悪役令嬢扱いされて婚約破棄&国外追放された私ですが、最強種に見初められたので世界を統べる覇王を目指します

倉橋 玲

文字の大きさ
4 / 59

プロローグ 4

しおりを挟む
 淡々と放たれるアルマニアの言葉に、今度は小夜が声を上げた。
「違うよアリィ! そんなの間違ってる! あの事件でそれをしたら、あの街の人々は皆死んでしまっていたもの! ひとつも諦めなかったからこそ、全員を助けることができたんだよ!」
 小夜の強い声に、しかしアルマニアは心底からの侮蔑を以って彼女を見た。
「サヨ、それはただの結果論よ。たまたまうまくいったから、たまたま全員救えただけ。たまたまうまくいかなかったら、街ひとつどころでは済まない損害が出ていたわ」
 隠そうとしても隠し切れなかった僅かな苛立ちを含んだその声に、小夜が小さく肩を震わせて押し黙る。別に、内容に思い当たる節があっただとか、そういう訳ではない。ただ単に、アルマニアのあまりに冷たい声に怯えてしまっただけだ。
 そんな小夜の肩を優しく抱き寄せた皇太子が、汚物でも見るような目でアルマニアを見やって吐き捨てた。
「お前には心底から失望したぞ、冷徹女。お前のそれはな、等しく価値ある命に値段をつけろと言っているようなものだ。民を守り民を尊ぶべき皇族に、そのような大罪を犯せと言うのか、愚か者が」
 疑いようもなくはっきりと投げつけられたその言葉に、アルマニアの全身が燃え上がるように熱くなる。そして、とうとう耐えられなくなってしまった彼女は、皇太子をギッと睨みつけて叫んだ。
「ええ、そうです! 値段など到底つけられぬ尊き命のひとつひとつに、それでも値段をつけなさいと申し上げているのです!」
 公爵令嬢としての矜持も、令嬢に相応しい立ち居振る舞いも、何もかもをかなぐり捨てて、アルマニアは怒鳴った。怒りと失望と嫌悪と、そしてそれでも無様に残る僅かな期待とがあとからあとから溢れて、アルマニアの口から吐き出されていく。
「選ばなければならないときに迅速に選べるように、捨てなければならないときに僅かな迷いもなく捨てられるように! 己を含めたすべての命の価値を決め、天秤が傾く方を選び取る、それこそが国家を導く皇族の役目です! 英雄ではあれない私たちは、そうすることでしか国を守れない! 選べぬものを選ぶ責を担う覚悟すらなく、どうして国を率いることができましょうか!」
 皇太子も小夜も、驚いた顔をしてアルマニアを見ている。その呆けた顔にあるのは、いつでも冷静だったアルマニアが初めて見せる感情的な姿に対する戸惑い一色だ。アルマニアの言葉に対する気づきの素振りなど、欠片すらもない。そのことがまた、アルマニアの怒りを増幅させる。
「サヨが全てを救いたいとだだを捏ねるのはまだ判ります! 彼女は貴族としての教養を身に着けたこともなければ、何を背負っている訳でもない、ただの一般人ですもの! でも、殿下はそうではないでしょう! 幼い頃より第一位の皇位継承者として学び、父君である皇帝陛下の在り方を見てきて、それでもなおそんな我が儘を仰るのでしたら……!」
 そこで言葉を切ったアルマニアは、僅かな躊躇いののちに、それを振り払うように皇太子を見据えて叫んだ。
「っ、そんな夢追い人に務まる皇帝など存在しません! 皇位継承権の放棄を一考されてはいかが!?」
 喉の奥まで出かかっては無理矢理に飲み込み続けていた言葉を、アルマニアが吐き出す。それを聞いた皇太子は、呆気に取られたようにぽかんとした表情を浮かべたあとで、見る見るうちに顔に血を上らせて叫んだ。
「せめてもの情けとして、身支度を整えるための数日くらいは与えてやろうと思っていたが、もういい! 衛兵! 今すぐこの無礼な女を捕らえて国外まで追い出せ!」
 怒りも露わに言った皇太子に、小夜が慌てて制止の言葉をかけ、駆け付けた衛兵も戸惑ったように皇太子とアルマニアを交互に見る。しかし、それでも皇太子は発言を撤回しようとはせず、そんな彼に対して、アルマニアは咎めるように声を上げた。
「殿下! いい加減になさってください!」
「いい加減にするのはお前だ! 先の発言は皇族侮辱罪だぞ! そしてそれよりも何よりも、民を率いるだのなんだのと偉そうな口を叩いておきながら、その場の感情で僕に暴言を吐いて己の立場を危うくしているお前こそ、公爵家に生まれた者としての務めを放棄しているのではないか!?」
 言われ、アルマニアは開きかけていた口を閉じて押し黙った。皇太子の言葉の中に正しさを見出してしまった気がしたからだ。
 本当に民を慮り、この国の行く末を憂うのであれば、アルマニアはあそこで激昂してはいけなかったのではないか。自分を追い出そうとする皇太子を宥め、なんとしてでも公爵令嬢の立場を守らなくてはならなかったのではないか。必要ならば心にもない謝罪をしてでも、政に関われる地位にしがみつかなければならなかったのではないか。
 そんな考えがぐるぐると脳裏を巡り、しかしアルマニアは、大きく息を吐いてそれを否定した。
 皇太子は間違っているし、小夜の甘い考えも正しくはない。こんな夢見がちな二人に率いられる国は、きっといつか足元を掬われると、自信を持ってそう断言できる。ならば、誰かが言わなくてはいけないのだ。聖獣の登場により表立って小夜を批判する声は消え、アルマニアの父であるロワンフレメ公爵すらも、今ではアルマニアよりも小夜を皇后にと考え始めている。そんな中、それでも面と向かって誤りを誤りであると糾弾できるのは、もうアルマニアしかいなかった。
 だから、アルマニアは己の務めを果たしただけだ。もっと上手い立ち回りの仕方はあったのかもしれないが、十六歳の小娘であるアルマニアには、これが精いっぱいだった。皇太子が本気で自分の身分を奪って国外へ追放しようとしている今、強い言葉を使って性急に過ちを指摘するしかなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

悪役令嬢を断罪したくせに、今さら溺愛とか都合が良すぎますわ!

nacat
恋愛
侯爵令嬢リディアは、無実の罪で婚約者の王太子に断罪された。 冷笑を浮かべ、すべてを捨てて国外へ去った彼女が、数年後、驚くべき姿で帰ってくる。 誰もが羨む天才魔導師として──。 今さら後悔する王太子、ざまぁを噛みしめる貴族令嬢たち。 そして、リディアをひそかに守ってきた公爵の青年が、ようやく想いを告げる時が来た。 これは、不当な断罪を受けた少女が、自分の誇りと愛を取り戻す溺愛系ロマンス。 すべての「裏切られた少女」たちに捧ぐ、痛快で甘く切ない逆転劇。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...