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二十五
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その朝は、久しぶりに涼しげな風が吹いていた。
盛隆は義重から贈られた鷹に餌をやるために庭先に降りていた。
『太郎丸』と名付けたその鷹を盛隆は殊のほか可愛いがっていた。
ふっと縁側に人の気配がたった。
「誰じゃ?」
「三左衛門でございます」
冷えた声だった。
その声が唐突に問うた。
「殿は、身も心も、この国もあのお方に捧げ尽くすおつもりですか?」
盛隆は瞬時に理解した。
ーこ奴もであったか......ー
少しだけ振り向き、小さく微笑んだ。
ーそのとおりだー
背中に焼けるような痛みが走った。
斬られた、と思った。だが、盛隆の心は不思議に穏やかだった。
ーこれで、よいー
盛隆は薄れていく意識の中で、人々がざわめく声を遠くに聞いた。やがてそれも薄れ、何も聞こえなくなった。
彼は眼裏の薄れゆく面影にゆっくりと手を伸ばし、そして動かなくなった。
ー太郎どの......ー
天正十二年十月六日、
蘆名盛隆、黒川城内にて横死。
享年二十三歳の若さだった。
ーーーーーーーーーーー
常陸の国、太田城の佐竹義重のもとに、蘆名の当主が急逝した、という報せがもたらされたのは、その日の夜半過ぎだった。
義重は自室にて既に床についていたが、危急と判断した近習が板戸の向こうから、端的に報告を入れた。
蘆名盛隆殿が、家臣の凶刃に倒れた......と。
義重は、小さくーそうか......ーとだけ答えた。
枕元には、幻が座っていた。会津の地で城の上座に座っているはずの青年の幻は、青ざめた顔で哀しげに微笑んで、義重を見つめていた。
「月には帰らぬ、と約束したではないか」
義重は絞り出すように幻に囁いた。
幻はこっくりと頷き、義重の傍らの違い棚を指差した。そこには、いつの間にか小さな兎の置物があった。
ーずっと、あなた様のお側にいとうございますー
そう言って幻は消えた。
青年は、彼の想い人は唐突に世を去った。
深い孤独を抱えたまま、若い命を散らした。
その悲運に義重は静かに涙した。
そして、数日後、米沢城で伊達輝宗は、嫡男、政宗に家督を譲る旨を家臣に宣言した。
奥州は大きく変わろうとしていた。
盛隆は義重から贈られた鷹に餌をやるために庭先に降りていた。
『太郎丸』と名付けたその鷹を盛隆は殊のほか可愛いがっていた。
ふっと縁側に人の気配がたった。
「誰じゃ?」
「三左衛門でございます」
冷えた声だった。
その声が唐突に問うた。
「殿は、身も心も、この国もあのお方に捧げ尽くすおつもりですか?」
盛隆は瞬時に理解した。
ーこ奴もであったか......ー
少しだけ振り向き、小さく微笑んだ。
ーそのとおりだー
背中に焼けるような痛みが走った。
斬られた、と思った。だが、盛隆の心は不思議に穏やかだった。
ーこれで、よいー
盛隆は薄れていく意識の中で、人々がざわめく声を遠くに聞いた。やがてそれも薄れ、何も聞こえなくなった。
彼は眼裏の薄れゆく面影にゆっくりと手を伸ばし、そして動かなくなった。
ー太郎どの......ー
天正十二年十月六日、
蘆名盛隆、黒川城内にて横死。
享年二十三歳の若さだった。
ーーーーーーーーーーー
常陸の国、太田城の佐竹義重のもとに、蘆名の当主が急逝した、という報せがもたらされたのは、その日の夜半過ぎだった。
義重は自室にて既に床についていたが、危急と判断した近習が板戸の向こうから、端的に報告を入れた。
蘆名盛隆殿が、家臣の凶刃に倒れた......と。
義重は、小さくーそうか......ーとだけ答えた。
枕元には、幻が座っていた。会津の地で城の上座に座っているはずの青年の幻は、青ざめた顔で哀しげに微笑んで、義重を見つめていた。
「月には帰らぬ、と約束したではないか」
義重は絞り出すように幻に囁いた。
幻はこっくりと頷き、義重の傍らの違い棚を指差した。そこには、いつの間にか小さな兎の置物があった。
ーずっと、あなた様のお側にいとうございますー
そう言って幻は消えた。
青年は、彼の想い人は唐突に世を去った。
深い孤独を抱えたまま、若い命を散らした。
その悲運に義重は静かに涙した。
そして、数日後、米沢城で伊達輝宗は、嫡男、政宗に家督を譲る旨を家臣に宣言した。
奥州は大きく変わろうとしていた。
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