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第1章
空
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はあ、はぁ――。
時間が経てば、孤児の息遣いは荒くなった。
背筋を伸ばせば、すぐにも激痛が押し寄せた。その後に、自身の腕 脚が吹っ飛んでいるのにも気が付いた。"突撃"の合図で、孤児は駆り出させる。
✕✕年から突如として確認された「外来生物」は、人々を恐怖に落とし込む。その数年後には解決案や、対策が考えられ、一つの施設が建設された。
―― 「孤児育成専術戦機防衛機関システム」
孤児には権限が与えられず、強制労働を要された。つまり、この施設は孤児を使って 大人だけが安全に暮らせるように考えられた狂った居場所だった。人間よりも遥かに大きな体を前にするだけでも吐き気は込み上げてくるし、足は震えるし、思う様には身体も動かない。剣を振りかざそうにも、恐怖だけが前に出てしまう。もう既に数百人もの孤児が死んでいくのを見た――
死人が出てしまうと、泣きたい気持ちはあった。ただ、泣けば大人に殴られる。弱音を吐けば怒鳴られる。もしも、施設から逃げようとしたら 死刑にされるらしい。曖昧な言い方なのは、見た事がないからだ。ただの噂として言われているだけで、施設を逃げ出した孤児は今のところ、一人も居ない。
起立から号令。着席から報告。
教卓に大人は立つ。そして、朝礼が始まった。朝は少しだけ不吉で、今日は何名の死人が出たかを報告される。死人が出ていなかった事もあるにはあるけれど、それは本当に稀の場合。殆どは一人死ぬ。
「109番、2001番、500番 の三名が帰らぬ人となりました」
大人は孤児を番号で言う。私たち、孤児には名前が与えられない。国家の機関システムに属する孤児はただの道具としてしか見られてもいないということ。名前なんて不必要な飾りで、ただ大人を守る為に動けばいいだけの人形でしかない。
「1019番は死者三名の部屋の私物の処分を頼みますね」
「は、はい…」
特別仲が良かったわけでもないのに、私が指名される。この間は授業を早退して 一日かけて部屋の掃除をしなければならない。見方によっては、サボれてラッキーと思うかもしれないけれど、もう死んだ孤児の部屋に行けば、死体や 無惨に散った肉片が脳内でははっきりと思い浮かべてしまう。あまり良いとは言えず、見慣れている死体と言っても気持ちが悪くなる。
(ちょっとだけ 息抜きしてもバレないかな…)
ある程度の整理や処分が終わると、外の空気を浴びに出る。といっても、気持ちのいい空気ではないのが現実だ。
到底、青空とは言えず 空気も濁った感じしかしない。
ドンッ!!!!!!
空から何かが降ってきて、その瞬間に物凄い音がした。雨でもなければ、隕石とかでもない。
「え…?」
「痛い」
ふわっと浮く髪と、小さく色白の顔と、目や鼻 耳。細い腕と綺麗な脚。空から降るのは、女の子。
いや、人間が空を飛べるはずもないし、落ちてくるはずもない。何かが変だと目を擦る。ただ、何度も目を開いたけれど、不思議な女の子がこちらを興味津々に見てきているだけで、夢とかではなかった。
「ねえ ねぇ!」
「は、はい…?」
外来生物かと息を飲む。もし今、襲われてしまったらどうなるのだろう。剣も持っていないし、きっと死んでしまう。それは嫌だなと歯を食いしばる。
「あなた、 人間?」
「そう だけど… 君は違うの?」
「うん! ちがーう! 初めて人間みた!」
「もしかして、ヴィラン…」
私の知るヴィランとは少しだけ容姿が違っている。ヴィランに、人間の様な容姿をしたヤツがいるとも考えにくい。
「ヴィラン? なにそれー ちがーう!」
人間でもなければ、ヴィランでもない?そんな存在、今までで発見されていない、新種の生物なのかと思っていると、女の子(仮)は自分の正体を明かしてくれた。
「 " バベル „ だよ」
「バベル…? 」
女の子(仮)は私に近寄る。そして、自分の事を教えたから今度はあなた!と言い寄ってきた。けれど、名前もなければ誕生日すらも分からない。人間という事しか、名乗れない。そう言うと、女の子(仮)は驚いた感じでした。
「人間って個別名 あるって聞いた事あるのに?」
「…うん。 孤児にはないんだよ…」
「なら私が呼び名決めたーい!」
え?とは思ったけれど、私に支障もないしいいよと応えた。
「フラン!」
「なんで…?」
「んー なんとなくー! ねぇ私の名前も付けて」
女の子(仮)は目を輝かせるけれど、あまり化け物とは仲良くしたくない。どうぜバレたら大人に殴られるか、裏切り者として何かしらの罰は下される。適当に名前を付けて、早く部屋に戻るしかない。
「えー… んーえーっ、 」
女の子(仮)の特徴といえば、明るくて 肌が綺麗。身長は小さめで、子供らしいこと。そして何より、第一印象は空から降ってきた事だ。空…ソラ? んー空中… 天… 晴れ… 雨?
「空」 に関連する言葉をとにかく並べてはみるけれど、良い案が浮かばない。
そういえば、フランス語で空ってなんだっけ…?と思って、頭を整理する。
(シ…… シ… ……ル。)
ハッとした表情で、女の子(仮)に言う。
「シエル…… なんてどう?」
「シエル! 私、シエルー! 大事にするね」
「う、うん…」
喜んでくれたのか、シエルは私の胸に飛び込み、顔を埋める。と言っても、大きいわけじゃないし 具体的に言えば 壁に顔を当てているみたいになってしまっている。
「私、もう行くから… またね」
「また 会ってくれる?」
シエルは悲しそうな顔を私に見せるけれど、それはズルいと思う。シエルは人間と比較するとかなり顔立ち良く 声も可愛い。それは、外来生物であるバベルとは思えないほど。本来ならばそういう化け物を殺して、大人を守るのが私の役目だとは知っている。もし、バベルであるシエルとの接触が知れたら、何かしらの罰則、死刑も有り得る。私はシエルと仲良くしてはいけない決まりだ。それは、私が人間として生まれ、シエルがバベルとして生まれたから。その違いによって、そう決められているのだ。
「フラン、また会いたい!」
私は禁忌だと知っていながら、シエルには笑みを浮かべて手を振った。
「うん… また会おう。 」
「やったー!」
時間が経てば、孤児の息遣いは荒くなった。
背筋を伸ばせば、すぐにも激痛が押し寄せた。その後に、自身の腕 脚が吹っ飛んでいるのにも気が付いた。"突撃"の合図で、孤児は駆り出させる。
✕✕年から突如として確認された「外来生物」は、人々を恐怖に落とし込む。その数年後には解決案や、対策が考えられ、一つの施設が建設された。
―― 「孤児育成専術戦機防衛機関システム」
孤児には権限が与えられず、強制労働を要された。つまり、この施設は孤児を使って 大人だけが安全に暮らせるように考えられた狂った居場所だった。人間よりも遥かに大きな体を前にするだけでも吐き気は込み上げてくるし、足は震えるし、思う様には身体も動かない。剣を振りかざそうにも、恐怖だけが前に出てしまう。もう既に数百人もの孤児が死んでいくのを見た――
死人が出てしまうと、泣きたい気持ちはあった。ただ、泣けば大人に殴られる。弱音を吐けば怒鳴られる。もしも、施設から逃げようとしたら 死刑にされるらしい。曖昧な言い方なのは、見た事がないからだ。ただの噂として言われているだけで、施設を逃げ出した孤児は今のところ、一人も居ない。
起立から号令。着席から報告。
教卓に大人は立つ。そして、朝礼が始まった。朝は少しだけ不吉で、今日は何名の死人が出たかを報告される。死人が出ていなかった事もあるにはあるけれど、それは本当に稀の場合。殆どは一人死ぬ。
「109番、2001番、500番 の三名が帰らぬ人となりました」
大人は孤児を番号で言う。私たち、孤児には名前が与えられない。国家の機関システムに属する孤児はただの道具としてしか見られてもいないということ。名前なんて不必要な飾りで、ただ大人を守る為に動けばいいだけの人形でしかない。
「1019番は死者三名の部屋の私物の処分を頼みますね」
「は、はい…」
特別仲が良かったわけでもないのに、私が指名される。この間は授業を早退して 一日かけて部屋の掃除をしなければならない。見方によっては、サボれてラッキーと思うかもしれないけれど、もう死んだ孤児の部屋に行けば、死体や 無惨に散った肉片が脳内でははっきりと思い浮かべてしまう。あまり良いとは言えず、見慣れている死体と言っても気持ちが悪くなる。
(ちょっとだけ 息抜きしてもバレないかな…)
ある程度の整理や処分が終わると、外の空気を浴びに出る。といっても、気持ちのいい空気ではないのが現実だ。
到底、青空とは言えず 空気も濁った感じしかしない。
ドンッ!!!!!!
空から何かが降ってきて、その瞬間に物凄い音がした。雨でもなければ、隕石とかでもない。
「え…?」
「痛い」
ふわっと浮く髪と、小さく色白の顔と、目や鼻 耳。細い腕と綺麗な脚。空から降るのは、女の子。
いや、人間が空を飛べるはずもないし、落ちてくるはずもない。何かが変だと目を擦る。ただ、何度も目を開いたけれど、不思議な女の子がこちらを興味津々に見てきているだけで、夢とかではなかった。
「ねえ ねぇ!」
「は、はい…?」
外来生物かと息を飲む。もし今、襲われてしまったらどうなるのだろう。剣も持っていないし、きっと死んでしまう。それは嫌だなと歯を食いしばる。
「あなた、 人間?」
「そう だけど… 君は違うの?」
「うん! ちがーう! 初めて人間みた!」
「もしかして、ヴィラン…」
私の知るヴィランとは少しだけ容姿が違っている。ヴィランに、人間の様な容姿をしたヤツがいるとも考えにくい。
「ヴィラン? なにそれー ちがーう!」
人間でもなければ、ヴィランでもない?そんな存在、今までで発見されていない、新種の生物なのかと思っていると、女の子(仮)は自分の正体を明かしてくれた。
「 " バベル „ だよ」
「バベル…? 」
女の子(仮)は私に近寄る。そして、自分の事を教えたから今度はあなた!と言い寄ってきた。けれど、名前もなければ誕生日すらも分からない。人間という事しか、名乗れない。そう言うと、女の子(仮)は驚いた感じでした。
「人間って個別名 あるって聞いた事あるのに?」
「…うん。 孤児にはないんだよ…」
「なら私が呼び名決めたーい!」
え?とは思ったけれど、私に支障もないしいいよと応えた。
「フラン!」
「なんで…?」
「んー なんとなくー! ねぇ私の名前も付けて」
女の子(仮)は目を輝かせるけれど、あまり化け物とは仲良くしたくない。どうぜバレたら大人に殴られるか、裏切り者として何かしらの罰は下される。適当に名前を付けて、早く部屋に戻るしかない。
「えー… んーえーっ、 」
女の子(仮)の特徴といえば、明るくて 肌が綺麗。身長は小さめで、子供らしいこと。そして何より、第一印象は空から降ってきた事だ。空…ソラ? んー空中… 天… 晴れ… 雨?
「空」 に関連する言葉をとにかく並べてはみるけれど、良い案が浮かばない。
そういえば、フランス語で空ってなんだっけ…?と思って、頭を整理する。
(シ…… シ… ……ル。)
ハッとした表情で、女の子(仮)に言う。
「シエル…… なんてどう?」
「シエル! 私、シエルー! 大事にするね」
「う、うん…」
喜んでくれたのか、シエルは私の胸に飛び込み、顔を埋める。と言っても、大きいわけじゃないし 具体的に言えば 壁に顔を当てているみたいになってしまっている。
「私、もう行くから… またね」
「また 会ってくれる?」
シエルは悲しそうな顔を私に見せるけれど、それはズルいと思う。シエルは人間と比較するとかなり顔立ち良く 声も可愛い。それは、外来生物であるバベルとは思えないほど。本来ならばそういう化け物を殺して、大人を守るのが私の役目だとは知っている。もし、バベルであるシエルとの接触が知れたら、何かしらの罰則、死刑も有り得る。私はシエルと仲良くしてはいけない決まりだ。それは、私が人間として生まれ、シエルがバベルとして生まれたから。その違いによって、そう決められているのだ。
「フラン、また会いたい!」
私は禁忌だと知っていながら、シエルには笑みを浮かべて手を振った。
「うん… また会おう。 」
「やったー!」
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