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第三章 変容〜美しきAssassin〜
第36話 始動~日本へ~
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ミハイルの訪日は、大企業のCEOらしく粛々と着々と進められた。
「お前のパスポートとビザだ」
ニコライから手渡されたそれを見て、俺は絶句した。いつの間に何処まで抱き込んだのかは知らないが、国籍から現住所までものの見事に捏造されていた。日系中国人...で、現住所はサンクトペテルブルク、職業は通訳......。
「とんだ国際派だな......。サンクトペテルブルクなんて行ったことないぞ」
呆れ果てる俺に、ミハイルが言った。
「趙と住んでいたことがあったろう。二十才の頃か?」
正直、俺はギョッとした。オヤジはどういう理由か、二年ばかりロシアにいた。サンクトペテルブルクの大学に短期留学とかいう名目で押し込まれて悲鳴を上げていた記憶がある。
「覚えてない......」
「そうか.....」
ミハイルは少しばかりガッカリしたような顔をした.....ような気がした。だが、それ以上に俺は心底ヤツが恐ろしくなった。
ーいったいこいつは何処まで知ってるんだ.....ー
半ば顔を引きつらせた俺に、ミハイルは自分の正規の会社の分厚い資料を突き付けて言った。
「お前には名目上、秘書兼通訳として同行してもらう。.....一応、頭に入れておけ」
「そんな....無茶だ。俺はそんなに賢くない」
資料のあまりの分厚さに青ざめる俺にヤツは白々しく言った。
「大丈夫だ。今のお前の脳は二十歳だからな。充分詰め込める」
唖然とする俺をよそに、出発までの一月余りは、殺しのトレーニングとビジネスレッスンと...ヤツの性欲の解消の相手とで瞬く間に過ぎた。
「どうした、顔色が悪いぞ」
ヤツは、ファーストクラスのシートにゆったりと身体を預け、ちら.....と俺を見た。
ー誰のせいだと思ってるんだ....ー
毎晩に近いくらい抱かれて、朝に目が覚めるとニコライのレクチャー付きで会社の知識を叩き込まれ、朝食後にはトレーニングが始まる。夕食が済めば、マナーレッスンとか言われて、慣れもしない言葉遣いを強要され......
ー色仕掛けも必要だー
とかいう訳のわからない理由で途中から方向性がネジ曲がるし...。おかげで、前日までほとんど寝る間も無かった。
「エコノミーしか乗ったことが無いから、収まりが悪いだけだ」
不貞腐れてシートにぐったりと身を投げ出す俺に、ヤツはくくっ.....と笑った。アエロフロートのチャーター機での渡航ということでキャビンアテンダントもいるが、俺はロシア美人が笑顔で勧めるコーヒーも断り、そっぽを向いた。
正規のビジネスでの出張だから....ということで国営会社の便をチャーターするところがヤツのビジネスマンらしいところではある。この表と裏の使い分けはなかなか見事なものだと思うが、しばらくぶりに着たスーツは窮屈で俺はかなり閉口した。俺は早々にネクタイを緩めたが、ヤツは寸分たりとも隙の無い様相で書類に目を通していた。
ーそう言えば.....ー
サンクトペテルブルクでオヤジに大学に突っ込まれた時、とにかくロシア語が難しくて、俺はノイローゼになりそうだった。
毎日が憂鬱で、図書館に隠っていた俺に声を掛けてきた男がいた。長身でひょろっとした愛想のいい奴で、優しい目をしていた。俺が日本人だと言うと、
ー日本は憧れなんだー
と眩しいような笑顔で笑った。
奴はカフェに誘ってくれて、それから彼の下宿でロシア語を教わり、俺は日本語を教えた。
俺が香港に帰る時、彼は少し涙ぐんで、
ー必ず会いに行くー
と言っていた。そこから先、俺は日本に帰ることはなく、彼と会うことも無かった。
俺は日本人であることを捨てて香港マフィアになり、再び日本の土を踏んだのは、あの時...こいつに追われて、追い詰められて身を隠した時だった。
俺はふ.....とヤツを見た。
ー彼もミーシャという名前だったような気がする.....ー
「えらい違いだ...」
俺は目を閉じて、とりあえず眠ることにした。
「お前のパスポートとビザだ」
ニコライから手渡されたそれを見て、俺は絶句した。いつの間に何処まで抱き込んだのかは知らないが、国籍から現住所までものの見事に捏造されていた。日系中国人...で、現住所はサンクトペテルブルク、職業は通訳......。
「とんだ国際派だな......。サンクトペテルブルクなんて行ったことないぞ」
呆れ果てる俺に、ミハイルが言った。
「趙と住んでいたことがあったろう。二十才の頃か?」
正直、俺はギョッとした。オヤジはどういう理由か、二年ばかりロシアにいた。サンクトペテルブルクの大学に短期留学とかいう名目で押し込まれて悲鳴を上げていた記憶がある。
「覚えてない......」
「そうか.....」
ミハイルは少しばかりガッカリしたような顔をした.....ような気がした。だが、それ以上に俺は心底ヤツが恐ろしくなった。
ーいったいこいつは何処まで知ってるんだ.....ー
半ば顔を引きつらせた俺に、ミハイルは自分の正規の会社の分厚い資料を突き付けて言った。
「お前には名目上、秘書兼通訳として同行してもらう。.....一応、頭に入れておけ」
「そんな....無茶だ。俺はそんなに賢くない」
資料のあまりの分厚さに青ざめる俺にヤツは白々しく言った。
「大丈夫だ。今のお前の脳は二十歳だからな。充分詰め込める」
唖然とする俺をよそに、出発までの一月余りは、殺しのトレーニングとビジネスレッスンと...ヤツの性欲の解消の相手とで瞬く間に過ぎた。
「どうした、顔色が悪いぞ」
ヤツは、ファーストクラスのシートにゆったりと身体を預け、ちら.....と俺を見た。
ー誰のせいだと思ってるんだ....ー
毎晩に近いくらい抱かれて、朝に目が覚めるとニコライのレクチャー付きで会社の知識を叩き込まれ、朝食後にはトレーニングが始まる。夕食が済めば、マナーレッスンとか言われて、慣れもしない言葉遣いを強要され......
ー色仕掛けも必要だー
とかいう訳のわからない理由で途中から方向性がネジ曲がるし...。おかげで、前日までほとんど寝る間も無かった。
「エコノミーしか乗ったことが無いから、収まりが悪いだけだ」
不貞腐れてシートにぐったりと身を投げ出す俺に、ヤツはくくっ.....と笑った。アエロフロートのチャーター機での渡航ということでキャビンアテンダントもいるが、俺はロシア美人が笑顔で勧めるコーヒーも断り、そっぽを向いた。
正規のビジネスでの出張だから....ということで国営会社の便をチャーターするところがヤツのビジネスマンらしいところではある。この表と裏の使い分けはなかなか見事なものだと思うが、しばらくぶりに着たスーツは窮屈で俺はかなり閉口した。俺は早々にネクタイを緩めたが、ヤツは寸分たりとも隙の無い様相で書類に目を通していた。
ーそう言えば.....ー
サンクトペテルブルクでオヤジに大学に突っ込まれた時、とにかくロシア語が難しくて、俺はノイローゼになりそうだった。
毎日が憂鬱で、図書館に隠っていた俺に声を掛けてきた男がいた。長身でひょろっとした愛想のいい奴で、優しい目をしていた。俺が日本人だと言うと、
ー日本は憧れなんだー
と眩しいような笑顔で笑った。
奴はカフェに誘ってくれて、それから彼の下宿でロシア語を教わり、俺は日本語を教えた。
俺が香港に帰る時、彼は少し涙ぐんで、
ー必ず会いに行くー
と言っていた。そこから先、俺は日本に帰ることはなく、彼と会うことも無かった。
俺は日本人であることを捨てて香港マフィアになり、再び日本の土を踏んだのは、あの時...こいつに追われて、追い詰められて身を隠した時だった。
俺はふ.....とヤツを見た。
ー彼もミーシャという名前だったような気がする.....ー
「えらい違いだ...」
俺は目を閉じて、とりあえず眠ることにした。
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