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気まぐれな贈り物・慎重な贈り物
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ジリリリリ…………
授業終了の合図が鳴り、大講堂から学生達が「おつかれー」と挨拶を交わしながら、ゆるゆると退出していく。
とんとん、とテキストを整え自分のバッグに入れ、さぁ帰ろうかと帰路につく。
校舎入口のあたりで見慣れた姿を見つけ、思わず頬が緩んだ。軽く手を上げると、向こうも私に気づき手を振ってくれた。
「聡子。今帰り?」
「うん。鈴木くんも?」
「送るよ。一緒に帰ろ」
お付き合いをしている私たち。二人並んでてくてくと駐車場へ向かった。
雨上がりの夕日がとても美しい。整然と植えられている花々は自然のシャワーを浴びて、とても気持ちよさそうに咲き誇っていた。
駐車場に停まっているのは『親と兄貴たちのお下がり。十年落ちだぜ、ありえねぇ』と苦笑いしていたドイツ車。お下がりと舌打ちしていたけれど、ホイールまでピカピカの外装、清潔な室内を鑑みれば、大事に乗っているのが伝わってきた。
静かに発進する。
鈴木くんの運転は、本人の性格を表しているのか、とても穏やかだ。その安心感と規則正しい揺れのせいか、つい眠たくなってくる。
「あ、そうだ。丁度いいや」
そこの小物入れ開けてみて、と言われ、そっと開けてみた。ラッピングされた小箱が入っていた。
「それ聡子に。似合うと思って」
「え………」
決して値踏みする気はないのだが、リボンには私でも知っているフランスのブランド名が見える気がする。
「開けてみて」
「……わぁ……」
思わず感嘆の声が漏れる。小箱の中には、美しいイヤリングが鎮座していた。きらきらと輝いて、これをつけたらピンと背筋が伸びそうな、このアクセサリーに似合う自分でいたい、と思わせるようなイヤリングだった。
「気に入った?」
信号待ちのタイミングで鈴木くんが私を覗き込んでくる。
「……うん。とても素敵なお品。……なんだけど」
「けど?」
鈴木くんが不安げな顔になる。その顔を見るとなんだか申し訳なくて、このまま素直に受け取り笑顔でありがとうと言ってしまおうか、という気になった。
ーーーーーが、
「……こういう高価なものは、特別な日だけでいいの……って前も言ったよね?」
もちろん、特別な日は高価なものをくれってわけじゃないからね、とも一言添える。
信号が青になった。
「なんだ、そんなこと」
ハンドルを操作しながら、ふふっと笑う。
横顔は笑っていた。楽しそうに言う。
「じゃあ聞くけどさ、聡子にとってどれくらいがいいの?」
「どれくらいって…」
値段のこと?それとも贈り物の頻度のこと?
どれから伝えればいいのか頭を抱えた。
「……私はいいから、鈴木くん、自分のもの買いなよ。私は私でちゃんとするから」
「それ信じたらダメなやつって学習した。アクセサリーって嫌いなの?」
くすくすと笑いながら鈴木くんが言う。車はすーっとカーブを曲がる。
私、全然揺られない。運転うまいなぁ。
「…嫌いじゃないし、興味がないってわけでもない。自分で買うのはちょっと面倒だなぁってだけで」
「じゃあ俺がプレゼントしていいじゃん。かわいい彼女を飾り立てたい俺の気持ち、わかって?」
「…………………」
「そのネックレスも、すごくよく似合ってる」
さすが俺の見立て、と上機嫌で笑った。
鼻歌でも歌い出しそうなその様子をみて、私は小さくため息をついた。
「あ、そうそう。お礼とかいらないからね。時計で十分だから。ありがとね」
ひらひらと腕をふる。そこには私がこの間贈った時計がはめられていた。
「………、もしかして気に入らなかった?」
自分のセンスの無さに幻滅されたのかもしれない。そんな不安が胸をよぎる。
丁度私のマンションにつき、駐車場に車を停めた。『来客用スペースに停めると気を使うから』という理由で借りたらしい。空いてるとこあってよかった~と言って笑っていたときは心底驚いたものだ。
エンジンを止めると、そっと手をとられた。
「キスしていい?」
質問の答えがないことが答えなのだろう。
心の中で落胆し、彼が満足するものを贈れなかった自分を恥ずかしく思った。
「…うん」
そっと唇が重なる。そのまま何度もついばみあった。
「聡子、好きだよ」
「うん」
「…………時計、すごく嬉しかった。めちゃくちゃ気に入ってる」
「えっ」
思っていたのとは逆の言葉に、思わず素っ頓狂な声が出た。
「えっほんとに?無理して言ってない?」
「言ってない」
鈴木くんが、にこっと微笑んだ。
「『鈴木くんのこと考えながら選んだ』って言われて、嬉しくない奴なんている?しかも、結構リサーチしてくれてたろ」
マジで嬉しかった。
そう言って、キスをしてくれた。
「聡子?」
「…あ、よかった。ほっとした」
「ふふ。気に入らないものはつけないって。あ、でも聡子からもらったらなんでも嬉しいかな?」
鈴木くんがいたずらっぽく笑った。
「お礼はいらないって言ったのは、俺が好きでプレゼントしてるから。お礼が欲しくてやってるんじゃないからさ。だから、聡子は何も気にしないで、受け取ってくれればいいから」
「…そう言われても…」
私の返答に鈴木くんは困ったように眉を下げた。
「聡子も親が医者で病院やってるだろ」
「鈴木くんのところほど大きくはないけど」
「その違いなのかな?俺たち同じような立場なのに、なんで聡子はそんなに堅実なのか、部屋でコーヒーでも飲みながら話さない?」
鈴木くんの提案に、思わず笑ってしまう。
「素敵ね。うん、いい豆あるからそれ飲もうか」
「やった。あとさ、どうしてもお礼がしたいんだったら膝枕して?それで俺は大満足」
「…………どうぞいつでもいくらでも………」
「やった!じゃ、行こうか」
車を降りる。二人でエレベーターに乗り込んだ。
目的階のボタンを押す。
扉が閉まるとすぐに、ぎゅっと抱きしめられた。彼の上品な香りに包まれ、私も彼の胸に顔をうずめた。
授業終了の合図が鳴り、大講堂から学生達が「おつかれー」と挨拶を交わしながら、ゆるゆると退出していく。
とんとん、とテキストを整え自分のバッグに入れ、さぁ帰ろうかと帰路につく。
校舎入口のあたりで見慣れた姿を見つけ、思わず頬が緩んだ。軽く手を上げると、向こうも私に気づき手を振ってくれた。
「聡子。今帰り?」
「うん。鈴木くんも?」
「送るよ。一緒に帰ろ」
お付き合いをしている私たち。二人並んでてくてくと駐車場へ向かった。
雨上がりの夕日がとても美しい。整然と植えられている花々は自然のシャワーを浴びて、とても気持ちよさそうに咲き誇っていた。
駐車場に停まっているのは『親と兄貴たちのお下がり。十年落ちだぜ、ありえねぇ』と苦笑いしていたドイツ車。お下がりと舌打ちしていたけれど、ホイールまでピカピカの外装、清潔な室内を鑑みれば、大事に乗っているのが伝わってきた。
静かに発進する。
鈴木くんの運転は、本人の性格を表しているのか、とても穏やかだ。その安心感と規則正しい揺れのせいか、つい眠たくなってくる。
「あ、そうだ。丁度いいや」
そこの小物入れ開けてみて、と言われ、そっと開けてみた。ラッピングされた小箱が入っていた。
「それ聡子に。似合うと思って」
「え………」
決して値踏みする気はないのだが、リボンには私でも知っているフランスのブランド名が見える気がする。
「開けてみて」
「……わぁ……」
思わず感嘆の声が漏れる。小箱の中には、美しいイヤリングが鎮座していた。きらきらと輝いて、これをつけたらピンと背筋が伸びそうな、このアクセサリーに似合う自分でいたい、と思わせるようなイヤリングだった。
「気に入った?」
信号待ちのタイミングで鈴木くんが私を覗き込んでくる。
「……うん。とても素敵なお品。……なんだけど」
「けど?」
鈴木くんが不安げな顔になる。その顔を見るとなんだか申し訳なくて、このまま素直に受け取り笑顔でありがとうと言ってしまおうか、という気になった。
ーーーーーが、
「……こういう高価なものは、特別な日だけでいいの……って前も言ったよね?」
もちろん、特別な日は高価なものをくれってわけじゃないからね、とも一言添える。
信号が青になった。
「なんだ、そんなこと」
ハンドルを操作しながら、ふふっと笑う。
横顔は笑っていた。楽しそうに言う。
「じゃあ聞くけどさ、聡子にとってどれくらいがいいの?」
「どれくらいって…」
値段のこと?それとも贈り物の頻度のこと?
どれから伝えればいいのか頭を抱えた。
「……私はいいから、鈴木くん、自分のもの買いなよ。私は私でちゃんとするから」
「それ信じたらダメなやつって学習した。アクセサリーって嫌いなの?」
くすくすと笑いながら鈴木くんが言う。車はすーっとカーブを曲がる。
私、全然揺られない。運転うまいなぁ。
「…嫌いじゃないし、興味がないってわけでもない。自分で買うのはちょっと面倒だなぁってだけで」
「じゃあ俺がプレゼントしていいじゃん。かわいい彼女を飾り立てたい俺の気持ち、わかって?」
「…………………」
「そのネックレスも、すごくよく似合ってる」
さすが俺の見立て、と上機嫌で笑った。
鼻歌でも歌い出しそうなその様子をみて、私は小さくため息をついた。
「あ、そうそう。お礼とかいらないからね。時計で十分だから。ありがとね」
ひらひらと腕をふる。そこには私がこの間贈った時計がはめられていた。
「………、もしかして気に入らなかった?」
自分のセンスの無さに幻滅されたのかもしれない。そんな不安が胸をよぎる。
丁度私のマンションにつき、駐車場に車を停めた。『来客用スペースに停めると気を使うから』という理由で借りたらしい。空いてるとこあってよかった~と言って笑っていたときは心底驚いたものだ。
エンジンを止めると、そっと手をとられた。
「キスしていい?」
質問の答えがないことが答えなのだろう。
心の中で落胆し、彼が満足するものを贈れなかった自分を恥ずかしく思った。
「…うん」
そっと唇が重なる。そのまま何度もついばみあった。
「聡子、好きだよ」
「うん」
「…………時計、すごく嬉しかった。めちゃくちゃ気に入ってる」
「えっ」
思っていたのとは逆の言葉に、思わず素っ頓狂な声が出た。
「えっほんとに?無理して言ってない?」
「言ってない」
鈴木くんが、にこっと微笑んだ。
「『鈴木くんのこと考えながら選んだ』って言われて、嬉しくない奴なんている?しかも、結構リサーチしてくれてたろ」
マジで嬉しかった。
そう言って、キスをしてくれた。
「聡子?」
「…あ、よかった。ほっとした」
「ふふ。気に入らないものはつけないって。あ、でも聡子からもらったらなんでも嬉しいかな?」
鈴木くんがいたずらっぽく笑った。
「お礼はいらないって言ったのは、俺が好きでプレゼントしてるから。お礼が欲しくてやってるんじゃないからさ。だから、聡子は何も気にしないで、受け取ってくれればいいから」
「…そう言われても…」
私の返答に鈴木くんは困ったように眉を下げた。
「聡子も親が医者で病院やってるだろ」
「鈴木くんのところほど大きくはないけど」
「その違いなのかな?俺たち同じような立場なのに、なんで聡子はそんなに堅実なのか、部屋でコーヒーでも飲みながら話さない?」
鈴木くんの提案に、思わず笑ってしまう。
「素敵ね。うん、いい豆あるからそれ飲もうか」
「やった。あとさ、どうしてもお礼がしたいんだったら膝枕して?それで俺は大満足」
「…………どうぞいつでもいくらでも………」
「やった!じゃ、行こうか」
車を降りる。二人でエレベーターに乗り込んだ。
目的階のボタンを押す。
扉が閉まるとすぐに、ぎゅっと抱きしめられた。彼の上品な香りに包まれ、私も彼の胸に顔をうずめた。
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