【完結】夜遊び大好きショタ皇子は転生者。乙女ゲームでの出番はまだまだ先なのでレベル上げに精を出します

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二十章 最後まで夜遊び!!

511 忠臣誕生

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 フィリップが珍しく凛々しい顔で執務室に消えた直後……

「殿下が大声で何か言ってますね」
「ちょっと聞き取れないですね」

 ペトロネラとラーシュは前室の前で待機と言われていたのに、こっそり入って聞き耳を立てていた。気になるもんね。執事まで一緒にドアに耳をくっつけてるよ。

「まぁ頑張ってはくれているので、安心しました」
「ですね。殿下のことですから、何も言わずにすぐに出て来る可能性もありましたから」

 ドアや壁が厚すぎて聞き取れないなら仕方がない。2人はフィリップを応援するというより、ちゃんとやってくれてると感心する。
 執事もウンウン頷き、さっきあったフィリップの立派な振る舞いをハンカチ片手に語っていた。2人もビックリだ。

 フィリップが執務室に入ってから10分経過。3人が代わる代わる聞き耳を立てているとフィリップがずっと喋り続けていたから、必死に説得してくれてると感動だ。
 これならばと期待が高まった5分後。ちょうど聞き耳を立てていた執事が慌てて元の位置に戻り、ペトロネラたちにジェスチャーで外に出るように促した。

 その1分後ぐらいに肩を落としたフィリップが出て来た。結果は火を見るより明らか。
 執事の視線に気付いたフィリップは頭を数回振って失敗を伝える。その直後、顔を両手で叩いて前室から出て行くのであった。


「「殿下……」」
「ダメ。失敗した」

 外には暗い顔をしたペトロネラとラーシュ。フィリップは小声で簡潔に報告しただけで早足で歩いて行くので、2人も追いかける。

「まだ諦めるのは早いですよ」
「そうですよ」
「黙って。あとで話す」
「「……はい」」

 フィリップが皇帝の執務室に入った情報はすでに流れているから、ここには多くの目がある。フィリップは不機嫌そうに2人の言葉を制して歩き続ける。
 そうして中央館を出て、馬車を待っているとステファンが駆け寄って来た。

「殿下! どうなりましたか!?」
「うっさい。お前も馬車に乗れ。話はあとだ」
「はっ」

 ステファンも仲間に加えると馬車に乗り込み根城へ直行。その移動中もフィリップは一言も喋らずに帰宅した。
 フィリップを出迎えたカイサたちは「これも初めてだよね?」と考えているので国の一大事については何も聞かない。

 またしてもフィリップは地下牢に向かったので、これにはさすがに「上の部屋使えばいいのに」とか2人は喋ってた。

「結論から言うよ? 時間稼ぎも失敗した上に怒らせた」

 地下牢にてテーブルを囲んだところでフィリップの結果発表。全員、すでにわかっていたことだが、先程よりさらに表情が暗くなる。

「先程も言った通り、諦めるのは時期尚早かと」
「そうです。殿下の話には耳を傾けてくれるのですから、粘り強く説得を続けるべきです」

 だが、ペトロネラとラーシュは諦め切れない。奴隷制度廃止は帝国に大打撃を与えることはわかりきっているからだ。

「そう言われてもね~……ステファンはどう思う? あ、こいつ、僕の犬をやってるエッガース伯爵家のステファンね」

 話を振られたステファンは、自分でも自己紹介をして頭を下げてから答える。

「正直、皇帝陛下の説得は不可能かと。可能ならば、我々の意見にも耳を傾けてくれたはずです」
「それ、僕じゃダメって言いたいのかな~?」
「いえいえ。誰にも不可能だと言っている所存です」
「1人だけいたんだけどな~……天国からじゃ声は届かないよね」

 フィリップが天井を見上げると、全員に太上皇の顔が浮かんだ。

「では、これからどう対応したらよろしいのですか?」

 ペトロネラは思い出したかのように問いただす。

「やることはひとつだよ。皇帝に絶対服従。これしかない」
「奴隷制度廃止は、帝国に大きな傷を負わす行為ですよ? それを止めるのは、家臣として当然の行いです」
「全部わかってるって。でも、それを飲み込めと僕は言ってんの。いま、忠臣が全員いなくなったらどうなる? 奴隷解放後はパニックだよ? 誰がその騒乱を収めるの? 代官? 現地のことを知らないヤツに、民を押さえられるの? 民だって、知らないヤツの命令なんて聞かないよ」

 フィリップは言葉を切ると周りを見る。ペトロネラとラーシュはめちゃくちゃ驚いた顔をしてます。馬鹿だと思っていたフィリップが賢いこと言ってるもんね。

「だから、全ての公爵家には、先陣を切って賛成派に入ってもらいたい。そして、有能な貴族や領主を説得して回ってほしい。そうでもしないと、何千万人と死ぬ。だからお願い……」

 フィリップはおもむろに立ち上がると頭を下げた。

「2人は全ての公爵家を口説き落として。僕の声では、誰も耳を傾けてくれないの。お願いします」
「「殿下……」」

 皇子が真摯に頭を下げているのだ。馬鹿と言われ続けたフィリップらしからぬ態度だ。2人の目にもフィリップが初めて皇子に見えたのか、自然と膝を折るしかなかった。

「はっ。このペトロネラ・ローエンシュタイン。身命を賭して全ての公爵家を口説き落としてみせます」
「同じく、このラーシュ・ファーンクヴィストも殿下の命、謹んでお受けします」
「うん。頼んだよ」
「「はっ!」」

 ひざまずく2人に加えてステファン。人数は3人と心許ないが、初めてフィリップに忠誠を誓う家臣が誕生した瞬間であった……


 それからフィリップは、再びステファンを紹介して役割を発表。爵位剝奪事件からの付き合いで、裏で貴族にアドバイスしていたことはペトロネラたちも、かなり驚いていた。元騎士団長と元宰相も仲間にいるから尚更だ。
 役割は、今までと同じ。頭がペトロネラとラーシュに変わっただけで、ステファンと仲間たちが2人の名前を使って動くのだ。フィリップの名前は激安で使えないもん。

「最後に大事なことを言うよ? 奴隷解放が始まったら、平民と農奴の垣根はなくなる。全員、等しく人間だ。領主たちには同じ人間として扱い、1人でも多くの命を救う行動を徹底させてね」
「「「はっ!」」」

 くして、ペトロネラたちはフィリップの言葉に賛同して、影で動き回るのであった。


 その夜、フレドリク邸の屋根に小さな人陰があった……

「あ~あ……もう兄貴と聖女ちゃんを殺すしか手がないじゃ~ん。父上には殺さないって言ったのに~~~」

 それはもちろんフィリップ。夕方には人命優先みたいなことを言っていたのに、舌の根も乾かぬうちに皇帝夫婦暗殺にやって来たみたいだ……
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