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21 体の変化
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嗅ぎ慣れない空気の匂いに目を開けると、見覚えのない景色が広がっていた。
ミルキーホワイトの天井。
夜空を彷彿とさせる紺青色のカーテン。
その隙間から弱い光が室内に差し込んでいる。
いつもより広い部屋と、見慣れない家具。
(ここ、どこだ⁉︎)
慌てて飛び起きたが、はたと我に返った。
「あ、そっか」
ここは王家の影たちが住む屋敷の中にある、昨日からライリーの部屋になった場所だ。
ユリウスに連れられ、初めて入った時と寸分変わらない景色を眺めて思い出した。
しかし、自分でこの部屋に戻ってきた記憶がない。
ライリーは目を眇め、昨晩のことを思い出す。
すると、記憶はするすると浮かび上がってきた。
ユリウスと共に風呂に入り、脱衣所に戻ると、彼に香油を塗ってもらったり、ドライヤーを掛けてもらったりしたのだ。
それからの記憶がないということは、その途中で寝てしまったということ。
(嘘だろ……?)
ライリーは孤児院にいた時から警戒心が強いと自負していた。
冒険者ギルドに出入りするようになってからは、ますますそれが顕著になったと思う。
それが、疲れていたとはいえ寝落ちしてしまうなんて……。
だがそれよりも、ユリウスにここまで運んでもらったことに動揺した。
あの時、ライリーはパンツしか穿いていなかったはずだ。
つまり、ユリウスに服を着せてもらった上で、ここまで運ばれたということ。
そんなこと、会って二日の相手にしてもらうことではない。
(やばいッ、恥ずかしい……! けど、早く謝らないと!)
ライリーはユリウスに謝るため、ベッドを降りてドアに向かった。
しかし、一歩踏み出したとしたところで飛び上がることとなる。
「うっわ、なんだこれ⁉︎」
触れる肌と肌の感触が今までと違う。
日に焼けた肌はそのままだが、農作業や森に入って依頼をこなすだけで手入れなんてしたこともなかったがさついた肌が、赤ん坊のようにしっとりなめらかな手触りになっている。
昨日とは違う肌の質感に驚き、腕や足、腹回りを撫でると、どこもかしこもそんな状態だ。
香油を塗るだけでこんなに変わるものなのだろうか。
にわかには信じられない。
驚くのはそれだけではない。
あれだけ痛かった体が軽くなっている。
一番痛みを訴えていた尻も、もうなんともない。
香油を塗るとき、ユリウスがマッサージをしてくれていたからだ。
体のメンテナンスを任せろと自信たっぷりに宣言していたのは本当だったらしい。
(疑って悪かったな。これは二重の意味で頭を下げにいかなきゃ)
ライリーは再び歩き出し、肌が触れ合う感触を堪能しながら自分の部屋を出て、隣にあるユリウスの部屋の前までやってきた。
ノックをしようとして思い至ったのは、今が何時なのかということ。
外は薄らと明るくなってはいるが、秋になりかけのこの時期だとまだ早朝の時間だ。
(朝早くに訪ねること自体、失礼だよな……)
ノックしようとした右手を上げたまま固まっていると、不意にがちゃりとドアが開いた。
「おはよう」
出てきたユリウスはすでに身支度を整えた格好だった。
全身黒色の服なのに男前は変わらない。
顔面がいいやつは何を着ても関係ないらしい。
「おはよう。起こしたか?」
「いや、俺もいつもこれくらいに起きるから。どうした?」
「昨日、俺、風呂場で寝落ちしただろう? 服まで着せてもらった上に部屋に運んでもらったみたいだし。迷惑かけてごめん」
「いいよ。慣れない移動の後に王族と話して疲れないわけないだろ。気にしていない」
ライリーが頭を下げると、ユリウスは手を振ってそれを許した。
ユリウスの顔には、朝に似つかわしい爽やかな微笑が浮かんでいる。
言葉のとおり、気にした様子は一切ない。
あと九ヶ月も共に過ごすというのに、初日から醜態を晒し、迷惑をかけてしまった。
ユリウスと険悪にならずに済み、ライリーは胸を撫で下ろした。
「ありがとう。あと、体のメンテナンスも。肌スベスベだし、体も軽くなってるしびっくりした」
「ちゃんとできるって言っただろ」
「そうなんだけどさ。その、ごめん」
悪いのは疑っていたライリーだ。
それは素直に認める。
だからこそ、きちんと謝った。
しかし、ユリウスは微笑から一変、眉間に皺を寄せ、視線は斜め下の床に。
口を尖らせ、わざとらしく拗ねてみせた。
(ええ、この人俺より歳上のはずだろ? チビたちみたいな顔して拗ねているな)
それが可笑しくて、ライリーの表情筋がピクピクと動く。
思いっきり笑いたい。
だが、ここで笑ってしまえば、もっとややこしいことになりそうだ。
ライリーは口内の頬肉を吸い寄せ、それを歯で噛むことで、込み上げてくる笑いを堪えた。
「やっぱり信じてなかったんだな。あーあ、じゃあ昨日のお詫びも兼ねて鍛錬付き合ってくれよ。また手合わせしたかったんだ」
そして、ユリウスはチラリと視線をライリーに寄越してきた。
これはお詫びというより、単純に手合わせがしたいだけのように思える。
昨日の様子から、ハルデランでの奇襲が失敗に終わり随分と臍を噛んだようだ。
ユリウスとしてはリベンジしたいのだろう。
ライリーは努めて真面目な顔を作り、ユリウスの恨めしそうな視線を受け止める。
「それはもちろん。精一杯、相手させてもらうよ。でも俺、身支度もまだだから待っててくれるか」
「ああ、部屋の前で待っている」
ユリウスの顔が、パッと明るくなった。
ご機嫌取りは成功したようだ。
ライリーは部屋に戻り、急いで身なりを整え、ジャクソンから渡された冒険者の装備を腰に巻く。
それから忘れずに鍵を持ち、再び部屋のドアを開けた。
ミルキーホワイトの天井。
夜空を彷彿とさせる紺青色のカーテン。
その隙間から弱い光が室内に差し込んでいる。
いつもより広い部屋と、見慣れない家具。
(ここ、どこだ⁉︎)
慌てて飛び起きたが、はたと我に返った。
「あ、そっか」
ここは王家の影たちが住む屋敷の中にある、昨日からライリーの部屋になった場所だ。
ユリウスに連れられ、初めて入った時と寸分変わらない景色を眺めて思い出した。
しかし、自分でこの部屋に戻ってきた記憶がない。
ライリーは目を眇め、昨晩のことを思い出す。
すると、記憶はするすると浮かび上がってきた。
ユリウスと共に風呂に入り、脱衣所に戻ると、彼に香油を塗ってもらったり、ドライヤーを掛けてもらったりしたのだ。
それからの記憶がないということは、その途中で寝てしまったということ。
(嘘だろ……?)
ライリーは孤児院にいた時から警戒心が強いと自負していた。
冒険者ギルドに出入りするようになってからは、ますますそれが顕著になったと思う。
それが、疲れていたとはいえ寝落ちしてしまうなんて……。
だがそれよりも、ユリウスにここまで運んでもらったことに動揺した。
あの時、ライリーはパンツしか穿いていなかったはずだ。
つまり、ユリウスに服を着せてもらった上で、ここまで運ばれたということ。
そんなこと、会って二日の相手にしてもらうことではない。
(やばいッ、恥ずかしい……! けど、早く謝らないと!)
ライリーはユリウスに謝るため、ベッドを降りてドアに向かった。
しかし、一歩踏み出したとしたところで飛び上がることとなる。
「うっわ、なんだこれ⁉︎」
触れる肌と肌の感触が今までと違う。
日に焼けた肌はそのままだが、農作業や森に入って依頼をこなすだけで手入れなんてしたこともなかったがさついた肌が、赤ん坊のようにしっとりなめらかな手触りになっている。
昨日とは違う肌の質感に驚き、腕や足、腹回りを撫でると、どこもかしこもそんな状態だ。
香油を塗るだけでこんなに変わるものなのだろうか。
にわかには信じられない。
驚くのはそれだけではない。
あれだけ痛かった体が軽くなっている。
一番痛みを訴えていた尻も、もうなんともない。
香油を塗るとき、ユリウスがマッサージをしてくれていたからだ。
体のメンテナンスを任せろと自信たっぷりに宣言していたのは本当だったらしい。
(疑って悪かったな。これは二重の意味で頭を下げにいかなきゃ)
ライリーは再び歩き出し、肌が触れ合う感触を堪能しながら自分の部屋を出て、隣にあるユリウスの部屋の前までやってきた。
ノックをしようとして思い至ったのは、今が何時なのかということ。
外は薄らと明るくなってはいるが、秋になりかけのこの時期だとまだ早朝の時間だ。
(朝早くに訪ねること自体、失礼だよな……)
ノックしようとした右手を上げたまま固まっていると、不意にがちゃりとドアが開いた。
「おはよう」
出てきたユリウスはすでに身支度を整えた格好だった。
全身黒色の服なのに男前は変わらない。
顔面がいいやつは何を着ても関係ないらしい。
「おはよう。起こしたか?」
「いや、俺もいつもこれくらいに起きるから。どうした?」
「昨日、俺、風呂場で寝落ちしただろう? 服まで着せてもらった上に部屋に運んでもらったみたいだし。迷惑かけてごめん」
「いいよ。慣れない移動の後に王族と話して疲れないわけないだろ。気にしていない」
ライリーが頭を下げると、ユリウスは手を振ってそれを許した。
ユリウスの顔には、朝に似つかわしい爽やかな微笑が浮かんでいる。
言葉のとおり、気にした様子は一切ない。
あと九ヶ月も共に過ごすというのに、初日から醜態を晒し、迷惑をかけてしまった。
ユリウスと険悪にならずに済み、ライリーは胸を撫で下ろした。
「ありがとう。あと、体のメンテナンスも。肌スベスベだし、体も軽くなってるしびっくりした」
「ちゃんとできるって言っただろ」
「そうなんだけどさ。その、ごめん」
悪いのは疑っていたライリーだ。
それは素直に認める。
だからこそ、きちんと謝った。
しかし、ユリウスは微笑から一変、眉間に皺を寄せ、視線は斜め下の床に。
口を尖らせ、わざとらしく拗ねてみせた。
(ええ、この人俺より歳上のはずだろ? チビたちみたいな顔して拗ねているな)
それが可笑しくて、ライリーの表情筋がピクピクと動く。
思いっきり笑いたい。
だが、ここで笑ってしまえば、もっとややこしいことになりそうだ。
ライリーは口内の頬肉を吸い寄せ、それを歯で噛むことで、込み上げてくる笑いを堪えた。
「やっぱり信じてなかったんだな。あーあ、じゃあ昨日のお詫びも兼ねて鍛錬付き合ってくれよ。また手合わせしたかったんだ」
そして、ユリウスはチラリと視線をライリーに寄越してきた。
これはお詫びというより、単純に手合わせがしたいだけのように思える。
昨日の様子から、ハルデランでの奇襲が失敗に終わり随分と臍を噛んだようだ。
ユリウスとしてはリベンジしたいのだろう。
ライリーは努めて真面目な顔を作り、ユリウスの恨めしそうな視線を受け止める。
「それはもちろん。精一杯、相手させてもらうよ。でも俺、身支度もまだだから待っててくれるか」
「ああ、部屋の前で待っている」
ユリウスの顔が、パッと明るくなった。
ご機嫌取りは成功したようだ。
ライリーは部屋に戻り、急いで身なりを整え、ジャクソンから渡された冒険者の装備を腰に巻く。
それから忘れずに鍵を持ち、再び部屋のドアを開けた。
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