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これが恋?
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「佐吉さん、お疲れさまです」
ある時は陰陽寮の前で。
「今日はちょっと暖かいですね」
またある時は川辺で。
「これ見てください! 美味しそうじゃないですか?」
そして、またある時は朝市の通りで。
一之助は俺が宿直から帰っていると、どこからともなく現れて家まで送ってくれるようになった。
さながら上級貴族が護衛を引き連れているようで気が引ける。
「一之助さん、お仕事ありますよね。体が心配ですので、私なんかのために時間を使うことありませんよ」
「あっあの、迷惑ですか? 好きでやっていても駄目ですか?」
そのしょんぼりと落ち込む姿を見て、俺は頭を抱えた。
だってなんだか可愛いんだもん!
そんな顔見たら断る方が申し訳なくなる!
「迷惑じゃないです! でも、本当に体が心配で……」
「そうですか! なら……」
「これからも俺に付き合ってくれたら嬉しいです。でも、本当に無理だけはしないでくださいね!」
「はい!」
そんなこんなで宿直明けは一之助と会うようになった。
一之助は放免だけあって人の話を聞くのが上手い。
俺はついつい話し過ぎてしまうんだけど、彼は楽しそうに相槌を打ってくれる。
陰陽術についてもそれなりの知識を持っていて話が弾んだ。
放免は色んな人の話を聞くから、自然と知識が増えていくらしい。
放免の仕事は危険だ。
犯人から抵抗を受ければ戦わなければならない。
その上、動機なんかを聞き出す話術も必要だ。
俺といえば、星を観察して仲間と一緒に確認し合い、世の流れを読んでいく。
星占術は好きだから苦にならない。
たまに時間外の依頼で我儘な貴族に当たると面倒だけど、そんな奴の話は聞き流している。
それに比べたら一之助は努力の塊で、尊敬すべき人だ。
本当に凄い。
一之助といるととっても楽しくて、家に帰るのが惜しくなる。
だから、俺はわざと歩調を緩めたり、用もないのに朝市に寄るようになった。
「佐吉さん、これ美味しいよ」
「ありがとうございます。……何これ! この柿、すっごく甘い!」
「干し方にコツがあるらしいですよ。俺もここの店の、好きです」
朝市は一之助の方が詳しくて、俺はいつも一之助が選んだ干し柿や餅を食べて歩いた。
宿直明けの甘味は最高だ。
そのせいでちょっとばかし腹に肉が付いたけれど、その分体を鍛える時間を増やしたから大丈夫だと思いたい。
一之助と他愛のない話をして、朝市で食べ歩きして帰る。
何の変哲もない日々なのに、どうしてかなんでも輝いているような気がした。
五日に一度の宿直が待ち遠しいなんて、変だよね。
その気持ちに気付いたのは、ちょうど星読みをしている時だった。
京の都からでも美しい星々が観察できる。
それを眺めてはため息を吐いていると、仲間たちから揶揄われた。
「佐吉ぃ。さては恋煩いだな?」
「ほあ⁉︎ 恋煩い⁉︎」
「お、やっとか?」
「お前、女っ気なかったからなぁ」
そして、春が来るといいなと肩を叩かれて手元から暦を引き抜かれ、代わりに和歌集を押し付けられた。
それは恋愛の和歌を集めたもので、よく先輩たちが読んでいたものだ。
え……?
俺、恋してたの?
誰に?
思い至るのは一之助しかいない。
寝ても覚めても一之助のことばかり考えていた。
別れたばかりなのに早く会いたいと胸を焦がし、次に会った時は何を話そうか、どこに行こうかとグルグル考える。
これが、恋。
自覚した瞬間、顔から火が出そうだった。
俺、変なこと言ったりしたりしてなかったかな。
それで嫌われてたりしないかな?
それまでの言動を思い返しては頭を抱え、一之助の顔や声を思い出してはジタバタと転げ回って悶えた。
これからどうしよう。
とりあえず和歌を送る?
そうして、和歌集と睨めっこする日々だった。
恋とは不思議なもので、好きと自覚してから一之助と上手く話せなくなった。
好きなのに、顔が見たいのに、直視できなくて変な態度を取ってしまう。
その度に一之助は困った顔をした。
違う、そうじゃない。
困らせるつもりじゃないんだ。
ただ恥ずかしいだけ。
だから、嫌いにならないで。
好きという一言が言い出せず、季節は夏へと移ろう。
ある時は陰陽寮の前で。
「今日はちょっと暖かいですね」
またある時は川辺で。
「これ見てください! 美味しそうじゃないですか?」
そして、またある時は朝市の通りで。
一之助は俺が宿直から帰っていると、どこからともなく現れて家まで送ってくれるようになった。
さながら上級貴族が護衛を引き連れているようで気が引ける。
「一之助さん、お仕事ありますよね。体が心配ですので、私なんかのために時間を使うことありませんよ」
「あっあの、迷惑ですか? 好きでやっていても駄目ですか?」
そのしょんぼりと落ち込む姿を見て、俺は頭を抱えた。
だってなんだか可愛いんだもん!
そんな顔見たら断る方が申し訳なくなる!
「迷惑じゃないです! でも、本当に体が心配で……」
「そうですか! なら……」
「これからも俺に付き合ってくれたら嬉しいです。でも、本当に無理だけはしないでくださいね!」
「はい!」
そんなこんなで宿直明けは一之助と会うようになった。
一之助は放免だけあって人の話を聞くのが上手い。
俺はついつい話し過ぎてしまうんだけど、彼は楽しそうに相槌を打ってくれる。
陰陽術についてもそれなりの知識を持っていて話が弾んだ。
放免は色んな人の話を聞くから、自然と知識が増えていくらしい。
放免の仕事は危険だ。
犯人から抵抗を受ければ戦わなければならない。
その上、動機なんかを聞き出す話術も必要だ。
俺といえば、星を観察して仲間と一緒に確認し合い、世の流れを読んでいく。
星占術は好きだから苦にならない。
たまに時間外の依頼で我儘な貴族に当たると面倒だけど、そんな奴の話は聞き流している。
それに比べたら一之助は努力の塊で、尊敬すべき人だ。
本当に凄い。
一之助といるととっても楽しくて、家に帰るのが惜しくなる。
だから、俺はわざと歩調を緩めたり、用もないのに朝市に寄るようになった。
「佐吉さん、これ美味しいよ」
「ありがとうございます。……何これ! この柿、すっごく甘い!」
「干し方にコツがあるらしいですよ。俺もここの店の、好きです」
朝市は一之助の方が詳しくて、俺はいつも一之助が選んだ干し柿や餅を食べて歩いた。
宿直明けの甘味は最高だ。
そのせいでちょっとばかし腹に肉が付いたけれど、その分体を鍛える時間を増やしたから大丈夫だと思いたい。
一之助と他愛のない話をして、朝市で食べ歩きして帰る。
何の変哲もない日々なのに、どうしてかなんでも輝いているような気がした。
五日に一度の宿直が待ち遠しいなんて、変だよね。
その気持ちに気付いたのは、ちょうど星読みをしている時だった。
京の都からでも美しい星々が観察できる。
それを眺めてはため息を吐いていると、仲間たちから揶揄われた。
「佐吉ぃ。さては恋煩いだな?」
「ほあ⁉︎ 恋煩い⁉︎」
「お、やっとか?」
「お前、女っ気なかったからなぁ」
そして、春が来るといいなと肩を叩かれて手元から暦を引き抜かれ、代わりに和歌集を押し付けられた。
それは恋愛の和歌を集めたもので、よく先輩たちが読んでいたものだ。
え……?
俺、恋してたの?
誰に?
思い至るのは一之助しかいない。
寝ても覚めても一之助のことばかり考えていた。
別れたばかりなのに早く会いたいと胸を焦がし、次に会った時は何を話そうか、どこに行こうかとグルグル考える。
これが、恋。
自覚した瞬間、顔から火が出そうだった。
俺、変なこと言ったりしたりしてなかったかな。
それで嫌われてたりしないかな?
それまでの言動を思い返しては頭を抱え、一之助の顔や声を思い出してはジタバタと転げ回って悶えた。
これからどうしよう。
とりあえず和歌を送る?
そうして、和歌集と睨めっこする日々だった。
恋とは不思議なもので、好きと自覚してから一之助と上手く話せなくなった。
好きなのに、顔が見たいのに、直視できなくて変な態度を取ってしまう。
その度に一之助は困った顔をした。
違う、そうじゃない。
困らせるつもりじゃないんだ。
ただ恥ずかしいだけ。
だから、嫌いにならないで。
好きという一言が言い出せず、季節は夏へと移ろう。
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