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初デートだ!
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『それでは日曜日、水族館に行きましょう。こどもの時以来です。13時半にご自宅に迎えに参ります。楽しみにしております』
初デートの予定は、メッセージの数往復でテンポよく決まった。
ぽん、ぽん、と間を置かずに返ってくる返信。
彼も今スマホに向き合っているんだなぁと考えると、なんだかとても面白い。
一体どんな表情で文面を打っているのだろうか?
画面の向こう側を想像すると、自然と顔がほころんだ。
そうして迎えた日曜日 ーーーー。
「あらお父様。今日はゴルフだったんですか?その割にはこんな時間に家にいるのは変ですね?」
待ち合わせの時刻が近くなりリビングに来てみれば、いつもはステテコ一枚でうろうろしている父が襟付きの洋服を着てそわそわ歩き回っていた。
ヒゲもきれいに剃られ、髪もどこかのパーティーに行くかのように整えられている。
ソファではよそゆきの洋服を着ている母が優雅に雑誌を読んでいた。私に気付き、にっこりと微笑んだ。
「芹香ちゃん」
「うん」
「ドキドキするわね。なんだか私まで気合い入っちゃったわ」
「あはは、まぁ、少しはドキドキしているかな。湊斗さんかっこいいし」
「デートだっていうのにそんなズボンでいいのか。もっと女性らしい服を着たらどうだ」
「パンツって言ってくださいお父様。動き易い服が一番ですって。最初から気合い入れてたら湊斗さんだって引くでしょ」
「私だったらズボンだとがっかりするがなぁ……」
いやお父様の趣味とか知らねーし
心の中で毒づきながら椅子に腰掛けようとした瞬間、ピンポーンとインターホンが鳴った。
「あら、いらしたんじゃない?」
娘が反応するよりも早く母が飛び上がり、スピーカーをオンにした。
「はい」
『こんにちは。鈴木でございます。芹香さんをお迎えにあがりました』
「はい、少しお待ちくださいませね」
ピッ、と電子音が聞こえ、母が私にウインクして見せた。
「行ってらっしゃい」
「はーい………………ってなんなの?」
後ろからついてくる父。
「私も行く」
「はぁ??」
「ご挨拶したいのよ、きっと」
にこにこと言う母に何も言い返せない。結局、父と母も引き連れて湊斗さんの所へ向かった。
彼が私に気付き、ぺこっと頭を下げた。
「こんにちは」
「こんにちは。忙しいのに時間をとってくださりありがとうございます」
「いえ、今日を楽しみに仕事も頑張れました」
微笑みながらそう言った湊斗さんの装いは、本日の青空がよく似合う爽やかなもの。スーツ姿とは違うリラックスした姿に、胸が高鳴った。
(くぅ~~~~スーツもいいけど私服もかっこいいなぁおい!眼福!まじでありがとう)
「芹香さん?」
「失礼しました。今日はよろしくお願いしますね」
私をスマートに助手席に乗せてくれた後、両親とも会話をし(父が湊斗さんの二の腕をばしばしと叩いていた。従業員の激励じゃねぇやめろと言いそうになった)車は水族館へと出発した。
クラシックが流れる静かな車内。ほのかに漂う上品な香り。車の性能なのか湊斗さんの運転がうまいのかわからないけれど、全く揺られない丁寧な運転。
流れる景色を見つつ、
「すみません、父が何か変なことを言ったのでは……」
運転する横顔に、恐る恐る話しかけた。湊斗さんがふふっと笑った。
「いえ、そんなことはないです。楽しい方なので、私の気分も明るくなります」
「……すごく言葉を選んで頂いてありがとうございます」
「あははっ!」
車内に明るい笑い声が響いた。
白状するとほんの少しだけ緊張していたのだけれど、湊斗さんの笑顔を見て気持ちがほぐれるのを感じた。
水族館ではさすがに小さい子のようにはしゃいだりはしなかったけれど、湊斗さんの表情から楽しんでいるのが伝わってきた。よかった。イルカよりも熱帯魚の水槽で目が輝いていた気がした。好きなのかもしれない。
「久しぶりに来ましたけど、いいですね水族館。なんだか飼いたくなりました」
一通り巡った後館内のカフェで休憩していると、湊斗さんが言った。ガラス張りのカフェ内、ブルーのカップでコーヒーを飲む彼はすごく絵になっていた。
「芹香さん?」
「あ、すみませんかっこよくて見惚れていました……じゃなくて。はい、よかったですね。何を飼いたくなったんです?」
「カクレクマノミです。でも海水魚は飼育が難しいイメージでして……」
「そうなんですか?」
そうなの?水と空気と草とエサがあればなんとかなるんじゃないの??
「そうなんです。まぁ、難しいというか、人工海水を作って比重を確認したり、あと海水の温度も気をつけないといけません」
「わ~~手間がかかりますね!湊斗さん自分でされてくださいね?」
私がそう言うと、湊斗さんが目を丸くした。
あ、やば。冷たいやつって思われたかも。
「あ、エサくらいはあげますので」
急いで自分は非道な人間ではないことをアピールした。
「………………そのときは、お願いします」
「はいよっ。じゃない、はい」
「……………………………………………………」
隠しきれない自分の本性に、だって男の人と2人で出かけるなんて久しぶりなんだもん!!と泣けてきた。
・・・
車が見慣れた門の前に着いた。楽しかったデートはもうおしまい。
あれから失言?を挽回することはできず、せっかくのよい雰囲気もすっかり台無しになってしまったのだった。帰りの車内で交わす言葉は少なく、それは疲れのせいだけではなさそうだった。
そんなときに限って流れてくる愛の曲。まるで挨拶をするような軽妙な音色が2人の間に白々しく流れていた。
「ーーあ、今日はありがとうございました。楽しかったです」
「……はい、私も」
「えっと、あと、私気に触ること言ってたらごめんなさいね?」
「え?」
……あーーーー私の馬鹿!!なんでこんなに可愛げのない言い方しかできないんだろう。もっと素直にごめんねって言えばいいのに!!
「いや、えと、せっかくクマノミ飼いたいって話してたのに、世話が大変そーだの自分でやれだの、その、悪かったなって。つまり、すみませんでした……」
一気にそうまくしたてて、肩をすくめる。あぁ、また可愛げのないポーズやっちゃった。
きょとんとした湊斗さんが柔らかく微笑んだ。
「ーーーーあぁ、そのことを気にされていたのですか。急に口数が少なくなったのでどうしたのかと、私が何か余計なことをしてしまったのかと思っていました」
そう言うと、ほっとしたようにシートに背を預けた。
「クマノミのことはお気になさらず。正直を申し上げると、嬉しかったんです」
「?」
湊斗さんを見やる。
「自分でやって、とかエサはあげるから、とか……その……一緒に飼うことをイメージしてくださってるのだなぁと感じまして」
それを聞いて顔が一気に赤くなった。夕陽でうまく誤魔化せていることを祈る。無意識でも湊斗さんとこれからも一緒にいるイメージをしていたなんて、己の図々しさが恥ずかしい。無言になった私に湊斗さんが言った。
「……あの、芹香さんさえよかったらなのですが、また……会ってもらえますか?」
「え?」
「あ、いや、気が向いたときでいいし、嫌ならもうこれっきりにしますし」
「嫌じゃないです、全然。むしろ、お誘い頂けて嬉しいです」
我ら大人に駆け引きなんて不要。用件は簡潔に、わかりやすく。
私の食い気味の返事に湊斗さんは安心したようにふわっと笑った。
「……よかった。ではまたご連絡しますね」
「待ってます。あ、こちら、今日のガソリン代です。お納めください」
「あはは、お気になさらず。ーーーーああ、どうしてもとおっしゃるなら次の機会のお茶代にしましょう」
そう言いながら湊斗さんがアームレストをかぱっと開けた。小物入れになっているそこに入れろ、ということみたいだ。
「勝手に使ったりしませんので」
「使ってもいいですので、利子つけて補充しておいてくださいね」
「これは手厳しい」
優しく笑う湊斗さん。
その笑顔を直視してしまい、心臓がはねた。今聴診器を当てられたら激しいビートに仰天されるかもしれない。
「それでは、また」
「はい、お気をつけて」
微笑みあって、その日は別れた。
もう少し一緒にいたかったなと思う名残惜しさは、恋心の確かな芽生えなのかもしれない。
初デートの予定は、メッセージの数往復でテンポよく決まった。
ぽん、ぽん、と間を置かずに返ってくる返信。
彼も今スマホに向き合っているんだなぁと考えると、なんだかとても面白い。
一体どんな表情で文面を打っているのだろうか?
画面の向こう側を想像すると、自然と顔がほころんだ。
そうして迎えた日曜日 ーーーー。
「あらお父様。今日はゴルフだったんですか?その割にはこんな時間に家にいるのは変ですね?」
待ち合わせの時刻が近くなりリビングに来てみれば、いつもはステテコ一枚でうろうろしている父が襟付きの洋服を着てそわそわ歩き回っていた。
ヒゲもきれいに剃られ、髪もどこかのパーティーに行くかのように整えられている。
ソファではよそゆきの洋服を着ている母が優雅に雑誌を読んでいた。私に気付き、にっこりと微笑んだ。
「芹香ちゃん」
「うん」
「ドキドキするわね。なんだか私まで気合い入っちゃったわ」
「あはは、まぁ、少しはドキドキしているかな。湊斗さんかっこいいし」
「デートだっていうのにそんなズボンでいいのか。もっと女性らしい服を着たらどうだ」
「パンツって言ってくださいお父様。動き易い服が一番ですって。最初から気合い入れてたら湊斗さんだって引くでしょ」
「私だったらズボンだとがっかりするがなぁ……」
いやお父様の趣味とか知らねーし
心の中で毒づきながら椅子に腰掛けようとした瞬間、ピンポーンとインターホンが鳴った。
「あら、いらしたんじゃない?」
娘が反応するよりも早く母が飛び上がり、スピーカーをオンにした。
「はい」
『こんにちは。鈴木でございます。芹香さんをお迎えにあがりました』
「はい、少しお待ちくださいませね」
ピッ、と電子音が聞こえ、母が私にウインクして見せた。
「行ってらっしゃい」
「はーい………………ってなんなの?」
後ろからついてくる父。
「私も行く」
「はぁ??」
「ご挨拶したいのよ、きっと」
にこにこと言う母に何も言い返せない。結局、父と母も引き連れて湊斗さんの所へ向かった。
彼が私に気付き、ぺこっと頭を下げた。
「こんにちは」
「こんにちは。忙しいのに時間をとってくださりありがとうございます」
「いえ、今日を楽しみに仕事も頑張れました」
微笑みながらそう言った湊斗さんの装いは、本日の青空がよく似合う爽やかなもの。スーツ姿とは違うリラックスした姿に、胸が高鳴った。
(くぅ~~~~スーツもいいけど私服もかっこいいなぁおい!眼福!まじでありがとう)
「芹香さん?」
「失礼しました。今日はよろしくお願いしますね」
私をスマートに助手席に乗せてくれた後、両親とも会話をし(父が湊斗さんの二の腕をばしばしと叩いていた。従業員の激励じゃねぇやめろと言いそうになった)車は水族館へと出発した。
クラシックが流れる静かな車内。ほのかに漂う上品な香り。車の性能なのか湊斗さんの運転がうまいのかわからないけれど、全く揺られない丁寧な運転。
流れる景色を見つつ、
「すみません、父が何か変なことを言ったのでは……」
運転する横顔に、恐る恐る話しかけた。湊斗さんがふふっと笑った。
「いえ、そんなことはないです。楽しい方なので、私の気分も明るくなります」
「……すごく言葉を選んで頂いてありがとうございます」
「あははっ!」
車内に明るい笑い声が響いた。
白状するとほんの少しだけ緊張していたのだけれど、湊斗さんの笑顔を見て気持ちがほぐれるのを感じた。
水族館ではさすがに小さい子のようにはしゃいだりはしなかったけれど、湊斗さんの表情から楽しんでいるのが伝わってきた。よかった。イルカよりも熱帯魚の水槽で目が輝いていた気がした。好きなのかもしれない。
「久しぶりに来ましたけど、いいですね水族館。なんだか飼いたくなりました」
一通り巡った後館内のカフェで休憩していると、湊斗さんが言った。ガラス張りのカフェ内、ブルーのカップでコーヒーを飲む彼はすごく絵になっていた。
「芹香さん?」
「あ、すみませんかっこよくて見惚れていました……じゃなくて。はい、よかったですね。何を飼いたくなったんです?」
「カクレクマノミです。でも海水魚は飼育が難しいイメージでして……」
「そうなんですか?」
そうなの?水と空気と草とエサがあればなんとかなるんじゃないの??
「そうなんです。まぁ、難しいというか、人工海水を作って比重を確認したり、あと海水の温度も気をつけないといけません」
「わ~~手間がかかりますね!湊斗さん自分でされてくださいね?」
私がそう言うと、湊斗さんが目を丸くした。
あ、やば。冷たいやつって思われたかも。
「あ、エサくらいはあげますので」
急いで自分は非道な人間ではないことをアピールした。
「………………そのときは、お願いします」
「はいよっ。じゃない、はい」
「……………………………………………………」
隠しきれない自分の本性に、だって男の人と2人で出かけるなんて久しぶりなんだもん!!と泣けてきた。
・・・
車が見慣れた門の前に着いた。楽しかったデートはもうおしまい。
あれから失言?を挽回することはできず、せっかくのよい雰囲気もすっかり台無しになってしまったのだった。帰りの車内で交わす言葉は少なく、それは疲れのせいだけではなさそうだった。
そんなときに限って流れてくる愛の曲。まるで挨拶をするような軽妙な音色が2人の間に白々しく流れていた。
「ーーあ、今日はありがとうございました。楽しかったです」
「……はい、私も」
「えっと、あと、私気に触ること言ってたらごめんなさいね?」
「え?」
……あーーーー私の馬鹿!!なんでこんなに可愛げのない言い方しかできないんだろう。もっと素直にごめんねって言えばいいのに!!
「いや、えと、せっかくクマノミ飼いたいって話してたのに、世話が大変そーだの自分でやれだの、その、悪かったなって。つまり、すみませんでした……」
一気にそうまくしたてて、肩をすくめる。あぁ、また可愛げのないポーズやっちゃった。
きょとんとした湊斗さんが柔らかく微笑んだ。
「ーーーーあぁ、そのことを気にされていたのですか。急に口数が少なくなったのでどうしたのかと、私が何か余計なことをしてしまったのかと思っていました」
そう言うと、ほっとしたようにシートに背を預けた。
「クマノミのことはお気になさらず。正直を申し上げると、嬉しかったんです」
「?」
湊斗さんを見やる。
「自分でやって、とかエサはあげるから、とか……その……一緒に飼うことをイメージしてくださってるのだなぁと感じまして」
それを聞いて顔が一気に赤くなった。夕陽でうまく誤魔化せていることを祈る。無意識でも湊斗さんとこれからも一緒にいるイメージをしていたなんて、己の図々しさが恥ずかしい。無言になった私に湊斗さんが言った。
「……あの、芹香さんさえよかったらなのですが、また……会ってもらえますか?」
「え?」
「あ、いや、気が向いたときでいいし、嫌ならもうこれっきりにしますし」
「嫌じゃないです、全然。むしろ、お誘い頂けて嬉しいです」
我ら大人に駆け引きなんて不要。用件は簡潔に、わかりやすく。
私の食い気味の返事に湊斗さんは安心したようにふわっと笑った。
「……よかった。ではまたご連絡しますね」
「待ってます。あ、こちら、今日のガソリン代です。お納めください」
「あはは、お気になさらず。ーーーーああ、どうしてもとおっしゃるなら次の機会のお茶代にしましょう」
そう言いながら湊斗さんがアームレストをかぱっと開けた。小物入れになっているそこに入れろ、ということみたいだ。
「勝手に使ったりしませんので」
「使ってもいいですので、利子つけて補充しておいてくださいね」
「これは手厳しい」
優しく笑う湊斗さん。
その笑顔を直視してしまい、心臓がはねた。今聴診器を当てられたら激しいビートに仰天されるかもしれない。
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