519 / 522
二十一章 おまけ
第二皇子、行方不明だってよ5
しおりを挟むフィリップが帝都から消えて2週間と数日。今日は根城にリネーア&コニーのモルダース夫婦が訪ねて来たので、カイサとオーセはエントランスで対応していた。
「ウフフ。殿下とボエルさんらしい話ですね」
リネーアたちはフィリップのことを心配していたが、仕事が忙しくて遅くなったと悔やんでいたので、カイサたちはとっておきの話を披露。
リネーアは大笑いとはいかなかったが、コニー曰く、久し振りにリネーアの笑顔を見たそうだ。
「リネーア様にもお手紙がありますよ。できる範囲でいいので内容を聞かせていただけると嬉しいです」
「殿下は私に対してはからかったりとかはしませんよ? コニーさんに対してはよくからかいますけど……」
「早く読んで! 殿下、ボクのこと書いてるかな!?」
「「「おそらく……」」」
リネーアに宛てた手紙だから、コニーのことを書いているかは微妙なところ。いつもフィリップがコニーのことを忘れていたから、コニーは食って掛かったけど、リネーアたちは断定はできなかった。
そのリネーアは手紙を読むと、2枚目に入ったところで少し険しい顔をした。しかしすぐに戻して、カイサたちに結果を知らせる。
「内容は、私を心配することばかりでした。昔、悪い貴族に酷い目にあったので、これから派閥に入る時は気を付けるようにと。殿下はけっこう心配症なんですよ」
「そうなんですか……ところでコニー様は?」
「コニーさん……ゴメンなさい」
「やっぱり!?」
「「プッ……クククク」」
思った通り、コニーの話はナシ。コニーが怒った顔をしているので、面白い話なのにカイサたちは笑うに笑えない。あまりコニーと接点ないもん。
しかしリネーアが「優しい人だから。笑ってあげて」と告げたら大笑い。2人もコニーのことが特徴がないと思ってたんだってさ。
カイサたちからフィリップの話を聞いたリネーアたちは、ホドホドで立ち去る。そうして馬車の中ではコニーが嘆いていたのでリネーアは慰め、宿舎の部屋に入るなり真面目な顔に変えた。
「さっきの手紙、本当はコニーさんのことも書いてたよ」
「え……じゃあ、なんで隠したの?」
「あの場ではできない話だったから……殿下はあの2人にも喋るなと書いていたの……」
フィリップの手紙の内容は、奴隷制度廃止による未来の出来事。皇帝に絶対服従しないと2人の実家は生き残れないとアドバイスが書かれていたのだ。
「こ、こんなこと、本当に起こるのかな?」
しかしコニーは半信半疑だ。
「コニーさんは知らないだけなの。殿下はすっごく賢い人だよ。たぶん今回姿を隠したのも、帝国を救うために必要なことなんだよ」
ただ、リネーアは第二皇子信者。命を救ってもらった恩があるから、フィリップの言葉は絶対なのだ。
「君がそういうなら信じるけど……ボクたちが言って親が言うこと聞いてくれるかな? 横領とかの話も、軽くあしらわれたし……」
コニーはリネーアラブ。話が早いが、そもそも2人は子爵家の子供であっても爵位を継げない位置にいたから発言権も低いのだ。
「そこはペトロネラ様とラーシュ様の家が後ろ楯になってくれると書いてある。私たちの考えなんて、殿下は見通しているのよ」
「公爵家なら、確かに親も耳を傾けてくれるね」
「うん! やるしかないよ! 国のことは殿下に任せて、私たちは家を。ひいては民を救いましょう!!」
「おう! もう勅令は出てるはずだ。急ごう!!」
斯くしてリネーアとコニーは、仕事を休んでまで親を説得しにお互いの故郷に向かうのであっ……
「ところでなんだけど……なんで殿下の名前を出してはダメなんだろう?」
「殿下は……殿下なんで……」
「そういうことか……」
第二皇子より公爵家のほうが信頼は上。いくらフィリップを神のように慕っていても、そのことはけっして間違わないリネーアであったとさ。
フィリップが消えてから2週間と数日、とある薬屋では……
「ペトロネラ様が言った通り、私にも指示がありました」
ラーシュとペトロネラが秘密裏に会っていた。ステファンもいるよ。
ラーシュとペトロネラが時間を空けて根城を訪ねたのは全公爵家の説得に走り回って忙しかったこともあるが、一番はフレドリクに睨まれないため。フィリップなら何か指示を残しているのではないかと予想して取りに行ったのだ。
「内容はどうなってます?」
「前の指示と似てます。違う点は、脅してでも貴族を皇帝陛下に絶対服従させろと。大恐慌が始まるから麦を早めに買っておけとも書いてありました。あと、3年後の春に戻るとも」
「私とほぼ同じ内容ですね。私には殿下の元侍女の家を必ず説得して生き残らせろと書いていたわ。両家でモルダース家の後ろ楯になれとも。それとステファンには手紙は用意してないから期待するなですって」
「ははは。そうですよね……」
2人は内容を摺り合わせると、同席していたステファンをかわいそうな目で見た。フィリップと一番長く活動していた人に一言もないんだもの。ステファンも苦笑いだ。
「皆は、もう勅令書は読みましたか?」
ここはペトロネラが司会をして話を逸らした。
「はい……かなり厳しいですね……」
「私の仲間も、やってられるかと怒っていました」
「そうなりますよね。ですが、陛下に逆らえばより多くの死者が出ます。殿下が戻るまで、なんとか耐えましょう!」
「「はいっ!!」」
斯くしてペトロネラたちは、皇帝と第二皇子の争いの裏で、ヒッソリと戦い続けるのであった……
一方、薬屋の1階では……
「店長……どうしてウチの店に偉そうな人が集まるのですか?」
「さあ? ライアンさんが隠し部屋を貸してくれと大金を置いて行っただけだから、私も知らない」
「これ、何かヤバイことに巻き込まれてません?」
「そう思うよな~? やっと自由に商売できるようになったのに、またビクビクして暮らさないといけないのか。はぁ~……」
ペトロネラや知らない貴族が隠し部屋を使わせてくれと度々現れるので、薬屋のボヤキは止まらないのであったとさ。
一方、その頃のフィリップはというと……
「毎日毎日、こんな所で何をなさっていますの?」
「暇だから、ちょっと……」
「わたくしたちばかりに働かせておいて、よく暇だなんて言えましたわねぇぇ~~~?」
「なんかすいません!!」
悪役令嬢ことエステルの実家に寄生しているのに働きもしないので、ババチビルほど恐ろしい顔で怒られていたのであったとさ。
*************************************
これで本当に最後です。
ですがぁぁ!
「悪役令嬢と手を組みます! by引きこもり皇子」のほうが、ちょっとだけ復活します。
フィリップが大陸制覇しちゃいますよ~?
そちらは明日から一日置きで更新しますので、お楽しみに~。
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる