511 / 522
二十章 最後まで夜遊び!!
511 忠臣誕生
しおりを挟むフィリップが珍しく凛々しい顔で執務室に消えた直後……
「殿下が大声で何か言ってますね」
「ちょっと聞き取れないですね」
ペトロネラとラーシュは前室の前で待機と言われていたのに、こっそり入って聞き耳を立てていた。気になるもんね。執事まで一緒にドアに耳をくっつけてるよ。
「まぁ頑張ってはくれているので、安心しました」
「ですね。殿下のことですから、何も言わずにすぐに出て来る可能性もありましたから」
ドアや壁が厚すぎて聞き取れないなら仕方がない。2人はフィリップを応援するというより、ちゃんとやってくれてると感心する。
執事もウンウン頷き、さっきあったフィリップの立派な振る舞いをハンカチ片手に語っていた。2人もビックリだ。
フィリップが執務室に入ってから10分経過。3人が代わる代わる聞き耳を立てているとフィリップがずっと喋り続けていたから、必死に説得してくれてると感動だ。
これならばと期待が高まった5分後。ちょうど聞き耳を立てていた執事が慌てて元の位置に戻り、ペトロネラたちにジェスチャーで外に出るように促した。
その1分後ぐらいに肩を落としたフィリップが出て来た。結果は火を見るより明らか。
執事の視線に気付いたフィリップは頭を数回振って失敗を伝える。その直後、顔を両手で叩いて前室から出て行くのであった。
「「殿下……」」
「ダメ。失敗した」
外には暗い顔をしたペトロネラとラーシュ。フィリップは小声で簡潔に報告しただけで早足で歩いて行くので、2人も追いかける。
「まだ諦めるのは早いですよ」
「そうですよ」
「黙って。あとで話す」
「「……はい」」
フィリップが皇帝の執務室に入った情報はすでに流れているから、ここには多くの目がある。フィリップは不機嫌そうに2人の言葉を制して歩き続ける。
そうして中央館を出て、馬車を待っているとステファンが駆け寄って来た。
「殿下! どうなりましたか!?」
「うっさい。お前も馬車に乗れ。話はあとだ」
「はっ」
ステファンも仲間に加えると馬車に乗り込み根城へ直行。その移動中もフィリップは一言も喋らずに帰宅した。
フィリップを出迎えたカイサたちは「これも初めてだよね?」と考えているので国の一大事については何も聞かない。
またしてもフィリップは地下牢に向かったので、これにはさすがに「上の部屋使えばいいのに」とか2人は喋ってた。
「結論から言うよ? 時間稼ぎも失敗した上に怒らせた」
地下牢にてテーブルを囲んだところでフィリップの結果発表。全員、すでにわかっていたことだが、先程よりさらに表情が暗くなる。
「先程も言った通り、諦めるのは時期尚早かと」
「そうです。殿下の話には耳を傾けてくれるのですから、粘り強く説得を続けるべきです」
だが、ペトロネラとラーシュは諦め切れない。奴隷制度廃止は帝国に大打撃を与えることはわかりきっているからだ。
「そう言われてもね~……ステファンはどう思う? あ、こいつ、僕の犬をやってるエッガース伯爵家のステファンね」
話を振られたステファンは、自分でも自己紹介をして頭を下げてから答える。
「正直、皇帝陛下の説得は不可能かと。可能ならば、我々の意見にも耳を傾けてくれたはずです」
「それ、僕じゃダメって言いたいのかな~?」
「いえいえ。誰にも不可能だと言っている所存です」
「1人だけいたんだけどな~……天国からじゃ声は届かないよね」
フィリップが天井を見上げると、全員に太上皇の顔が浮かんだ。
「では、これからどう対応したらよろしいのですか?」
ペトロネラは思い出したかのように問い質す。
「やることはひとつだよ。皇帝に絶対服従。これしかない」
「奴隷制度廃止は、帝国に大きな傷を負わす行為ですよ? それを止めるのは、家臣として当然の行いです」
「全部わかってるって。でも、それを飲み込めと僕は言ってんの。いま、忠臣が全員いなくなったらどうなる? 奴隷解放後はパニックだよ? 誰がその騒乱を収めるの? 代官? 現地のことを知らないヤツに、民を押さえられるの? 民だって、知らないヤツの命令なんて聞かないよ」
フィリップは言葉を切ると周りを見る。ペトロネラとラーシュはめちゃくちゃ驚いた顔をしてます。馬鹿だと思っていたフィリップが賢いこと言ってるもんね。
「だから、全ての公爵家には、先陣を切って賛成派に入ってもらいたい。そして、有能な貴族や領主を説得して回ってほしい。そうでもしないと、何千万人と死ぬ。だからお願い……」
フィリップはおもむろに立ち上がると頭を下げた。
「2人は全ての公爵家を口説き落として。僕の声では、誰も耳を傾けてくれないの。お願いします」
「「殿下……」」
皇子が真摯に頭を下げているのだ。馬鹿と言われ続けたフィリップらしからぬ態度だ。2人の目にもフィリップが初めて皇子に見えたのか、自然と膝を折るしかなかった。
「はっ。このペトロネラ・ローエンシュタイン。身命を賭して全ての公爵家を口説き落としてみせます」
「同じく、このラーシュ・ファーンクヴィストも殿下の命、謹んでお受けします」
「うん。頼んだよ」
「「はっ!」」
跪く2人に加えてステファン。人数は3人と心許ないが、初めてフィリップに忠誠を誓う家臣が誕生した瞬間であった……
それからフィリップは、再びステファンを紹介して役割を発表。爵位剝奪事件からの付き合いで、裏で貴族にアドバイスしていたことはペトロネラたちも、かなり驚いていた。元騎士団長と元宰相も仲間にいるから尚更だ。
役割は、今までと同じ。頭がペトロネラとラーシュに変わっただけで、ステファンと仲間たちが2人の名前を使って動くのだ。フィリップの名前は激安で使えないもん。
「最後に大事なことを言うよ? 奴隷解放が始まったら、平民と農奴の垣根はなくなる。全員、等しく人間だ。領主たちには同じ人間として扱い、1人でも多くの命を救う行動を徹底させてね」
「「「はっ!」」」
斯くして、ペトロネラたちはフィリップの言葉に賛同して、影で動き回るのであった。
その夜、フレドリク邸の屋根に小さな人陰があった……
「あ~あ……もう兄貴と聖女ちゃんを殺すしか手がないじゃ~ん。父上には殺さないって言ったのに~~~」
それはもちろんフィリップ。夕方には人命優先みたいなことを言っていたのに、舌の根も乾かぬうちに皇帝夫婦暗殺にやって来たみたいだ……
21
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる