不良少女×不自由少女

柊楓

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1.不幸な少女

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 桜が舞う春、新しい生活が始まる季節。
入学式,新入社員,進級,進学,
どれも私には当てはまらないものばかり。
この季節が1番嫌い。

「さーちゃん、朝ごはん持ってきたわよ」

穏やかな表情の母が扉を開け話しかける。

「お母さん、ありがとう。そこの机に置いといてくれる?後でゆっくり食べるから」

冷めきった声で返す。
母はコクリと頷き、机に朝食を置いた。
そして、近くにあった椅子に腰をおろし私に話しかける。

「最近、さーちゃん暗い気がするのだけど…何か嫌なことあった?」

心配そうな表情を浮かべ質問をしてくる。

「別に、何も無いよ。心配しないで、いつもの事だし」

窓の外を覗きながらそう返す。

「そう、ならいいけど…嫌なことあったならすぐ言いなさいね」

私にそう告げると、母は椅子から立ち上がり静かに私の部屋を出ていった。

 私は、生まれつき体が悪い。
と言っても小学校の頃はまだマシな方で普通に学校にも通えていた。
 中学校の頃から急に悪化し、ずっとベットにいる寝たきり状態になってしまった。
 今じゃ、まともに学校に通えないため家庭教師を雇って勉強をしている。
 多分、私の取り柄って家がお金持ちってことしかないと思う。
 よく、お金があれば幸せに慣れるとは言うがそれは全くもって違うとしみじみ思う。
 だって、現にお金のある私は24時間ずっとベットに張り付け状態なんですもの。

「現役JKというのに、青春どころか学校にすら通えてないって、本当に私は不幸者だよ」

ぽつりと呟いたと同時に涙頬をつたる。
 正直、旅行とか遊びに行くとかそういうの全然したことないし、友達もいない。
 小さい頃は、少しはいたけど自然とその中は消滅していった。
 
「さーちゃん、先生いらしたわよ」

あぁ、もうそんな時間か。
 ぼーっとしていたところに、母が扉越しに話しかけた。

「分かった、入ってくださいって伝えて」

扉から足音が遠のいていくのが解った。
 ガチャ
扉が開き、笑顔を浮かべる先生の姿が現れた。

「こんにちは、紗夜さん。今日は何を勉強する?」

私のベット横に座り、テキストを並べだす。

「数学がいいです。あ、その前にこの前の問題解けたので採点お願いします」

ベット横の棚からプリントを出し、先生に渡す。
 先生は男性で、とても整った顔立ちをしている。
 スラッと長い指で赤ペンを持ち、プリントの丸つけを始める。
 丸つけの音だけが部屋に響き、私はまた外を見つめる。

「すごい、今回も満点。さすがだね」

先生がそう放ち、私にプリントを返す。
 そして、今日の分の学習を始める。
 4時間という学校にいる時間に比べれば、相当短い時間で、分かりやすく丁寧に私の学習が始まった。

「よし、じゃあ今日はここまで。お疲れ様」

テキストを片付けて、先生が私の部屋を出る。

「紗夜さん、さよなら」
「さようなら」

挨拶をして、私の1日がおわる。
 これが、不幸者の私が家族以外と喋る時間。
 そして、私は眠る。なぜなら、他にやることがないのだから。


                           1.「不幸な少女」  終わり
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