「こんな横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で横取り女の被害に遭ったけど、新しい婚約者が最高すぎた。

古森きり

文字の大きさ
26 / 44

デェト(2)

しおりを挟む

 信じられん、俺、心は男なのに。
 イケメンの微笑みは男にも効果絶大だった……!?
 それとも体が女だから、体の性別に引っ張られているんだろうか?
 実際、年齢に引っ張られて中身の年甲斐もないことをしてしまうことも多々あった。
 そ、そうか、そうだよな! この胸キュンは体が女だから、だよな!

『ところで、俺も君も“かふぇ”には行ったことがないということのようだが、一目見ればわかる場所なのだろうか?』
「うーん、そ、そうですねー……とりあえず歩いてそれらしいお店を探してみましょう!」

 カフェなら店の外装でわかる気がするんだよなぁ。
 二人並んで商店街に立ち入る。
 意外だが、この長い脚で着物の俺の歩幅に合わせて歩いてくれている……!?
 イ、イケメェン……どこまでもイケメェン!

「着物は」
「はい?」
『その色と柄、舞殿の選んだもののように思えない。借り物なのではないか?』

 急に『思考共有』から話しかけられてどきりとした。
 どこで誰が聞いているのかわからないから、配慮してくれたのだ。
 イ、イケメェン……!
 イケメェンって何回言わせるつもりだ、このイケメン。
 そしてその読みは大当たり。
 当主様の前に出るのだからと九条ノ護くじょうのご家からお借りした、ふみ様のお着物だ。

一条ノ護いちじょうのご家に嫁ぐとなれば、十着は最低限持っていなければ家が侮られかねない。……と、姉たちはいつも言っていた。君もそういう考え方を持たねばならない……といけない、のかもしれない』
「た、確かに……」
『それと……出がけに二番目の姉に“妻となる人の着物の一着や二着や三着や四着買ってやって、男の甲斐性を周りに示すこともお前には必要”と叱られている。不要だとしても送らせてほしい』
「あ、う……は、はい。わかりました」

 う、うおおぉ……! 名家っぽい言い分ー!
 そんなこと言われたら断れねぇ。
 この場合“俺”というよりも、一条ノ護いちじょうのご家の長男様が新しい婚約者に着物も買ってやれない――と言われるのを防ぐために、って話だろう。
 大変だな……名家って。
 いや、そんな場所にこれから嫁ぐんだが。

『本家暮らしの母や姉は来客にも対応することがあった。客ごとに着物を着替えて対応することもあると言う。そのあたり、俺はわからないので姉に学んでほしい。俺は着物は色以外どれも同じに見えるのだが……』
「そうなんですね……」

 おそらく、来客の家のランクに合わせて着替えているのだろう。
 九条ノ護くじょうのご家のふみ様も、俺と親父が来た時は大層ラフな着物を召しておられた。
 一応分家――身内ってことで、着飾ることもないという判断からだろうが、美澄様の前へ出る時は美しい白地に鞠の柄のお着物になっていたからな。
 あとは社交パーティー。
 社交界シーズン、今年は終わりつつあるがパーティーは新作着物の披露会と言っても過言ではない。
 なお、俺はそういう場に連れて行かれる時に着る物は制服だ。
 お金もないし、無難だし。
 いや、まあ、逆に目立ってはいたけれどね?
 絢爛豪華な新作お着物披露会のような社交パーティーの中で、一人制服姿なんだもん。
 まあ、一部の令嬢には「倹約家でいらっしゃるのね」「制服を着るのは三年間だけですものね……わたくしも制服にした方がよかったかしら?」「婚約者の有栖川宮様は結城坂様にお着物を贈ったりなさらないのかしらね?」と噂されていたものよ。
 金持ちで有名、なんなら自分の着物はいつもヤンチャヤンキーの成人式みたいなヤツを着て参加していたクズポンタンは、俺が制服で参加していることに嫌悪感を抱いていたらしく同じパーティーに招待され、参加しても近寄ってこなかった。
 だからまあ、やつの知らぬところで令嬢たちから「ケチで婚約者と交流を持とうともしないクズ男」と評価されていたんだけど……きっと今も知らないんだろうなぁ。

『呉服屋で反物を選びながら、かふぇの場所を天主に聞いてみるか?』
「あ、それはアリですね!」

 滉雅さんに提案されたのはナイスだ。
 俺も滉雅さんもこの超長距離商店街のどこにカフェがあるのかを知らない。
 流行っているということは、商店街の中の人なら知っているかも!
 どうせ呉服屋には寄らなければならないのだし、知ってそうな人に聞くのはアリだよな。
 というわけで、滉雅さんが懇意にしている呉服屋に進路を定める。
 呉服屋なんて、超幼少期に七五三の着物を仕立てに行った時以来じゃねぇ?

「ここだ」
「わあ……」

 遠い記憶すぎて覚えていないが、俺が来たことのある呉服屋、だった気がする。
 温松屋さん。
 滉雅さんが扉を開き、すたすた入っていく。
 突如現れた滉雅さんに店内が騒ついた。

「こ、これは一条ノ護いちじょうのご様……!? いらっしゃいませ! 本日はどのようなものをお求めて!」

 無言で俺を振り返る滉雅さん。
 本当に人と話すの苦手なんだなぁ、この人。
 しかし、ここで俺に丸投げされるのは困るんだが……。
 俺が自分で着物を仕立てていただきたいって言うのと滉雅さんが言うのとじゃあ、色々店主の受ける印象ってもんがねぇ?

「ええと、そちらのお嬢さんは?」
「婚約者、だ。……その……彼女に、着物を……反物を……」
「ええ!? おお!! なんと! ついに婚約者がお決まりになられたのですね! ええ、ええ! もちろんでございます! 留里! 留里! お客様だ! 一条ノ護いちじょうのご滉雅様の婚約者様だ! 丁重にお相手しなさい! ……滉雅様、それでは婚約者様とお出かけするお召し物のお仕立てもなさらないと! いつも軍服では目立ちますぞ」
「む……」

 店主、商売上手だなぁ。
 俺を出汁にするとは。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした

基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。 その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。 身分の低い者を見下すこともしない。 母国では国民に人気のあった王女だった。 しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。 小国からやってきた王女を見下していた。 極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。 ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。 いや、侍女は『そこにある』のだという。 なにもかけられていないハンガーを指差して。 ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。 「へぇ、あぁそう」 夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。 今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

婚約破棄をされ、谷に落ちた女は聖獣の血を引く

基本二度寝
恋愛
「不憫に思って平民のお前を召し上げてやったのにな!」 王太子は女を突き飛ばした。 「その恩も忘れて、お前は何をした!」 突き飛ばされた女を、王太子の護衛の男が走り寄り支える。 その姿に王太子は更に苛立った。 「貴様との婚約は破棄する!私に魅了の力を使って城に召し上げさせたこと、私と婚約させたこと、貴様の好き勝手になどさせるか!」 「ソル…?」 「平民がっ馴れ馴れしく私の愛称を呼ぶなっ!」 王太子の怒声にはらはらと女は涙をこぼした。

本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?

神崎 ルナ
恋愛
このシステバン王国では神託が降りて花嫁が決まることがある。カーラもその例の一人で王太子の神託の花嫁として選ばれたはずだった。「お姉様より私の方がふさわしいわ!!」妹――エリスのひと声がなければ。地味な茶色の髪の姉と輝く金髪と美貌の妹。傍から見ても一目瞭然、とばかりに男爵夫妻は妹エリスを『神託の花嫁のカーラ・マルボーロ男爵令嬢』として差し出すことにした。姉カーラは修道院へ厄介払いされることになる。修道院への馬車が盗賊の襲撃に遭うが、カーラは少しも動じず、盗賊に立ち向かった。カーラは何となく予感していた。いつか、自分がお払い箱にされる日が来るのではないか、と。キツい日課の合間に体も魔術も鍛えていたのだ。盗賊たちは魔術には不慣れなようで、カーラの力でも何とかなった。そこでカーラは木々の奥へ声を掛ける。「いい加減、出て来て下さらない?」その声に応じたのは一人の青年。ジェイドと名乗る彼は旅をしている吟遊詩人らしく、腕っぷしに自信がなかったから隠れていた、と謝罪した。が、カーラは不審に感じた。今使った魔術の範囲内にいたはずなのに、普通に話している? カーラが使ったのは『思っていることとは反対のことを言ってしまう魔術』だった。その魔術に掛かっているのならリュートを持った自分を『吟遊詩人』と正直に言えるはずがなかった。  カーラは思案する。このまま家に戻る訳にはいかない。かといって『神託の花嫁』になるのもごめんである。カーラは以前考えていた通り、この国を出ようと決心する。だが、「女性の一人旅は危ない」とジェイドに同行を申し出られる。   (※注 今回、いつもにもまして時代考証がゆるいですm(__)m ゆるふわでもOKだよ、という方のみお進み下さいm(__)m 

処理中です...