くないのだが、なにか言おうとして口下手発動されているのがなんとも……。
「あ、そうだ。少々お待ちくださいませ」
「こ、こら、舞! 客人がいるというのに勝手に席を立つんじゃない」
自室に行って、霊符用に作っておいた紙を一枚取り出して茶の間に戻る。
親父には微妙な顔をされたが、座ってすぐに頭の中で言霊を構築していく。
霊力を霊符用の和紙に流し込む。
霊符を作るようになってからわかったのだが、繊維の一つ一つが細かい和紙は霊符作りにとても向いている。
霊力をとても滑らかに受け止めてくれるのだ。
薄っすら水色の光で書かれた言霊が黒い墨で書かれたように定着したら完成だ。
「はい、こちらお使いください」
「……これは……?」
「口を使わなくても考えを伝えることのできる霊符です。この、考えたことを霊符に流し込むと、もう一枚の霊符を持っている相手に送信できるんです」
この霊符のモデルはもちろん前世の『携帯電話』だ。
頭の中で考えたことを無限に垂れ流すのは誰も幸せになれないので、もう一枚”相手”を設定することで口を使わずに相手に考えを伝えられるようにしたってわけよ!
また不備というか、改善点があればこの人なら的確に教えてくれるだろうし。
と思って滉雅さんの顔を見ると、驚愕で目を見開いていた。
お、おおうん?思っていたのと違う反応だな?
「これは……これを量産することは可能か?また、相手を指定することは?」
「え、ええと……量産は――難しくないです。相手の指定も頭の中で指定を入れれば難しくはないかと」
「こんな細かい言霊の指示を一枚の紙に書き込むとは……信じられん。これならば確かに、霊符を生活に使いたいというあなたの言い分は理解できる。あなたの能力ならできるだろうな」
「え?ええと……は、はい……?」
なんかよくわからんが褒められた。
霊符は霊力があれば他の人も使えるが、霊術は即その場で発動する強力なものが多い。
言霊の構成は前世の仕事……プログラマーだったのが役に立っている。
結城坂舞に転生した時、『前世の知識を活かして無双できるんじゃね!?』って期待したもんだが、見事な『女は男の散歩後ろ』『女は男を立てる』文化。
前世の世界には存在しなかった霊術と霊符にドハマりしたのも、前世にはないものだったから勉強するのが面白かったのと前世の仕事を活かせそうだったからだ。
でも、結局世界観的に無双とはかけ離れた生活だった。
この世界で、女として生きていくために――その研究も勉強も諦めるしかない。
諦めると腹も括っていたところだ。
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