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二十二
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翌、天正十年(1582年)は中央での政変が相次いだ。
三月に、佐竹氏が取り持った盟約(甲与同盟)を無視して、織田信長が武田領に攻め入り、破れた勝頼は天目山で自害、武田氏は滅亡した。
その信長も京に滞在中の五月、家臣の明智光秀に襲撃を受け、宿所にしていた本能寺でその命を散らした。同時に嫡男信忠も宿所にしていた二条城を襲われ、安土城に逃れたが、追撃に遇い城もろとも滅した。
これにより、織田家は中核を失い、その跡目を巡って家臣達が鋭く対立した。
東国には対上杉討伐の前進として目付として滝川一益が駐留していたが、その去就が微妙なところとなっていた。
その緊張を受けて奥州にも緊迫した空気が流れていた。
そのような折に会津黒川城ではある事態が発生していた。
先に初陣を拒まれた松本行輔が同じ家中の栗村盛胤と懇ろになっているという風聞がたったのだ。
盛隆とすれば、家臣の中で誰が誰と昵懇になろうが、それ自体は関心の及ぶところではなかった。
しかし、問題はあった。
見えざるところに由々しき問題があった。栗村盛胤は父親の新国貞通とともに上杉氏と通じている疑いがあったのだ。
行輔は父の跡を受けて松本家を継いだ。代々の宿老である松本家は蘆名の重鎮であり、行輔も若いながら家中でも重要な職にある。盛隆は行輔から栗村を通して上杉に家中の情報が漏れるのを恐れた。
尤も、この情報をもたらしたのが、同じ宿老である金上盛備であった事から考えれば、蘆名家中において力のあった松本家が再び勢力を得ることを危惧しての思惑もあったであろう。
ともあれ、中央で織田家が瓦解した状態の今、上杉氏が再び勢力を盛り返し会津に侵攻してくる危惧は拭えなかった。
盛隆は意を決して松本行輔の役目を解き、知行を没収した。これは更に彼の恨みを募らせることになるのだが、家中ではさしたる反対は出なかった。上杉の侵攻は蘆名家中にとって最も憂慮される事態だったからだ。
有り体に言えば、蘆名家中は伊達氏に近しい者と佐竹氏に親しくある者との水面下の対立はあるものの、上杉の介入に関しては一致して警戒されていた。
その頃、ひとりの少年が二本松から蘆名に奉公に入っていた。家柄の良い家の出だが、早くに両親を亡くしたという少年は品良く折り目正しかったが、寂しげな昏い目をしていた。盛隆は小姓として召し上げ、傍に置いて可愛いがった。過去の自分を見るような気がしたからだ。
少年の名は大庭三左衛門といった。
三月に、佐竹氏が取り持った盟約(甲与同盟)を無視して、織田信長が武田領に攻め入り、破れた勝頼は天目山で自害、武田氏は滅亡した。
その信長も京に滞在中の五月、家臣の明智光秀に襲撃を受け、宿所にしていた本能寺でその命を散らした。同時に嫡男信忠も宿所にしていた二条城を襲われ、安土城に逃れたが、追撃に遇い城もろとも滅した。
これにより、織田家は中核を失い、その跡目を巡って家臣達が鋭く対立した。
東国には対上杉討伐の前進として目付として滝川一益が駐留していたが、その去就が微妙なところとなっていた。
その緊張を受けて奥州にも緊迫した空気が流れていた。
そのような折に会津黒川城ではある事態が発生していた。
先に初陣を拒まれた松本行輔が同じ家中の栗村盛胤と懇ろになっているという風聞がたったのだ。
盛隆とすれば、家臣の中で誰が誰と昵懇になろうが、それ自体は関心の及ぶところではなかった。
しかし、問題はあった。
見えざるところに由々しき問題があった。栗村盛胤は父親の新国貞通とともに上杉氏と通じている疑いがあったのだ。
行輔は父の跡を受けて松本家を継いだ。代々の宿老である松本家は蘆名の重鎮であり、行輔も若いながら家中でも重要な職にある。盛隆は行輔から栗村を通して上杉に家中の情報が漏れるのを恐れた。
尤も、この情報をもたらしたのが、同じ宿老である金上盛備であった事から考えれば、蘆名家中において力のあった松本家が再び勢力を得ることを危惧しての思惑もあったであろう。
ともあれ、中央で織田家が瓦解した状態の今、上杉氏が再び勢力を盛り返し会津に侵攻してくる危惧は拭えなかった。
盛隆は意を決して松本行輔の役目を解き、知行を没収した。これは更に彼の恨みを募らせることになるのだが、家中ではさしたる反対は出なかった。上杉の侵攻は蘆名家中にとって最も憂慮される事態だったからだ。
有り体に言えば、蘆名家中は伊達氏に近しい者と佐竹氏に親しくある者との水面下の対立はあるものの、上杉の介入に関しては一致して警戒されていた。
その頃、ひとりの少年が二本松から蘆名に奉公に入っていた。家柄の良い家の出だが、早くに両親を亡くしたという少年は品良く折り目正しかったが、寂しげな昏い目をしていた。盛隆は小姓として召し上げ、傍に置いて可愛いがった。過去の自分を見るような気がしたからだ。
少年の名は大庭三左衛門といった。
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