対の翼は離れない

永川さき

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最高の相棒

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 夏央が後ろ手に手を振ってドアを閉めると、孝一が笑いながら盛大にため息を吐いた。

「相変わらず騒がしいやつだな」
「小学校の時からそうだよ。俺はもう慣れた」
「あいつと話す時は耳栓がいる」
「なにそれ」

 善一は夏央の雑な扱いにぶはっと吹き出した。
 確かに、慣れていない人にとっては喧しい存在だ。
 夏央は歩くスピーカーだ。
 黙っているのは授業中とバドミントンのラリー中で、それ以外はずっと喋り続けている。
 それでも友人が離れていかないのは話が上手いからだ。
 大人になって営業職に就いたら成績トップは間違いないと確信している。
  
「なあ」

 孝一は善一から離れ、着替えの練習着を頭から被る。
 裾を下ろすと、彼の立派な背筋と腹筋が隠れた。
 ジャンピングスマッシュをした時にちらりと見えるそこに女子の熱い視線が集まっているのを善一は知っていた。

 孝一は善一の唯一無二の相棒だ。
 それに独占欲を拗らせて嫉妬しているのを、孝一は知る由もない。
 
「んー?」
「孝一は、またシングルやりたい?」

 夏央とシャトルの打ち合いをしている孝一はどこか楽しそうだった。
 ファイナルセットでデュースに持ち込み、ネット際の攻防で夏央に負けた時は悔しそうだった。
 今日の朝まで駄々を捏ねていたし夏央にも宣言はしていたのの、やはりシングルをしたいのではないか。
 そう思うと一人残される不安が付き纏って離れなくなった。
 
「まさか。俺はずっと善一とダブルスやりたい。だから臨時でも他のやつとダブルス組むの断ったんだろ」

 善一が右手首を捻挫したのは今大会のエントリー直前だった。
 いつも通り練習していた時、不意に右手首に痛みが走った。
 嫌な予感がした善一は部活を早退し、その日のうちにスポーツ整形外科を受診した。
 軽い捻挫と診断されたが、手首を酷使するバドミントンの練習を続ければ悪化する。
 全国大会の枠をかけた県大会に出るのであれば、直近の市大会の出場は諦めてリハビリするように助言された。
 一回でも多く孝一とダブルスをやりたかったが、全国大会を掛けた県大会を無下にはできない。
 苦渋の決断で大会出場を断念すると、顧問から孝一に誰かとダブルスを組むように打診があった。
 だが、孝一は頑なにそれを拒否し、最終的にシングル枠でエントリーした。
 実はシングル枠も嫌だと孝一が駄々を捏ねたが、そこは善一が骨を折って説き伏せた。
 もう二度とあんな大変な思いはごめんだ。

「何? 善一こそシングルに戻りたくなった?」
「それこそ絶対にない。バドをやり続ける限り、俺のペアは孝一だけだよ」

 今回で思い知った。
 バドをする孝一を見るのは好きだ。
 サーブを受ける時に重心を低く落として構える姿も、しなやかな体がシャトルを追いかける猫科の獣のような様も、焦点を合わせるために天井に向かっ手を伸ばしているその指先も、教科書のように美しいラケットを振るフォームも、何もかもが善一を魅了する。
 でも、それを眺めているだけなのは嫌だった。
 善一は、孝一の隣で肩を並べて戦いたいのだ。

 体力トレーニングしか出来なかったこの二ヶ月、モヤモヤした言いようのない感情があった。
 それが何なのか、善一はやっと今日理解した。

「ふはっ……嬉しいな。俺もだ」

 善一が言葉少なに答えると、孝一は口元をにっと緩めた。
 同じ想いだとわかり、善一の不安はたちまち消えていった。
 
「来月の県大会、絶対に勝つよ」
「来週から練習いいんだろ? 調子が戻るようにみっちり練習に付き合ってやる」

 一日休めば、その遅れを取り戻すのに三日はかかるといわれている。
 走り込みや筋トレには参加していたが、ラケットを使った練習は全くしていない。
 県大会まであと一月と少し。
 それまでに元の状態に戻すのはかなり無理がある。
 それでも目指すは優勝だけだ。
『わんわんペア』の知名度は伊達じゃない。
 ここ最近の県大会は連続で優勝している。
 今回もその栄光をどのペアにも譲る気はなかった。
 
「よろしく。俺の相棒」
「おうよ」

 荷物を纏めた孝一に手を上げると、優しく手を重ねられてハイタッチを交わした。

 この時、善一はまさか孝一が生涯の相棒になるなんて想像すらしていなかった。
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