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エピローグ・II・
「わあ。エリオンが作った薬、昨日も売れたみたい」
私は職場の薬品棚をチェックしながら、一人で歓声をあげていた。
二人暮らしが始まり、ようやく生活にも仕事にも慣れてきた。
その一方で、彼は、というと、
『仕事に行きたくない……』と。
今朝も支度で忙しい最中に、うだうだと纏わりついてきていた。
『魔塔主は塔の売り上げを倍増させないと辞職出来ないとか。絶対、前はそんな規則は無かったんだ。就職先は働いてもないのに解雇になって、戸籍は凍って結婚もできない……少しも上手くいかない、俺は駄目な男だ』
落ち込み、項垂れる彼を励まし、
『駄目じゃないよ、今日もエリオンは格好いい。お仕事頑張ってね、魔塔主様』
頬に口付けすると、ようやく上機嫌になり、魔塔へと出勤して行くのだった。
「やっぱり時代は変わるものね……男性避妊薬が売れるだなんて、ライラの言った通りだわ。でも魔塔の売上倍増は簡単じゃないかあ。まあね、私はエリオンが魔塔に居てくれた方が、安心なのだけど」
昨日の売上を確認し、私は奥の薬品庫から在庫の補充を始めていた。
〝蕾の乙女〟を退職し、ようやく見つけた転職先は、小さな薬品店の店番だ。
店主らしき御仁は、面接で一度会ったきり。
そのあとは初出勤の日に、何故か卸業者の男に仕事内容を教えられただけだった。
とはいえ日中は殆ど客はなく、私が退勤した後の方が商品が売れている。
だから私の主な仕事といえば、夜間に売れた分の品出しと発注、
つまり商品の在庫管理くらいなのだ。
「売れる薬草の勉強になるし、思い切って就職希望してみて良かった。みんなに感謝しなきゃ」
同期の友人らは物見遊山に、気ままに店に立ち寄ってくれる。
他愛のないお喋りしながらも、良家のご令嬢らは日中の売上に多大に貢献してくれるのだった。
そして特に就活中、熱心に相談に乗ってくれた彼女は——
『エマ、貴女は神に誓って、心から侍女や酪農の仕事がしたいの? それが自分に出来る、限られた仕事だと思い込んでいるのではなくて? 若いうちは色んな事に挑戦し、広い見聞を身につけるべきだと。わたくし、ライラ・ナナシスは神に誓って、心からそう思うわよ』
無知な乙女を諭し、この仕事に導いてくれた公爵令嬢は、つい先日も店を訪れた。
そして私が初めて調合したお茶の試飲にも付き合い、
『薬の値動き一つでも国の情勢が判るものよ。西の大陸で大きな戦争があるから、この薬草は値が高騰するわ。必要なら今のうちに沢山仕入れなさいね。とにかく……ゲホッ、貴女のお茶は恐ろしく不味い、死人が出ます』
と。
数多の縁談のぶった斬り、外務省に勤める才媛の友人のお陰で、店番の田舎娘も日々成長しているのだった。
「もうすぐユーテルの子が産まれるから、またみんなで集まってお祝い出来たらいいけど。でも妊娠中の子達もいるからなぁ……はぁ、同期がもうお母さんかあ」
私自身は子を持つ予定もなく、そもそも彼とは結婚すらしていないのだ。
思い返せば、彼がプロポーズしてくれた、あの日——
すぐに婚姻届を出そう! と、浮かれた若輩者二名は役場に出向いていた。
冷静に考えれば、帝国の名を持つ高貴な御子が、町役場に詣でるのが当然おかしいのだ。
皇帝の隠し子然とした真名や、見たこともない高貴な身分証を提示され、窓口の役人達が軒並み卒倒するだけであった。
しかも帝国アストリアの名を捨て、〝エリオン・クロエラ〟になろうとしている事が皇帝にも知れ、怒りの勅命により、彼の戸籍が変更不能に凍結されてしまった。
(まあね、まともな父親なら怒って当然だわ。大事な長男が、こんな蜘蛛の巣だらけの廃墟同然のド平民の戸籍に婿入りだなんて)
天上から地底まで。真っ逆さまに貴族階級を転落していく息子が、不遇に思えて普通に心配なのだろう。
しかも相手は、かつて自身が褒賞としてクロエラ姓を与えた、成り上がり騎士の孫。
今ごろ陛下も過去を悔やみ、枕を濡らしているのかもしれなかった。
(いつか子を持つまでには、私達もちゃんとした夫婦になれるといいけど。やっぱり身分差があると色々大変ね。まぁ……差は身分だけじゃないけど)
私は店のカウンターに戻り、はぁ、と頬杖と溜め息をついた。
色々と問題は山積みだが、私を憂鬱にさせているのは、結婚の無期延期ではなかった。
あの日だって役場で門前払いをされようと、私は前向きに彼との未来に夢を膨らませていた。
『結婚なんて形式的なものだし、いつでもいいじゃない。それより今日の記念に、何かお揃いの物を、お互い贈りあいましょう』
幸せの真っ只中の私は、愛する男の手を引き、華やかな帝都の街に向かった。
思えば大人になり、友人が恋人になり……これが二人の初めてのデートなのだから、と。
しかし——
華やかな街も、彼と歩くと色めきだった娼窟に様変わりした。
『とっても指が長くて綺麗ですのね……指の長さって下のものと似るって噂、本当かしら? 答え合わせ、貴方と、したいわ……』
『このネグリジェ、私には少しキツくてぇ。ほら、私って彼女さんより、胸が……ね? 良ければ、向こうで生地感とかサイズ感、それ以外も……確認していいよ?』
いかに外套のフードを目深に被らせようと、これみよがしに手を恋人繋ぎをしようとも。
私の自慢の婚約者は、他の女にも大人気だった。
お揃いの指輪を見ているのに、あからさまに彼を誘惑してくる店員さん。
目障りな地味女を葬り去ろうとする闇組織のお姐様。
札束で邪魔な田舎娘の頬を叩いてくる富豪な奥様などなどなど。
行く先々で手練の女狩人達に追われ、街の男達にはいい顔されず意地悪されるしで、散々な初デートだったのだ。
(はぁ……とはいえ一番の問題は、彼が自身への好意や悪意に、少っっしも、気が付かないという事よ。そのうち訳も分からず、男女の色恋沙汰に巻き込まれて血を見るに違いないわ)
ゆえに少年時代から長く身を置いた魔塔にいてくれた方がまだ安心なのだ。
都会の毒婦に騙され、性的な玩具にでもされやしないかと、私の方が心配で身が持たないからだ。
(まったく……彼が悪いわけじゃないけど、女の人にいやらしく体を触られてるのに平然としてるのって、同意の行為と誤解されかねないじゃない。でも全部注意していたら、意地悪な束縛女みたいだし……。はぁ、家で過ごす時間は、とても幸せなんだけどなぁ)
昨晩の夜の営みを思い出し、そっと下腹部を撫でた。
珍しく彼に激しくされて、まだお腹に感触が残っている気がする。
「……早漏どころか絶倫、だったわね、昨晩は。あの薬剤、なんだったのかしら。エリオンに悪い事しちゃったな」
昨日は夕暮れ時、彼が職場に迎えに来てくれたのだが、なんだか様子が変だった。
尋ねても理由を話さないので、仕事で疲れているのかもしれないと、食後はよく眠れるようにハーブティーを支度したのだ。
そして、その深夜。
信じがたい事件が起きたのだった——
◇
「あら、まだ起きてたの?」
ユーテルに贈るブランケットを編んでいるうちに、つい夢中になり、気がつけば深夜になっていた。
起こさないようにそっと寝室に入ったのだが、彼もまた、寝台で読書をしていたのだ。
私はサイドテーブルにあるカップを見るなり、落胆する。
「なんだぁ……気分が落ち着いて、熟睡出来ると聞いたのに。あのハーブティー、ちっとも眠くならなかった? うーん、淹れ方が悪いのかしら」
「そんなに俺に、早く寝て欲しかった?」
「え?」
顔はニコリと笑っているのに、なんだか口調が冷たい。
不機嫌さに加えて、あのインテリとかいう魔法の眼鏡を掛けているせいだ。
「それ、読書用の眼鏡じゃないのでしょ? 家の中ではかけないと言っていたのに、今日は一体どうしちゃったのよ」
隣りに座り、レンズの向こうに見える、別人のような瞳を覗き込む。
するとグイと肩を掴まれ、寝台へと押し倒されていた。
抑え込まれる力強さに驚いて、
「エリオン……何を怒っているの? 話してくれなきゃわからないわ」
「……怒ってない。でもエマが悪いんだ、俺が夫で、旦那は俺なのに。もう俺が嫌になったんだろ、下手だし結婚も出来ない、頼りない男だから」
悲しそうに目を細めて、私の唇を奪っていく。
優しく、啄むように重ねた唇から、艶かしく舌が入り込んでくる。
様子はおかしいが、口付けはいつものように甘やかだった。
でも——
(あれ……? なんだか、お酒の匂いがするみたい)
驚いて彼を見つめるが、魔法の眼鏡のせいか、どこまでも冷静沈着に見える。
「もしかして、お酒を飲んだの? でも、うちにお酒なんて——」
そう言い掛けて、はたと気付く。
『これ、ハーブティーに入れると、程よく体温が上がって入眠しやすい薬剤で。試供品で持ってきたんすけど、旦那様が店番のお姉さんにどうぞって』
そう言われて卸業者に貰った試供品の薬剤。
たったの一滴しか入れていないが、確かに、あれはアルコールだったのかもしれない。
「ごめんなさい……シロップみたいなものかと思って、よく確認しなかったの。お水を持ってくるから待ってて」
「……どこに行くんだよ」
「お台所よ、旦那様に貰った瓶の中身も確認しなきゃ」
するとどういうわけか、さらに強引に覆い被さり、私の首筋に強く吸い付くのだった。
「や、イタ……っ。うそ、そんなとこに跡を残されたら見えちゃうのに」
「見えたら困るのかよ」
「え……」
「エマは俺の妻になるから、夫は俺だ。他は要らない、みんな死ねばいい」
「ええぇぇ」
正気じゃない事は確かだが、薬を盛った女の話など聞いてくれそうもなかった。
でも、暴れたり乱暴する様子はなく、ただ、いつもより口が悪くて、強圧的だ。
「エリオン……どうしたらいいの、どうしたら許してくれるの」
「怒ってないって言っただろ、いいから足開けよ」
「あ……っ」
寝巻きの裾が捲れ、膝を摩りながら太腿へと、手が這い上がってくる。
「ねえ、あ、あの、今日はもう遅いから、やめよう」
「は……そんなに俺としたくないの。だから寝室に来るのも遅くて、朝もおはようのちゅーしないのか」
「え? 」
「毎日してくれたのに、もう俺に飽きたのかよ。ひどい妻だ」
おかしな事を言われているのに、肌を撫でまわされ、感じてしまう。
ゾクゾクと全身を震わせ、身を捩りながらも、頭では言われた事を考えていた。
(おはようの、って。確かに、一緒に寝起きした時は挨拶ついでに自然と、してたわね。でも最近は早起きして編み物するのが日課だったから。起こさないように気遣っていただけで、飽きたとかじゃないのにな)
けど思い返せば、今朝も、妙に付き纏われていた。
朝の支度中の行く先々に現れ、『仕事が嫌だ、嫌だ』と。
愚痴をこぼすので、真面目に話を聞いていたが。
「もしかして、口付けをして欲しくて、朝も付き纏っていたの?」
「だって……昔はちゃんとしてくれた。落ち込んでると、元気出してって、頬にちゅーするんだ。エマは都会に染まって変わってしまった、だから好みも俺からインテリに……胸が苦しい」
「イ、インテリ? 苦しいって大丈夫なの?!」
「嫌だ、怖い……俺もインテリになれる、頭はわりといいはずだ」
「ちょ、アッ、はぁ、ンッ」
寝巻きがすっかり捲り上げられ、露わになった胸が揉み上げられる。
立ち上がった乳首を舌先で突かれ、転がされる。
ピリピリとした快感が駆け巡り、肌が粟立った。
そして更に、彼の手は太腿から恥丘を優しく撫でていく。
「下も丸見えだ……エマ、ちゃんとパンツ履けよ。もう実習はない、仕事中は履かなきゃだめだ」
「はっ? 履いてますぅ……っ、日中は! 夜はお風呂のあと、する、かもしれないし。ぬ、濡れて汚すかもって、寝巻きになったら履いてないだけで、……あううッ」
割れ目を摩っていた指が、ツプゥ……ッと。
濡れそぼった中へと入ってきた。
長い指を突き入れたまま、ささやかな胸もいやらしく舐め上げられる。
「ハァ……えろすぎ。こんな、びしょ濡れなのに、パンツ一枚じゃ防御が足りない。上は? しなくていいからしてないの」
「し……?! ——キャミソールにカップが付いてるから、いいんですっ。ちゃんとしたのは今度のお給金で買うつもりだったのに! 胸のこと言わないで……! し、しなくていいって、どういう意味よおぉ」
私は両手で顔を覆って叫んでいた。
塔にいた時だって豊満な子には当然、上の下着も支給されていた。
ただ、修道服にはニップレス対策がされており、それで充分と判断される乙女も僅かに居るのだ。
(私だって、ちゃんとした下着が欲しい思っていたもの。街のランジェリー店だって覗いたし、大人な下着を買おうと思ってたのに……見せたい人に、しなくていいと思われてるなんて、残酷すぎるわ)
腕で必死に隠した胸は、男の手により、問答無用に暴かれた。
そして眼鏡越しに冷ややかな目線で見下ろされ、
「——だめだ、エマには必要ない」
「はあああ、まだ言うの? 本当に本気でっ、私だって怒るんだからっ」
「だって、俺が嫌だ」
乳首をグリグリと親指で押し込みながら、口元に引き攣った笑みを浮かべる。
「……エマの、旦那様? そいつから貰ったお金で買った下着なんて、俺のちんこが激萎えして勃たなくなる。……ああ、そうやって捨てるのか。ちんこも勃たない役立たずの男を」
「旦那様って……? どうしてあなたが私の旦那様に怒るの? とてもいい人よ、まだ会った事ないでしょ?」
私だって一度しか会ってないから、良し悪しもないのだが。
けど、給料日が遅れる事もなく、むしろ売上が好調だからと新人にボーナスまでくれたのだ。
そんな人が悪人なわけがなかった。
「ハ……、いい人? 俺の妻になる女をエロい目でみるクソ野郎がいい男なら、すぐに神の御許に還してやるよ。エロ眼鏡が、死ね……俺が今世も来世もなく燃やし尽くしてやる」
「エロ……、死……?! なんて恐ろしい事を言い出すのよぉ。もう、あなた変だから今から病院に連れて行くわっ」
「もういい。そうやって間男を庇うなら、俺も本当に本気で、怒るんだ」
ぬかるみの中に、ジュプリ……と指が増やされる。
ちゅこ、ちゅこ、と水音を立てて、更に中を揺すり上げていく。
「やッ、まだ話が、あ、はぁ、あン、指……だめだってばあ……ッ」
「指じゃ物足りない? 今日のエマはえっちだな……ああ、この眼鏡のせいか」
「——アッ」
グイッと膝裏を持ち上げられ、股間が晒される。
長い舌が既に濡れた割れ目をなぞり、隠れた肉芽をチロチロと弾いて虐めた。
「あぁ、ハァ……ッ、舐めるの、やだぁ、そこ、アアッ」
「逃げるなよ……俺だって、ちゃんと出来る」
ぢゅう、ヂュッ、ジュブ、ちゅぷ……ッ
舌が中まで入り、更に親指が肉芽をグニグニと強く嬲った。
えも言われぬ快楽に、腰が一人でに戦慄き、浮いてしまう。
でも、お腹を抑えつけられ、快感の逃げ場もなく——私はあっという間に達してしまった。
目の前が真っ白になり、いつもならそのまま朝まで熟睡するはずだった。それなのに、
「あれ……私……」
どういうわけか、すぐにモヤが晴れ、再び快楽の中へと引き戻されていた。
そして朦朧とした視界の先で、
「はぁ……えろ……」
股座の男が、びっしょりと濡れた指を恍惚とした表情でしゃぶるのが見えた。
それは変態——ではなく、私の愛しい婚約者だ。
そのはずなのに、まるで別人のように、神々しくキラキラ輝いて見えるのだった。
(え……私、彼を好きすぎて、変態行為すらも眩しく素敵に見えている……? そんな、私まで頭がおかしくなってるじゃないの)
しかし見間違いでも、好意によるフィルター効果でもなかった。
黒髪であるはずの彼が、女神アストラの如く、金髪に変わっているのだった——
「エリオン、あなた、髪が、変よ。どうしちゃったの……?」
「髪? ああ、これか、別に問題ない。あ……ハハ、えろいトロトロ汁いっぱい舐めてたら、鼻血出てきた」
「エッ」
鼻血を袖で拭うが、その汚れすらもキラキラと輝きながら昇華していく。
(そんな、血が消えていく、なんて……まさか浄化? じゃあ、達しても意識がすぐに戻るのとか、根深い肩凝りが消えたのも、彼の神聖力の効果だったり……?)
驚きのあまり、つい、股座の男を拝みそうになるが異常事態だ。
街外れの中古物件に神が降臨し、これから淫婦に天啓でも与えそうな場面だが、神はさっきまで女の股を舐めていた、ただの愛する私の婚約者である。
「大変、だわ……。具合は? 痛いとことか、他に不調はないの? 頭は当然、おかしいけど」
「エマ……俺を心配してくれるの」
「当たり前じゃないの! どうしよう、私のせいだわ……」
大切な彼を、おかしな薬でおかしくしてしまった。
元に戻らなければ、あまりの神々しさに、彼を神殿に奪われてしまうかもしれない。
(そんなの嫌よ……お願いだから私から彼を奪わないで下さい……!)
信心深くもないのに、必死に神とやらに祈る。
すると震える手を、神が、いや、私の婚約者が優しく包み込むのだった。
「エマは、悪くない。俺が情けない男だから、不安なんだ」
「不安?」
レンズ越しでも、その瞳は青白い光を湛えている。
塔の拷問部屋でも、この壮麗な御姿を見た事がある。
あの時は懐かしい友人を重ね、号泣するほど嬉しかったのだ。
でも今は——
私を見つめ、茜色の瞳を細めて笑いかけてくれる……愛しい彼に戻って欲しくて堪らなかった。
「エリオン……どうすればいつもの貴方に戻るの? 不安って何? 貴方、見た目だけじゃなく頭も変よ、病院は行きたくない? なんでもするから言ってみて」
「なんでも?」
私を見下ろし、この世の者と思えぬ、荘厳な微笑を浮かべる男。
でも、その手には神器たる、股間の立派なものが握りしめられていた。
「……見てよ。エマが誘惑するから、インテリ眼鏡かけてんのに、俺のちんこバキバキ。……なんでも、かぁ、そういう手作りの券、エマに貰った事あったな」
「あの、なんでも、にも限界はあって」
「あ、じゃあさ! 足、自分で持って、広げて見せて」
「え?」
「〝挿れてください、旦那様〟って言ってみてよ」
「ええええ」
嬉々として私の股を押し開き、ぐっしょりと濡れた割れ目に、自身のものを擦りつけた。
「あ……ッ」
「俺、全然そういう嗜好はないんだ。本当はいっぱいエマに名前を呼ばれたい。でも誰が旦那なのか、あの、エロ眼鏡に……思い知らせてやらないとな」
「エロ眼鏡って、や、やだ、ちょっとぉぉお」
ペチペチと滾ったもので割れ目を叩き、さらに先っぽで敏感な芽を弄ってくる。
「早く言って。足持って広げて、〝挿れてください、旦那様〟って、お願いされたい」
「うう」
恥ずかし過ぎて、足を持ち上げながら、唇を噛み締めた。
だいたい勤務している薬品店の《旦那様》は、小柄な老人で、眼鏡はしていない。
そもそも一度しか会ってないのに、新人を変な目で見るわけがないのだ。
(でも、エリオンがおかしくなったのは私のせいだもの……! 不安が何かもわからないけど、満足すれば、変わるのかも)
私は意を決し、神々しい婚約者を見上げた。
そして、膝裏に手をかけ股を開きながら、
「い、挿れて下さい、旦那様……!」
必死に台詞を言い終えたが、男は「アハハッ」と爆笑していた。
「ごめん、全然よくないな。でも、うん……全部好きだから、変でも興奮する」
そういうと私にのしかかり、張り詰めた先端を、ぐちゅり、と埋めてきた。
「ぁ、ンうっ」
「……じゃあ、俺の硬いちんこ、今から挿れてあげるね……奥さん」
「奥さ……? や、やだ、この設定、なんか私が悪い事してるみたいじゃない……!」
「どうしたの、奥さん……暴れてももう先っぽ入っちゃってるよ。ほら、ちゃんと足持って、入るとこ見せて。あ、すごい……奥さんの中、もうぐちょぐちょだ」
「うう、もうっ、奥さんって言わないでぇぇ」
「ねえ……思いっきり奥まで挿れるのと、ゆっくり入り口擦りながら……おしっこ漏らすとこ、トントンしながら挿れるの、どっちがいい? 奥さん可愛いから選ばせてあげる」
「や、漏らすのは、絶対、絶対、嫌ですぅ……っ」
「そう……知らなかったな、激しい方が好きなんだ。わかった、欲求不満の奥さんの為に……すぐ奥まで挿れないとな」
「え? キャ、あううっ」
グチュ……ッ
一気に腰を突き入れられ、ぬかるみが貫かれた。
「あぁ——………ッッ」
火照った肉壺の奥に、硬く滾った鉄杭が突き刺さる。
押し寄せる快楽に、一瞬にして感覚が飛んだ。
身体はいつも以上感じているのに、意識は沖まで流される事はなく——
また快楽のさざ波に戻されてしまうのだ。
「——うぅ、あぅあ、やだあ、また、アァッ」
「すげ……俺のちんこ、根本まで入ってるの、丸見えだ。ほら、奥さん、わかる?」
力尽きた奥さんの代わりに両足を持ち上げ、接合部をを眺めているらしい。
私は現実から目を背けるように身を捩り、懇願していた。
「もう、やだあ、私、こんなの、おかしくなっちゃうぅ」
「ン……おかしくなるくらい、いいの? 今日の奥さん、すごくえっちだ……そんなにインテリえろ眼鏡が好きなのか、困った奥さんだな」
「うぅ、そんな人、知らないのに……あぅぅッ」
「動いていい? ここ……痛くない……? 今、ちんこめっちゃ硬いんだけど」
「エリオンたら……」
意地悪なのに時々、いつもの彼の優しさが垣間見える。
それが堪らなく愛おしく、彼の頬に手を伸ばす。
「痛くないよ、硬いの、当たって気持ちいい……」
「ほんと? 俺も気持ちいい、奥さんの中、すごく熱くて…….ちんこ、締め付けてくる」
そういいながら、しなやかな腰をゆっくりと揺らす。
その度に奥がグリグリと捏ねられ、腰が震えてしまう。
「奥さんのここ、突く度に、えろいトロトロが奥から出てくる……本当に、激しくしていいの……俺も、もっと動きたい……ハァ……きつ、ン……」
硬いものを気持ち良さそうに擦り付けられ、私も喘ぎ声を漏らす。
「うん、して……中いっぱい掻き回して……奥もおかしくなるくらい、突いて欲しいの。旦那様の硬いおちんちん、気持ちいいです」
「エ……エマ、じゃなくて、奥さん……俺、頑張るから、捨てないでよ……いっぱい気持ちよくするから、愛してるって言って、奥さん」
「う、うん……私も愛しています」
呼ばれ方一つで、全てが不貞の情事に思えて仕方ないが、こんなに愛しい間男なら仕方がない。
彼の首に手を回し、うっとりと見つめる。
「いつもみたいに、抱きしめてして欲しいです、旦那様」
「うん…‥俺もキスしたい。愛してるよ、奥さん……」
掻き抱かれ、強く最奥を穿たれる。
粘ついた水音と、重なる二人の肌が弾ける音。
そして寝台の軋む音が、夜のしじまに絶えず響いていた。
二人は熱い口付けを交わしながら、朝日が空を白ませるまで、深く交わり続けたのだった——
◇
「……神聖力のお陰かしら。体はすこぶる快調なのよね」
腰が抜けて、出勤も出来ないかと思ったが、むしろ普段より体が軽い。
足の怠さや、筋金入りの肩凝りも綺麗さっぱり消えている。
徹夜の疲れも眠気もなく、もどかしい下腹部の疼きが僅かに残るだけだった。
(エリオンは殆ど何も覚えてないみたい。でも、元に戻って本当に良かったわ。外見も中身も)
ハーブティーの経緯と謝罪はしたが、そんな事より一晩中抱き合っていた事実が心底嬉しい様子だった。
『朝も晩も、一人にされて寂しかった。邪魔しないから、編み物なら寝室でして欲しい』
と。
切実に打ち明けられ、申し訳なさに胸が痛んだ。
不機嫌の理由も分かって良かったが、これでは単に夜通し仲直り性行為をしただけであった。
「うーん……お互い体調は絶好調みたいだし、仲直りも出来たし……いい事ばかりだけど。でも、あの薬剤、どこに行ってしまったのかしら?」
起きてすぐに片しておいた引き出しを探したが、どこにも見当たらなかった。
まるで最初から無かったように、跡形もないのだ。
「私だけ、夢でも見ていたのかしら」
そんな事を考えていると、リンリーンと鈴が鳴り、入り口の扉が開いた。
「……いっらっしゃいませ!」
慌てて立ち上がった私は、来店者を見るなり、とんでもない事を口走っていた。
「あ、インテリ、エロ眼鏡………」
「え?」
大きな革鞄を片手に現れた来店者は、例の試供品を持ってきた卸業者であった。
彼が《旦那様》と言うから思い当たらなかったが、確かにこの男なら眼鏡をかけている。
細い金縁眼鏡は、彼の魔法のインテリ眼鏡によく似ていた。
(そういえばエリオンが店に迎えに来た時に、この人とすれ違ったのかもしれないわ)
卸業者はカウンターにやってきて、いつものように柔和な笑みを浮かべた。
「なにか、変な事を言われた気がしたんですけど」
「エッ、あ、なんでもないのです! ぼんやりしてて、ごめんなさい」
「そうですか? これ、先週の注文品です。残りは発送が遅れていて」
男が鞄から薬品瓶を取り出すのを眺めながら、私は意を決して尋ねてみた。
「あ、あの、先日頂いた試供品の薬剤のことなんですけど」
「ああ、どうでしたか? あれ、結構値が張るので、置いて貰える店は少ないんですよね」
と男は悩ましげに首を傾げてみせる。
よく見れば身なりも上等そうで、洗練された帝都の男性という感じだ。
とても貧相な田舎娘を卑猥な目で見る程、女に困っているとは思えない。
「あの薬って、何かこう、変身……? 人が変わるような成分が入ってたり、しませんか?」
「アハハ、面白いですね、お姉さん。いや、ないですよ、なんですか、それ?」
男は内ポケットから手帳を取り出し、慣れた手つきでページを捲っていく。
「確か……ああ、そうそう。保温効能のある薬草を酒と氷砂糖に漬け置いた、割と単純なものですよ。でもその薬草が高価で……もしかして、変になったのって神官ですか?」
「えっ、いえ、そうじゃないですけど」
「うーん? 昔は聖職者のみに使用を許された薬草なんです。神聖力があると効果が出易く、気分が高揚する症状があるみたいで。麻薬じゃ無いですが、マタタビみたいな感じだとか」
「マ、マタタビ……」
「でも、それでもリラックスする程度の効果ですよ? ここだけの話、大神官様のご愛用品なので、そんな豹変したりは聞いた事ないですよ。まあ、とてつもない神聖力がある化け物なら、どうか知れませんけど」
「あはは、化け物」
私は男同様に柔和な笑みを浮かべ、安堵の態度を示した。
「よかった、私の勘違いでした。彼、お酒が弱いのに飲み過ぎたみたいです」
「ああ、お姉さん、婚約者がいるんでしたっけ? 残念だなー、好みのタイプなのに」
「ふふ、ありがとうございます」
薬瓶紛失以外の謎は、全て解けた——と。
私はかけてもいない眼鏡を光らせ、今日の発注書を男に手渡していた。
「ああ、そういえば」
「え?」
男の手が触れると、一瞬、目眩がするような不思議な感覚がした。
「旦那様が、貴女に新しい仕事を任せたいと言っていましたよ。勤勉でとても真面目に働いてくれるから、きっと上手くやってくれるはずだと」
「……まあ、そうなんですか」
立ちくらみでもしたのだろうと、苦笑いを浮かべる。
やはり夜通し淫らな行為に耽っていた影響があるらしい。
「嬉しいです、もっと仕事を覚えられるように頑張りますね」
「ええ、よろしくお願いしますよ。エマさん」
「はい! あ、そうだ、ええっと……」
「カミルです。カミル・アンペロス」
男は私の心を読んだように、微笑んだ。
そういえばそんな名前だったと頷き、
「アンペロスさん、配達とか外回りの時間って、決まっているのですか」
「いえ、特には。お店の要望に合わせてますね。もしかして来店する時間帯決めた方がいいですか?」
「えっと、私の個人的なお願いなので……無理なら大丈夫なのですが」
私は言い訳を取り繕い、
「出来れば今日ぐらいの昼間の時間の方がありがたいです」
そう伝えた。
卸業者は快諾し、また明日の昼に来ます、と言って店をあとにするのだった。
「……よかった、これで婚約者を犯罪者にしなくて済むわ」
今度は心から安堵し、窓の外を眺めた。
今日もなんとなく、愛しい彼が迎えに来てくれる気がして。
空が彼の瞳と同じ、夕焼けに染まるのが待ち遠しかった。
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