祝石細工師リーディエの新婚生活

古森きり

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国王陛下の誕生日パーティー(1)


「いやあ、品が増えましたな」
「ええ、最近ソラウ様の下に祝石ルーナ細工師が弟子入りされたようです。これからもっといいものが卸されると思いますよ」
 
 貴族街――
 その一角にある装飾品店にやってきた初老の貴族とその執事が祝石ルーナを使った装飾品売り場の品数を見て笑みをこぼした。
 元々祝石ルーナを使った装飾品は極端に数が少ない。
 一店舗に一つ二つあればいい方だった。
 それが最近、売り場が拡張。
 カウンターの棚二つ分の中に展示され、紳士はそれを覗き込んで店員の説明を受ける。
 
「【聖人】ソラウ様の弟子ですか!? なんと、素晴らしい!」
「こちらはそのお弟子さんの初期作品だそうです。なにしろあの英雄ソラウ様が初めて弟子を取られたのですから、今のうちに購入しておけば後々価値が上がると思いますよ」
「おお、それは確かに!」
「お一ついただきます」
「お買い上げありがとうございます」
「――――」
 
 その店の端でカフスボタンを選んでいた少年が、それを見てからティフォリオ公爵家の別邸に向かう。
 前公爵、ジャスティ・ティファリオの屋敷に迎えられた青年は中庭に通される。
 
「あ! おっじさーん!」
「叔父さんはやめてって言ってるでしょ! もー!」
「久しぶりだね、マーキア。学園の様子はどうだい?」
 
 中庭のテーブルにはソラウと前公爵ジャスティ。
 その隣に座った少年をマーキア。
 ジャスティの長男で現公爵の息子であり、公爵家の嫡男。
 つまりジャスティの孫であり、ソラウの甥にあたる。
 マーキアは執事アスコの淹れた紅茶を受け取って一口飲む。
 ジャスティに学園のことを聞かれて唇を弧に歪める。
 まだ十六歳というのに、すでに公爵家嫡男としての腹の黒さを垣間見せるマーキアに、ソラウが嫌そうな顔をした。
 
「来週から光の季節だから男子生徒は浮足立っているねぇ。ああ、頼まれていたハルジェ伯爵令嬢姉妹に話を聞いてみたよ。次女のマルチェ嬢は『姉は一人しかおりません。もう一人の姉は前公爵に嫁ぎました』だって。そのあとデートに誘われちゃったけど、見るからに性格悪いその他大勢って感じ。でも長女のレーチェ嬢はアヴォルベ伯爵家のスズリと婚約しているんだよね。会って話を聞いたけれど、リーディエ嬢は赤ん坊の時に養女としてハルジェ伯爵の次女として迎えられたんだって。それ以前のことはレーチェ嬢も知らないってさ」
「家での様子は?」
「まあ、よくある継母と異母妹からの虐め。ハルジェ伯爵も助けたりせず、傍観していたみたい。むしろ養女にしておきながら扱いは下女そのもの。レーチェ嬢が見かねて自分の侍女として、礼儀作法と文字の読み書きを教えていたと言っていたよ。お爺様のところに嫁ぐ話も随分びっくりしたみたい。様子がわかれば教えてほしいって言われちゃった」
 
 にっこり微笑まれてめちゃくちゃ嫌そうな顔をするソラウ。
 マーキアからすると同い年の学生でもしないようなわかりやすい反応に、年上の叔父ということも忘れて満面の笑みで見つめてしまう。
 本当に可愛い人だなぁ、と思われているのが伝わってくるから年上として、叔父としてムッとしてしまうのだ。
 
「えー、普通に毎日楽しそうに働いてるけどー? 父さんに頼まれたから、俺のお世話もさせてあげているし」
「確かに顔色もだいぶよくなっているようだな」
「だっていうこと聞かないと聞くまでいろいろ言ってきてうるさいんだもん」
 
 もんって。
 ふひ、と変な笑いが漏れるマーキア。
 それを睨みつけるソラウ。
 
「ソラウ叔父様そろそろ一人で寝起きできるようになった方がよくない? 今年二十七歳だよね? 本格的にヤバいよ?」
「うるさいな! とにかく、あの子は大丈夫! 今日も宝石の祝石ルーナで装飾品の細工してもらってるし! 魔力視認を覚えたから今までよりいいもの作れるようになってるし!」
「貴族街の装飾品店も見てきたけど、祝石ルーナの装飾品本当に増えててびっくりしたよ~。需要は高いけれど、細工師不足で貴族にも滅多に手に入れられるものじゃないから装飾品店賑わってたよ」
「はあ? そんなの俺が教えてあげてるんだから当たり前じゃない。っていうかこんなことで喜ぶの早いんだけれど? これから青の子には魔石の祝石ルーナもじゃんじゃん加工してもらうんだから。魔石の祝石ルーナの装飾品はすごいよ~」
「それについてだが」
 
 と、ドヤ顔のソラウを遮るジャスティ。
 一転不機嫌顔になるソラウに「王宮と一部の冒険者にしか流通してこなかった魔石の祝石ルーナの装飾品を、一気に流通させるのは非常に危険だ」と真顔で窘める。
 そう言われればソラウも唇を尖らせてテーブルに肘をつく。
 行儀が悪い。
 
「っていうか、魔石の祝石ルーナの細工って王宮魔法師にも難しいって聞いたんだけど」
「俺は難しくないもん」
「そりゃソラウ叔父様は【聖人】なんだから難しくないんだろうけれど」
「王宮魔法師でも難しい魔石の祝石ルーナの細工を行えるということは、リーディエ嬢が【聖女】である可能性はより揺るがぬものになったということか」
 
 こと、とジャスティがテーブルに置いたのは、今日ソラウが持ってきた魔石の祝石ルーナのカフスボタン。
 昨日のうちに二つのカフスボタンを二セット作ったというのだから驚いた。
 魔力が聖魔力というのは最初からわかっていたが、正式に計測した魔力量は1,200。
 ソラウの倍だった。
 これはもう、完全に『聖女の里』の【聖女】でなければあり得ない数字。
 
「聖女といえば、例のロキア様お気に入りの侯爵令嬢が『聖女の里』の聖女の血を引いているってわかってますます学園で問題が増えてるよ」
「ああ、春の前期に入学してきたという――」
「侯爵令嬢って言ってもで、娼館上がりの後妻の娘でしょ? なにを間違ったらそんなところに聖女の血を引く女がいるのさ」
「ソラウ叔父様オブラートって知ってるぅ~?」
「粉薬を飲む時のデンプンと寒天で作った、半透明の薄い膜のこと? なんで今オブラートの話になるの?」
「あ……もういいですぅ」
 
 あはは、と乾いた笑いを零すマーキア。
 春の前期に入学してきた侯爵令嬢は庶民の出。
 第二夫人の娘で、聖魔力を持っていた。
 しかもどこからともなくその少女は『聖女の里』の聖女の血を引いている――という話が流れ、王子ロキアの耳に入ってしまう。
 溌溂したその少女に王子はすっかり骨抜きになり、側近候補も数人が彼女に求婚したそうだ。
 それが問題になっており、ロキア王子は侯爵令嬢に興味のないマーキアを側に置き、その侯爵令嬢のアピールは高位貴族の令息たちに限られており学園の秩序はめちゃくちゃ。

「魔力量は?」
「300くらい。だからまあ、血筋の話しにはなんだかんだ説得力はあるんだよね」
「300は多いね」
「だから今度の国王陛下の誕生日パーティーでお祖父様に確認してほしいんだって。彼女に聖女の血が流れていればわかるだろうって」
「ふむ……」
 
 ふん、と鼻を鳴らすソラウ。
 招待状を手渡すマーキアに、ジャスティは頷く。

「ちなみにソラウ叔父様は――」
「いかなーい」
「だよねー」

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