みだれそめにし~私見 蘆名盛隆伝~

葛城 惶

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十三

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 翌、天正六年(1578年)八月、正式に白河結城氏・田村氏と佐竹氏が和睦し、佐竹義重の次男、喝食丸が白河城に入ったとの報せが会津黒川城にもたらされた。
 昨年末の停戦合意からかなりの時を費やしたのは、田村氏がなかなか承諾に応じず、結城氏を揺さぶっていた節がある。
 が、この曖昧な状況を一気に動かしたのは誰もが予想だにしない事態だった。


 年が明けて、まだ会津が深い雪の中に埋もれていた頃、それは起こった。

 越後の雄、上杉謙信が急死したのだ。

 突然の死去であったため、後継者の指名が成されておらず、二人の養子の間で跡目相続の争いが起こった。世に言う御館おたての乱である。

 蘆名盛氏は当然のことながら、盟約を結んでいた北条氏からの養子、上杉景虎うえすぎかげとらの勢力の支援を命じた。

 蘆名氏からは家臣の小田切盛昭が、本庄秀綱らと共に景勝方の菅名綱輔を牽制し、越後各地でこのような睨み合いが続いていた。
 3月末から4月にかけて実際に越後へ侵入していた。
 同様に彦姫の実家である伊達家も北条氏との同盟関係にあり、景虎方であった。

 一方、佐竹義重は同盟関係にあった武田勝頼に乞われて、謙信の甥、上杉景勝うえすぎかげかつを支援した。(上杉景勝の正室、菊姫は武田勝頼の妹であった)

 しかし、この乱の結果、蘆名盛氏や周辺大名の支援した景虎は敗れ、景勝が上杉家当主の座に着いた。
 これは盛氏や景虎を支援した周辺大名にとって大きな打撃だった。本来の関東管領であった上杉憲政までもが討たれた事態に蘆名の家中も揺れた。
 上杉氏だけでなく、北条氏の勢力の低下を如実に示し、また佐竹義重の力量を誇示する結果となったからだ。

 このことから、田村氏・結城氏もこぞって佐竹氏の提案に同意したのだ。

 盛隆は、実権を握る義父、盛氏の指示に従いながら、内心、佐竹義重という男の力量に改めて感服していた。
 そして、この度の乱を収めた上杉景勝の片腕と言われる男に興味を持った。名を樋口兼続ー後の直江兼続は、盛隆よりほんのひとつ年上の若者だった。

ー私もあのような部下が欲しいー

 古くからの一門衆で固められた蘆名の家の中では、盛隆はどこまでも『人質あがりの余所者』であり、また蘆名に従属はしているものの、古くから土地に結びついた国衆の叛乱も絶えなかった。


 盛隆の義父、盛氏は乱の収まった後も、景勝に不満を持った揚北衆の新発田重家しばたしげいえが叛旗を翻した際に、越後国境の津川に所領を持つ金上盛備に新発田支援の出陣を命じたが、この乱も失敗に終わった。

ー御屋形さまもお年を召されたか...ー

 そうとは口に出さないまでも、蘆名の家中には動揺が拡がっていた。かと言って、余所者の盛隆が信頼を得られるわけでは無かった。非力な父は度々、盛隆を通して蘆名家の助力を乞い、家中では、

ーご実家の二階堂ばかりを支援なさるー

と陰で非難する者も少なくなかった。
 それと知っていても、力ない父やまだ元服にも至らぬ弟を案じる母の願いを無下にはできなかった。

 盛隆は倦んでいた。そして、無性にあの益荒雄ますらおに会いたいと思った。



 佐竹氏から和睦の申し入れがあったのは、その異様に暑い夏の終わりのことだった。
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