ふたりの恋

ゆり

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人の欲は尽きぬもので

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 x月y日 天気:晴れ。

 俺は愛しい恋人・田中聡子と、彼女の部屋で、今日も今日とて熱いキスを交わしていた。
窓から入ってくる風がカーテンを揺らす。ふんわりと花の香りがした気がした。

「……ん……鈴木くん……」

「……聡子……好き……好きだよ……」

 聡子から漏れる甘い声に興奮し、夢中でキスする。聡子の唇は柔らかく、とても心地よい。吐息一つ漏らすまいとするかのように熱心に口付けするうちに、体の芯からどうにも抑えられない衝動が湧き上がってくるのを感じた。唇を離し、聡子に腕を絡める。

(…………抱きたい…………)

 はぁ、と心の中でため息をつく。いつぞや、性急にことを進めすぎて聡子を怖がらせたことがあったので、強引に押し倒すのはやめようと心に誓っていた。
 ちゅっと聡子の頬にキスする。くすぐったかったのか、聡子が「にゃっ」と言った。かわいい。顔を覗き込む。

「……聡子」

「鈴木くん。好き」

 今度は聡子が俺の頬にキスしてくれた。なるほど、確かにちょっとくすぐったい。
くすくす笑いながらまた唇をついばみあった。




「あの……鈴木くん……」

「……うん?……」

 キスの合間に聡子が言う。
唇を離し、見つめ合った。聡子が恥ずかしそうに目をそらした。その様子がかわいらしく、キスを再開しようとしたところ、

「あの…………」

 寸止めをくらった。

「?どうしたの?」

 少し上半身を起こし、尋ねた。

「……その……あの……」

「????」

 真っ赤になって身振り手振りで何かを伝えようとしている聡子。何か言いたげなのはわかるけど、それが何かはわからなかった。頭の中に疑問符が満ちる。

「……その……鈴木くん!」

「はい」

 まるで出欠のような返事をしてしまった。すると突然聡子ががばっと抱きついてきた。バランスが取れず、一先ずそっと聡子を押し倒した。

「どうしたの?」

 優しくきくと、聡子が意を決したように言った。

「……鈴木くんと、したい、です……」



「何を?……………………あっ、ああ!」

 最初こそ間抜けな返事をしてしまったが、すぐに合点がいった。聡子は真っ赤になって俺を見ている。心なしか、涙ぐんでいるようだった。

「えと、その、い、いいって……ことだよね?」

 今度は俺がしどろもどろになる番だ。聡子がこくん、と頷いた。

「えと、シャ、シャワー浴びる?俺は別にどっちでもいいけど」

「……浴びたい。少しでもきれいでいたい……から……」

 消え入りそうな声でそう言い、うつむいた。耳まで真っ赤だ。その様子を見ると、嬉しい気持ちを通り越してなんだか気の毒になってきた。聡子をそっと抱きしめる。

「……聡子。嬉しいけど、無理しなくていいんだよ?俺に気使わないで」

「……無理してないし、気も使ってない」

 聡子が潤んだ目で俺をきっと睨みつけた。どうやら決意は硬いようだ。抱きしめる腕に知らず知らず力が入った。

「……わかった。えと、じゃあ……一緒にシャワー浴びる?」

 ウインクして言うと、

「……先に入る!」

 と、バタバタとバスルームへ向かってしまった。パタン、と扉が閉まる音をきいて俺は一気に力が抜けた。ぽふっとベッドに倒れる。聡子を心配する気持ちはあれど、緩む口元を抑えることができなかった。

「……………………」

『最初は中々入んねーから。焦るなよ』
 次兄からのメールを思い出す。俺は童貞ではないけれど、お相手はいつも経験者ばかりだったから、いわゆる、その、「『俺が初めての相手』という女性」とするのは初めてだった。

(やば……なんか緊張してきた……)

 ごろごろとのたうつ。枕からほんのり聡子の香りがした。
 
 聡子があがってきたのはそれから20分位してからだった。

「ごめん、お待たせ……」

「いや、大丈夫……。えと、じゃ、俺入ってくるね」

 うん、と聡子が小さく言った。

「なるべく早くあがってくるね」

 そう言ってキスすると、聡子の顔が真っ赤になった。

「あ、タオル用意してるから使ってね」

「うん」

 にこっと笑うと、聡子も髪を耳にかけながらはにかむように笑った。








 簡単にシャワーを浴びてあがってくると、聡子がベッドに正座して待っていた。その様子にちょっと笑ってしまう。俺も倣って正座してみた。

「「…………………………」」

 沈黙が流れる。

 先に口を開いたのは聡子の方だった。

「えと……未熟者ではございますが、一生懸命頑張りますので、ご指導よろしくお願いいたします……」

「ぶはっ」

 三つ指ついて礼儀正しく頭を下げる様子に、思わず吹き出してしまった。

「もう!なんで笑うの!!」

 聡子が茹蛸のように真っ赤になって抗議してくる。ぺしぺしと俺を叩く手が、なんだか、どうしようもなく愛しい。
 聡子をできるだけそっと抱きしめた。体が強張るのが伝わってきた。

「聡子、大好き」

「うん」

「俺だって、恥ずかしながら、熟達してるわけじゃないからね?ご指導よろしくお願いします」

 そう言って、聡子を優しく押し倒した。2人、微笑みあう。口付けすると、せきを切ったように想いが溢れ出してきた。はやる心を抑え、俺は聡子の衣服に手をかけた。



 前触れなく、はじめて会ったときのことが、頭をよぎった。



ーー入学式で姿を見かけ。なんてきれいな女の子なんだろうと思った。同じ学科だと知り、心おどった。
『知り合いになりたいな』からはじまり。『友達になりたいな』『もっと仲良くなりたいな』『彼氏になりたいな』『キスしたいな』……『全てを、俺のものにしたいな』ーー

 人の、己の欲望はなんと果てのないことか。

 苦しそうに眉を寄せ、痛みに耐えている聡子を見る。

「……大丈夫?……」

『最初は入んねーから。焦んなよ』
 確かにその通りだった。何回目かのトライでようやく半分ほどは入ったけれど、そこから先、苦戦していた。

(まじで……こんなに大変なんだ……。聡子は勿論だけど、俺も……)

 額の汗をぬぐう。聡子の汗も拭いてあげた。

「……ごめんね、鈴木くん……漫画みたいには……うまくいかないね……」

 聡子が涙声で言った。彼女の焦りが伝わってきて、俺の方が申し訳なくなった。

「……いいって……。痛いよな?ごめんな。頑張ってくれて、ありがとな」

 俺の言葉に、聡子の目から涙が伝い始めた。

「!……大丈夫か!?……もう、やめよっか」

「ううん、いいの…………。なんか、鈴木くんの優しさに泣けてきちゃって……」

 聡子が俺に抱きついてきた。ぬるっ、と、その、俺が、進んだ気がした。

「聡子、力抜いて」

「…………ん…………」

 聡子が俺にしがみつく。耳元で甘い声がきこえ、体の芯がジンとした気がした。ゆっくり、ゆっくり力を入れる。

「すずきくん…………」

「聡子、入った…………」

「……うそ…やった……」

 達成感に包まれ、キスを交わす。泣きながら笑う聡子が綺麗だった。抱きしめて、しばらくそうしていた。

「……あのさ、聡子……」

「……うん?……」

「ゆっくりするから……動いていい?」

「あ……うん……」

 聡子ができるだけ痛くないように、ゆっくり動く。その度に甘い衝動が体を駆けめぐった。
 ーー気持ちいい。
 思うままにつきたくなる自分を律した。

「……すずき……くん……」

「聡子……痛くない……?」

「だいじょうぶ……ん……」

 動きに合わせて聡子から切ない声が漏れた。目を閉じると、涙が一筋彼女の頬を伝った。

 ドクン

 己の心臓が高鳴ったのがわかった。
聡子が俺にしがみついてきた。「すずきくん……すずきくん……」とうわごとのように名を呼ばれ。

「聡子……ごめ……いきそ……ちょっとだけ、早くしていい……?」

 涙で濡れた目で俺を見つめ、こくんと頷いた。

「ありがと……」

 聡子にたくさんのキスを落としながら、俺は、快楽の波へ身を任せた。




***




 簡単に後片付けをし、聡子もふいてやる。血が出ていて、かわいそうだった。

「ごめんね、痛かったね」

「痛かったけど、大丈夫。鈴木くんは?」

 聡子がにこっと微笑む。そのいじらしさに胸がずきんとした。抱きしめる。

「俺は、大丈夫。てか、男だし聡子ほど痛くは……ない。ごめん」

「あっそうか。そうだよねぇ」

 ふふ、と笑いながら聡子が俺の胸に顔をうずめた。
そのままお互い何も言わず、ただ時が流れていった。
聡子の髪をなでていると、すぅすぅ……と寝息がきこえてきた。髪にキスした。

(……絶対……大事にしよう……)

 心の底から湧き上がってくる、なんだかあたたかい気持ち。適切な名前はつけられなかったが、それも悪くないと思った。
 腕の中で眠る聡子にもう一度キスして、俺もそっと目を閉じた。
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