The change, is unlike

葛城 惶

文字の大きさ
17 / 36
第二章 さらば愛しき日々

第17話 我愛香港~懐かしい街~

しおりを挟む
 翌朝、遅くに起きた俺がシャワーを浴びていると、ニコライが相変わらず不機嫌な顔をして呼びに来た。

「旦那さまがロビーでお待ちです。早くお支度を」

 あちらこちらに昨夜の名残の赤い痣が残っているのをニコライに見られるのはひどく恥ずかしかった。主ににて無表情なあいつは、俺が乱暴にタオルを放り投げ、ヤツの用意した服に身を包むまでじっと立って待っていた。

ーそれにしても.....! ー

「なぁ、もう少しまともな下着は無いのか?」

 相変わらず面積の少ない布地に、俺は堪らずニコライを振り返った。

「ありません」

 まぁ想像はついていたが、ー淫夫にはそれで充分だろうーとでも言いたげな侮蔑的な口調にはさすがに気持ちが萎んだ。確かに現状だけを見れば、俺はヤツに組み敷かれて犯られて悦んでいる淫乱な若造でしかない。その事実がなおさら俺を萎縮させた。

「そうかよ」

 俺はぞんざいに答えて、手早くシャツをひっ被り、下着とスラックスを身につけ、ドアに手を掛けた。

「そのまま、おいでになるんですか?」

「アイツが待ってるんだろう?」

「靴は.....?」

 ニコライの咎めるような目線に俺はあらためて素足だったことを思い出し、ヤツの差し出した靴下を履き、磨かれたホールカットの革靴に足を突っ込んだ。普段.....この身体に入る前から、こんなお上品な靴など履いたことが無い。     
 普段は靴底に鉄板を仕込んだブーツだったし、ボスのお供の時もシングルチップ、勿論鉄板入りの特注だった。
 柔らかい革靴の心もとない感触とミハイルの屋敷並みに足の沈む絨毯に閉口しながら、ニコライに付き添われて最上階から直通のエレベーターで、ロビーに降りた。

 ミハイルは何やら商談中だったようで、如何にも真面目そうな堅気そのものの紳士然とした男達と握手を交わしていた。
 ヤツは俺達に気付くと、傍らのスレンダーな金髪美人に二言三言、声をかけ、客を見送らせた。いわゆる秘書ってやつらしいが、ーあぁいうイイ女を抱けばいいだろう?ーと言ったら、公私混同はしない主義だと言われた。
 まぁヤツの見てくれと財力、権力があれば、身内に手など出さなくても寄ってくる奴はごまんといるだろう。

「さて、行こうか」

 ミハイルは俺の姿を見留めるとくぃ...と首を捻り、ー着いてこい...ーと顎で示した。

「何処へ?」

と肩を押されながら、俺が訊くと苦笑いしながら言った。

「今夜はパーティーだと言ったろう?ドレスコードという言葉くらい知っておきなさい」

 ヤツと俺を乗せた黒塗りが向かったのは、高級ブランドショップが建ち並ぶ一画だった。たまに、ボスのお供についてきたことはある。

ーお前も一人前なのだから....ー

とボスがスーツを仕立てくれたこともあった。

ーお前は体型が整っているから見栄えがするな。オフィスに来る時はスーツで来るようにー

と言われて、若干閉口したことを思い出した。



「降りなさい」

 ヤツの声に急かされて入った店内には客がおらず、おそらく先に手を回して人払いをしたのだろう。ヤツとニコライの目の前で下着姿になり、針子に採寸をされるのはいささか恥ずかしかったが、大まかな型紙は出来ていたらしく、手早に済んでほっとした。

「肩幅だけ直せばよろしいかと思いますので、夜までにはお持ちできます」

 慇懃に礼をする店主を後に俺達を乗せた車は郊外らしき場所に向かっていた。

「何処へ行くんだ?」

「少しドライブしようと思ってね」

 ヤツの車が向かったのは九龍砦塞.....のあった場所。今は全て取り壊されて公園になっている。俺は車を降り、辺りを見渡した。
 かつてここには何本もの細い路地が通り、砦塞の跡地を骨組みに何層もの粗末な家屋が組み立てられ、人が犇めき喧騒に満ちていた。路地裏で子供達が遊びた、老人達が囲碁を打ち、ゴロつきがたむろしていた。そう俺達のような.....。オヤジが事ある毎に懐かしそうに語っていた。だが、その活気も暗さもここには、もう無い。
 一面の草の海を風が渡っていくだけだ。俺の中にふいに淋しさがこみ上げてきた。淋しくなるのが嫌でここを引き払ってからは一度も訪れては来なかったのに.....。

「つわものどもが夢の跡......か」

 ぽん、とミハイルが俺の肩を叩いた。

「日本には確か、そういうハイクがあったな....もう行くぞ」

 俺は頷き、ミハイルの後に続いた。旅客機が轟音をたてて頭の上を掠めていった。なんとなくショボくれている俺を気づかってか、ミハイルがニコライに命じて屋台の饅頭と餅(ピン)を買わせ、車の中で食べた。

「あんたも、こういう物を食べるんだな...」

「初めてだが、悪くはないな」

 頬の端に餅(ピン)のタレを着けたヤツの横顔がおかしくて、俺はつい笑ってしまった。そして不機嫌そうなヤツの頬のタレを拭ってやった。ヤツは俺に軽いキスをして、

『悪いヤツめ......』

とロシア語で囁いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...