【R18】蕾の乙女は手折る花を誰に捧ぐ【完結】

鯨井兀

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黄金の草原

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 馬は木漏れ日の中をゆっくりと進んだ。
 ヒヅメが落ち葉を踏み締めるごとに、振動が体に伝わってくる。
 スカートのフレアがたっぷりあり助かったが、股はすっかり開いている。
 足があぶみに届くわけもないので、変に股に力が入ってしまう。

(なんだか揺れのせいか、あの人にされたことを思い出しちゃう……中も濡れたままだし)

 みだらな事を考えて馬から転げ落ちでもしたら大変だと、背筋を伸ばし、手綱を握る手に力が入った。
 すると、

「もっと……僕に背中を預けてください」

 耳元で囁かれ、心臓が跳ねた。
 そして騎士様の力強い手で腰をぐっと引き寄せられて、思わず変な声が出てしまうところだった。

「重心が安定している方が馬も歩きやすいのです。エマさんももっと力を抜いて楽にしてください」
「はい……うまくできなくてすみません」
「気にしないで。こうやって体をくっつけて……二人で同じ揺れを感じるようにしたら……とても気持ちいいですよ。僕がしっかり支えているので、全身で感じてくださいね」

 腰を抱えられ、たくましい胸板にすっかり包み込まれてしまう。
 その上、汗をかいていたはずなのに騎士様からは華やかな良い香りがする。
 ユーテルからもこんないい匂いがするし、美人はみなまとう香りすらも美しいのかもしれない。

 それに引き換え、さっきまで男の部屋でまぐわうような行為をしていた自分からは、淫乱な匂いでもしないかと気が気ではなかった。

(騎士様はこんなにも純粋に親切にしてくださるのに、私ったら変なことばっかり考えてる……いつの間にこんな子になったのかしら。おばあちゃんにも、本当に騎士だった勇敢なおじいちゃんにも顔向けできないわ)

 情けなさに落ち込んでいると、

「ほら、見えてきました」

 顔を上げると、目の前が光で満ち溢れている。
 木立の向こうに輝く、眩しいほどの黄金の草原。
 目の前には、傾いた太陽の光を浴びて、一面、眩しいほどの黄金の草原が広がっていた。

「わあ……すごいです……! 全部、金色……まるで天国みたい……綺麗ですね……」
「……貴女もとても美しいですよ」

 突然、囁かれた甘い言葉に、なんと反応したらいいのかも解らずに顔が真っ赤に染まる。

「そろそろ馬にも慣れてきたでしょうから、少し走らせましょう。泉はあの丘の向こうなので」

 そういうと騎士様は、馬の腹を軽くあぶみで蹴った。
 馬は少しずつ闊歩かっぽを早め、しだいにぐんぐんと加速していく。
 騎士様の胸がのしかかり、体が少し前傾まえだおしになる。
 あまりのスピードに初めは恐ろしかったが、慣れてくると風を切っていく感じがとても気持ちよかった。

「どうですか、速度を落とした方が良ければそうしましょう。急いでいるわけでもないので」
「びっくりしましたが、楽しいです……! 馬ってこんなに速く走るんですね。この子も楽しそうです」
「ハハハ、その通りです。主人あるじが楽しいと馬にも伝わるものですから。それにこいつは姉から貰った馬で、とても賢いですし」
「まぁ……騎士様には、お姉様がいらっしゃるのですね」

 ふとエリーの事を思い出したが、出会ったばかりなのに家族の事をあれこれと聞くわけにはいかなかった。

「随分と前に異国に嫁ぎましたけど。我が家は僕以外、とても優秀なもので……家にいても僕は肩身が狭いのです」
「ふふ、きょうだいがいるとそういう悩みもあるのですね。でも、こんな素晴らしい馬を贈られるのですから、騎士様がとても愛されている証拠ですよ」

 そう答えると、なぜか腰に回された手が強くなる。

「……もうすぐ泉です。そこで少し休みましょう」
「あの森でしょうか? 本当にあっという間でしたね。とても速くて力強くて、格好良かったです。この子って男の子……」
ふと空気が湿ってきたような気がして、何気なく後ろを振り返る。
「大変……騎士様、向こうの空が曇ってきたみたいです」
「あぁ、本当だね。聖水で水浴びさせたあと、早めに発ったほうがよさそうだ」
「ええ……そう、ですね」

 内心、すぐにでも引き返した方が良いのではと思ったが、遠征帰りで馬が疲れているのかもしれない。
 一乙女が騎馬隊の副隊長に意見できるわけもなく、雨が降らないことを願うしかなかった。

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