みだれそめにし~私見 蘆名盛隆伝~

葛城 惶

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二十

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 御代田の戦の後、佐竹義重はその足で会津黒川城を訪れた。南奥同盟のいわば顔見せのようなものだったが、その偉容に蘆名の将兵は改めて身震いをした。長柄の槍に鉄砲、何より大将、佐竹義重の威圧は凄まじかった。人に知られた毛虫の兜に黒胴の甲冑、腰に差した八文字長義で馬上の北条の将を真っ二つにしたという猛将だ。
 堂々たる体躯に迸る気は蘆名の将兵を完全に圧倒していた。

「よう参られました」

 戦勝を見届け、一足先に城に戻っていた金上盛備は急ぎ饗応の支度を整えさせ、常陸の将兵を丁寧に迎えた。
 幼い姫を連れた正室の彦姫も顔を見せた。

『殿をお助けくださり、ありがとうございました』

 十歳ほど年上の夫人は控え目に微笑みながら言った。

『佐竹様を訪問されてから、殿は優しゅう、穏やかになられました。......滅多にお見えにならなかった私のもとにお土産をお持ちになって常陸の国の話を沢山してくださいました』

 この夫人と盛隆は不仲だったわけではない。歳の差はあったが彦姫自身は大人しい穏やかな人柄で盛興の妻であった時も何かと気にかけてくれていた。
 寝所への訪ないがあまり無かったのは、亡き盛興への遠慮と盛氏の視線を気にしてのことだった。
 そして、盛隆は常陸から帰って彦姫に初めて子が欲しくなったと言ったという。

『今までは、ご自身の子などあっても不幸になるだけだ、と仰っていたのが......』

嬉しそうに打ち明ける夫人の言葉に義重はふと胸騒ぎを覚えた。

『ご自身に何かあっても、きっと常陸介さまが守ってくださるから......と』

 傍らに座す盛隆の表情は如何にも楽しげではあったが、同席する家臣達の笑みの白々しさが気にかかっていた。盛隆がそれに気付かぬはずはない。気づいていて見ぬ振りをしているのだ、と義重は思った。

ー平四郎どのはこうまで孤独なのか......ー

 翌日、常陸より帰って急ぎ作らせたという芦ノ牧の隠れ屋敷で二人きりになった時、義重がその事に触れると盛隆は寂しげに笑って言った。

「もう.....慣れました」

 自分は人質あがりの養子ゆえ致し方の無いことなのだ......と。

 その夜、二人は激しく求め合った。底の無い孤独の闇に、聞く者の無い慟哭の底に深く沈んでいこうとする魂を必死で繋ぎ止めるように掻き抱き、すがり付き、互いの熱を分かち合った。

ー独りではない。そなたは独りではないのだー

 言葉にならないその叫びを微笑み受け止める黒曜の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。


 義重は言い知れぬ不安を抱えながら会津を後にした。あの床の中で、盛隆は小さくわらいながら囁いた。

『ずっと、あなた様の懐の中にいれたら良いのに.....』

 それはひどく哀しげで、義重はその身を強く抱きしめることしかできなかった。

 振り返った会津の空には今にも泣き出しそうな雲が重く垂れ込めていた。
 
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