1階ワンルーム監禁

あくるめく咲日

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監禁一日目

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監禁生活一日目。

「ごめんねナトくん。ナトくんはまさか監禁されるなんて思ってもなかったと思うけど、俺はもう限界なんだよ。ナトくんを俺だけのものにしたくて。ナトくんの世界がどうしても欲しくて……ごめんね。
ナトくんにとっては突然知らない男に知らない部屋に連れてこられて……不安、だよね。うん。でも俺にとっては突然じゃなかったんだよ。ずーっとナトくんをこうして俺だけのナトくんにすることだけ考えてた。ナトくんは俺のこと知らないけど、俺はナトくんのこと知ってるんだ。あはは、自己紹介でもしよっか? あ、いやその前に先に買い物だけ済ませて来ようかな。ナトくんとお話する前に買い物に行って、万全な状態にするべきだもんね。とりあえず……洗面器? あと、歯ブラシと……バスタオルと……」

 俺を誘拐して部屋に連れ込んだ男は、そう言って買い物に行った。
 俺を拘束もせずに。

 ……え?
 ど、どういうこと?

 俺、いま普通に自由に動けてしまってるんだけど。これって……監禁?
 突然のフリータイム。監禁相手を監禁して一分でひとりにするとかあんの? そういう系? 精神的監禁みたいな?
 精神的監禁って何? いまのところあんまり精神的に監禁されてる気はしないけど。
 知らない部屋に急に連れてこられたくらいで精神的監禁なんて成り立たないだろ。 
 ……でもあまりにも物理的な監禁がされてないしな……だって、監禁って首輪とか物理的な拘束が伴うものだと思ってたんだけど、俺は多分元気にこの部屋を走り回れると思う。
 なんなら外に出れるんじゃないかとすら思う。
 なんせ枷という枷が一つもつけられていない。
 俺はなんて自由なんだ……。
 俺は腕も縛られてないし、足も縛られてない。首輪も無い。

 ……とりあえず、部屋を一周してみようかな。
 この部屋にカメラが仕掛けられててあの男が見れる状態になっていたとしても別にいいや。まだ俺は相手の強さというものが分からないので恐ろしいことに何も怖いものがない。
 へえ、クローゼットあるんだ。風呂トイレ別……風呂狭いけど。一人暮らしならまぁ。
 というかワンルームなのかな……いやまさかそんな訳ないだろと勝手に思ってたんだけど、これワンルームだな。
 ワンチャンそういう構造かと思ったけど普通にクローゼットの奥に隠された空間なんか無くて、普通のクローゼットだったし。

 遮光カーテンを開けると、明るい。あまりにも監禁らしくないので閉じた。
 あとここは一階っぽい。

 え? 一階ワンルーム監禁?
 そんなことあんの?
 なんとなく、やめておいたけど窓も普通に開けられそうだったけど。窓から脱走するとか想像してないことある?

 やばい、頭が痛くなってきた。
 ……えーっと……窓から脱走することを考えてないのはこの際良いとして。
 良いとして……うーん……やっぱり俺の可動域を制限しないとダメじゃないか?

 俺の監禁への想像っていうか、理想が高すぎたのか……?
 監禁に幻想というか理想を抱いたことはないと思ってたんだけど、こうも現実とギャップがあるとそういうことなのかもしれない。
 俺は監禁になにか理想を持っていて、それがいま現実というもので打ち破られているのかもしれない。
 こうやって、人は大人になっていくのか……俺まだ大人になってなかったんだな。
 監禁ってこんな感じだったんだ。
 やっぱり何事も経験してみないと分からないもんだな。
 だって、俺は今……知らない人の家を家主がいない時に自由に動き回ることに罪悪感を抱いているもんな。
 シチュエーションボイスで妹系に監禁されるやつ聴いた時に、もし自分が監禁されたらとか少し考えたことあったけど、こんな感情になるなんて想像もしてなかったもんな。

 ……いや、もしかして、令和だから?
 令和で、相手が男だから? 令和男のヤンデレは心理的罪悪感による束縛ってこと?
 平成なら違ったのか?
 ……そうかもな、だって鍵とか。南京錠とか鎖とかゴテゴテされてるのっていかにも平成っぽいもんな……このドアには鎖も南京錠も無さそう。
 めっちゃ普通のドアだけど、きっと令和的な施錠で内側から開かないとかなんだろうな。
 なんとなく、ドアノブに手をかけてみる。

 ガチャ、と軽い音がして重い扉が開いた。
 慌てて閉めた。

「はあ!? 鍵かけてない!?!?」

 えっっ!? 外出れるってこと!?!?

 は? どういうことだ!?

 何? なんだ? これは。夢?

 俺の中でヤンデレの解像度が低すぎるから? こんなやりきれない半端なヤンデレが生成されたのか?
 だいたい何時まで買い物に行ってんだよ。
 ていうか洗面器買いに行くなよ! 監禁系ヤンデレ男が監禁相手のために洗面器を買うなよ。一人一個じゃなくてもいける物だろ。
 バスタオルも……まあ、バスタオルは……うーん、一人一枚は欲しいか? 普通のタオルでもよくね? 俺タオルで代用できるからいいよ。歯ブラシは……ありがと!!

 どこまで買い物に行ったんだろ……洗面器買うなら、コンビニじゃないだろ……洗面器、洗面器ってどこで売ってんの?
 検索したい……スマホで検索したい。ポッケに入れてたスマホで検索したい……。
 でもきっと没収されてるんだろうな。絶対没収しないといけないものだし。ポッケにスマホの重さを感じてるけど、気のせい。気のせいだ。スマホを取り出しちゃったら終わる。
 この監禁という概念にフォローができなくなってしまう。

 ただ、この部屋は娯楽みたいな物がない。
 かなり綺麗に整頓されているようで、どこか抜けているような。
 それがどうにも違和感で、不気味だと言うには十分。ヤンデレという説得力だけはある。
 欲を言えば俺の写真を壁中に貼るとかそういうインパクトは欲しかったけど。で、デジタル派なんだろう。きっと。
 今どき写真はスマホで撮るし、スマホで撮った写真はあんまり現像する気にならないもんな、うん。

 今のうちにチェキになるカメラでも買ってきてあげようかな……。
 そう思っていると、インターホンが鳴った。

「……!」

 ドキっと心臓が跳ねる。
 ……え? あの男、来訪者が来るのに俺を監禁したってこと? やば。

 変にドキドキしながら、インターホンを無視するのもつまらないのでモニターを見てみることにした。
 壁に取り付けられている、モニター越しに見覚えのある男がいた。

 ……家主だ!
 良かった監禁男だ。監禁男が見たこともないくらいイケメンで本当に良かった、そうじゃなかったら少し一回見ただけの男の顔なんて覚えられないところだった。
 ところで、どうして家主である監禁男が自宅のインターホンを鳴らしているんだ……?

「……はい」
『あ、良かった! ナトくんごめんね。出てくれてありがとう。オートロックなのに鍵を忘れて外出ちゃってて。解錠ボタンがあると思うんだけど、押してもらってもいい?』
「あ、はい」
 押さなかったらこの人どうするんだろう。と思ったけど、解錠ボタンを押してあげた。
 なるほどね。
 監禁とか関係なく、今どき鍵かけずに外に出る奴いんの? って思ってたけど、意外とオートロックの人って家の鍵をかけなかったりするって聞いたことがある。
 絶対鍵かけろよ……というか家の中に鍵置いて行ったの?
 玄関前のこれってやっぱり家の鍵なのかよ。

 え? ……ここオートロック一階ワンフロアなの?


 ただいまーという呑気なポンコツの声に、どっと疲れた。
 家に帰ろうかな。ポンコツ帰ってきちゃったけど、普通に帰れそうだなぁ。
 とりあえず、今日は土曜だから明日様子みて帰ろ。



「ナトくんは俺のこと今は全然分からないと思うけどこれから知っていって欲しいな」
「いや、もう十分よく分かったよ」
「えっ」
「お前はポンコツだ」
「俺が……ポンコツ……?」

 というか、ナトくんって誰?
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